題名 : 壊れた時間の先に・・・



第12話 : 壊れた時間・・・





そして全てが闇に包まれた・・・。




俺が使った最後の切符・・・。


3枚有った・・・最後の切符・・・。





一度目は「自分の愛する街」を守るため・・・。





二度目は自分の力不足で『失われそうだった命』を守るため・・・。




そして、今回・・・三度目の切符・・・。


守るべき「大事な者」を守るため・・・。





この魔剣を使う時は決まって『闇』に包まれる・・・。


視覚、聴覚、嗅覚、更に痛覚を奪われ、ただただ・・・流れる水に身を任せる木の葉の様に・・・誰かに踊らされる操り人形の様に・・・



動いている事は解る。


斬っている事は解る。


戦っている事は解る。

でも・・・

何も見えない・・・。


何も聞こえない・・・。


何も匂わない・・・。


戦っているであろう、今の俺の迅疾な動き・・・。

脊髄を無理矢理、限界以上に曲げ拉げ、髄液が漏れるかも・・・とも思える異常な動作・・・。

全ての感覚が機能している時であれば、肉体に住まう細胞の全てが悲鳴を上げる動作だろう・・・。



そこまでは解るが・・・それ以外は何も解らない・・・。感じない・・・。


そうだ・・・おれは・・・魔剣を使った時・・・いつも・・・何も解らないまま・・・勝利してきた・・・。





一度目の賞賛・・・


『すげぇよ!!さすがはセイルさんの息子だよ!!!』




何が・・・?



親父の事なんて関係ない・・・。ただ、俺は・・・『ズル』をしたに過ぎない・・・。



誰もが存在を知らなかった『魔剣』を使っただけ・・・。





二度目の賞賛・・・


『あれだけのドラゴンの群れをたった一人で退けるなんて、さすがは「白銀の勇者」様でございますね!!!』



『白銀の勇者』・・・?


俺はそう呼ばれるに相応しくはないさ・・・。


ボロボロになり、怯える少女を一人の力では救う事すら不可能だったんだ・・・。

軍務でジルドカーンという街へ行く途中に遭遇した、たった一人の少女さえもな・・・。

気が付けば全てを燃やし壊し尽くされ、龍と人の屍骸(しがい)が散らばる「死街(しがい)」に只一人、立っていただけ・・・。




そうだ・・・おれは・・・『白銀の勇者』なんて呼ばれるには相応しくはない・・・。




闇を全身に纏い、魔剣の力を利用しただけだ・・・。

「この姿」で戦う時、両足だけでは可能にならないスピードを補うために「左手」を足代わりに『三本足』で戦っている・・・。


残った右手に持たれた刃はまるで獣の持つ「爪」の様な扱いで縦横無尽に「対象」を斬り刻む・・・。


寸分の隙を見せない動きに世界が回る・・・。

寸分の隙を逃さない為に俺の世界が『時間』を掻き消す・・・。


熱気を避け、気概を避け、『蟲』の様に地面を這い、敵の懐へとかいくぐり斬撃を見舞う・・・。


こんな俺の戦い方が「白銀の勇者」と呼ばれるに相応しいわけはない・・・。






だが・・・・俺は・・・・この『蠢き(うごき)』に頼ってきた・・・。



誰にも「剣技」を教わる事が出来なかった俺の手本は、そう・・・この蟲の様な動作だ。



脆弱な俺が追いかけた蠢きは無駄が全く無く、敵を殲滅する為の理を網羅している。



そうだ・・・俺の戦闘における理は常に、「魔剣」に支配されている・・・。




『時間』が経つにつれ、少なくなっていく「敵の攻撃」・・・。俺は間もなく、「魔剣の力」によって勝利する。




強大な力を用いた末路は「魂の消滅」だが・・・俺は無痛のままに消えていくのだろう・・・。




しかし痛覚のない今の俺にも少しだけだか感じ取れる・・・。




嗚呼・・・俺の・・・俺の体が消えて無くなっているのが・・・感じ取れる・・・。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






・・・・・・・・・・・・・・・







マリアージュ「は・・・ははは・・・ま、まさか「カオスドラゴン」が・・・負けるなんて・・・」


凄惨ともいえた蒼に光る部屋。

腐敗した肉の匂いで包まれていた空間が今は「新鮮な生臭さ」で支配されていた・・・。

飛び散った血肉は先ほどよりも多く散乱し、部屋中を覆い尽くしている。

呆然と戦慄の結末を目の当たりにする全員は、ただただ放心するしかできなかった・・・。



hidechi「す、すごい・・・こ、こんな人智を超えた戦いを目の当たりにするなんて・・・」




コーカサス「ぐ・・・ぐぅぅ・・・・・・」



☆miyabin☆「し、しかし・・・この結末は・・・・」





B10「う・・うぅぅ・・・『龍喰い』さん・・・。」


カオスドラゴンを「血肉」に変えた「蟲の様な外殻を持つ剣士、龍喰い」さん・・・。

その外殻は触れるだけで私の体を傷つけるが、そんな痛みは今の私には大した痛みに思えない・・・。


戦いを終えた『龍喰い』さんをグッと両腕で抱き寄せて、私は涙を流す事しかできなかった・・・。

今にも消え入りそうな命の火・・・。龍喰いさんは戦いの結果、左腕を「カオスドラゴン」に食い千切られ、下腹部と右足まで奪われた。



私の回復魔法「キュア」をこのまま掛けるだけでは、肉体を消失した龍喰いさんを助ける事は出来ない・・・。

私は・・・てりりを助ける事は出来ない・・・?



ずっと私を守ってくれてた・・・。

この数日だけの話ではない・・・。

そう、今でもいつも夢に見るあの人・・・。




この「外殻」を忘れるはずもない・・・。


私が子供の頃、「ドラゴンフライ」に襲われた時に助けてくれて女の人・・・。



龍喰い「クゥゥ・・・勝て・・たの・・・?」

カオスドラゴンの亡骸に赤く光る眼を向ける。

B10「龍喰いさん!!!大丈夫!?てりりッ!!しっかりして!!!」

龍喰い「・・・大丈夫・・・だった?恐かった・・・でしょう?」

外見とは裏腹に優しさを内在した美しい声。

他の誰よりも苦しいはずなのに・・・・

あまりに深い優しさ・・・。

それに対して体の奥から声を上げるだけで何も出来なかった情けない私。


私達を守ってくれた大事な人・・・今、その人を前に悲観に暮れるだけしか出来ないの・・・?



マリアージュ「ヤッてくれたわね・・・。一度ならず二度マデモ・・・。」


!!!

憤怒に震え、狂気が響く・・・。

全てを奪われた特級賞金首が爬虫類の様に瞳孔を細め私達を睨み付ける!

マリアージュ「ヨクモ私の大事なカオスを・・・又、アナタハ私ニ無力へ還れト言うノ?」

龍喰い「何を・・戯言を・・・?貴女が奪ってきた多くの・・・魂は・・・貴女の力の糧じゃない・・・。」

マリアージュ「許さナイィィ・・・。キサマだけはァ・・・キサマラだけワァ〜〜〜ゼッタイニィ〜〜〜〜〜〜・・・」


自我を忘却したマリアージュは身を仰け反らせて狂気にうねる。




でも、龍を失ったマリアージュの力は私の1/2にも満たない・・・。




そうよ!!もうここで貴女の時間は潰えるだけ。


マリアージュ「ゼッタイ・・・ニ、ユルサナァァァイッ!!!!!」





B10「な、なにっ!?」

龍喰い「ぐっ!?」

hidechi「うっ?うわぁっ!?」


マリアージュが残り全ての魔力を用いて大閃光を打ち放つ!

不意に襲われた視覚は機能を奪われ、マリアージュの姿が光の中へと消えてしまった!!




「グチャリ・・・」






ほんの数秒・・・


「グチャ・・・」


不意に・・・


「グチャ・・・グチャ・・・」


目を逸らしただけだった。





「グチュ・・・グチャ・・・ムグッ・・・グチャ・・・・」



誰かが・・・




「グチュ・・・ブチッ・・・グッチャ・・・グッチャ・・・」




何かを・・・



「グチュ・・・ゴクッ・・・グッチャ・・・グッチャ・・・」




食(ハ)む音が・・・。





「グチャ・・・ゴクン・・・。」



食む音が聞こえるッ!?


マリアージュ「クフフフフフ・・・・ア〜〜〜ッハッハッハッハ・・・なんでモット早くこうしなかったのかしら・・・。

全てを奪われるくらいなら・・・いっそ最初からこうしていれば良かった!!」


僅かに戻る視界の向こうに見えるのは・・・両手に何かを持って高笑うマリアージュの姿・・・。


その口元は黒い涎で穢れている。

頬から顎を通り、滴り落ちるだらしない黒い涎。


龍喰い「ま、まさかマリアージュッ!?」

B10「えっ!?そ・・・そんなッ!?」


その両手には・・・さっき龍喰いさんが倒したカオスドラゴンの肉片が持たれている!?


ま、まさか・・・そんな・・・?




コーカサス「き・・・キサマ・・・・・・」



☆miyabin☆「た、食べたのですか?・・・カ、カオスドラゴンの肉をッ!?」

マリアージュ「フフフフ・・・・言ったでしょう?私は貴方達を許さないって・・・。」

黒い息を吐き出し不適に笑むマリアージュは最早私達に眼の焦点が合ってはいない。

ぐらりと体を揺らしながら、体中から鈍い音をゴキゴキと打ち鳴らすがあまりに痛々しく不快。

辺りに飛び散っていたカオスドラゴンの全ての肉片は再度、マリアージュを媒体にしようと集まっていく。

カオスドラゴンの闇が龍へと堕ちるマリアージュに手を貸している!!

無理に接続されている関節は無痛のまま外れ、肉体は急激に異形化・・・皮膚が黒い鱗で覆われていく。

hidechi「そ、そうまでして・・・勝利への執念を燃やすとは・・・」

マリアージュ「全てはカオスを奪った憎きキサマラを消すため・・・本来なら龍になれば自我が消滅するけど・・・

龍の神経を支配する私の能力は消えはしない・・・。

これで・・・カオスドラゴンの血と力をそのまま受け継ぐ理性を持ったドラゴンの誕生よォォ〜〜〜〜〜ッ!!!」


吐き気がするほど何処までも、何処までも醜い姿。

目の前の生物はもう人の姿など思い返すことも出来ないほどトカゲに近い。

でも、最も醜いのは「本能」でしか物事を思考する事ができないケダモノの域まで堕ちたその精神。

マリアージュは最早、魔物ですらなく心身ともに一介のケダモノになったのだ。

B10「!!」


龍喰い「グゥゥ・・・」


想像だにしていなかった展開に龍喰いさんの体が打ち震える。


腕を失い、命まで賭けて倒したカオスドラゴンなのに、再度復活するなんて・・・。


龍喰いさんの奪われた腕や足をキュアで回復させるにはどうしてもマリアージュから「体」を取り戻さなければならない!!


でも私達は・・・マリアージュを相手にどう戦えばいいの!?








龍喰い「まさか・・・私の力が及ばないまま・・・消えるなんて・・・・」



ふと、龍喰いさんから洩れる・・・。




B10「りゅ、龍喰いさん!!しっかりして!!しっかり・・・!!!」





その一言を最後に、龍喰いさんは意識を遠ざけていった。





龍喰い「・・・・・・・・・」














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







・・・・・・・・・・・・・






・・・・・・








__そろそろか?






__俺の命は魔剣に奪われるはず・・・









__なのになんだ?さっきから止まらないこの胸騒ぎは?










__過去に二度、完全な勝利を収め信頼しうる威力を持つ魔剣の筈なのに・・・






__なぜ、この胸騒ぎが止まらない?






『三度、汝の欲は叶えた・・・。』






__!!






『汝の欲、滅するべきカオスドラゴンは最早、現世にその命はあらず・・・。』







__そうか・・・じゃぁ・・・みんなは助かったということか・・・。









『・・・・・・・』




__これで俺は思い残す事無く、この世を去れる。





『汝の逝き先、我に委ねたり・・・。』





__ああ・・・そうだな・・・。







『・・・・・・・・』







__??








『一つ問う・・・。汝がその様は・・・なんだ?』







__どう言う事だ??







『今まで我を手にした剣士は18名・・・。その全ては汝が如く堂々たる者共ではなかった・・・。』




__・・・・・・。





『ある者は自らの真欲の為、他の強者を殺し・・・最後は毒殺され醜く、果てていった。』





__・・・・・・。




『又ある者は三度を恐れ、我を手放した結果・・・凌駕した威力の前、無力に滅んだ・・・。』





__・・・・・・・・・






『我を使うが者共は、皆・・・三度を恐れ、最後は醜く果てていく。何が汝をそうさせる?』





__ははははは・・・・









『・・・・・・・・』







__俺の命をただ欲しがっている魔剣と思っていたが・・・











『・・・・・・・・』









__そんな簡単な答えを聞いてくるとは、思っていなかったぜ・・・。








『・・・・・・・・侮辱・・・』





__・・・・・・・・・・










『・・・・・汝、地獄の果てに・・・堕つるがよい!!!』









__あぁ・・・







__アイアン・シェフ・・・








『黙れ、我は「名も無き魔剣」!!汝に「アイアン・シェフ」などというふざけた名前を付けられしは不愉快極まりない!!』







__ふふふ・・・






『絶命の淵に未だ笑うその余裕・・・我が呪怨の前に魂、尽きるまで苦しめ!!!』










___・・・・・今まで・・・







『・・・・・・?』








__ありがとうな・・・。







『 !? 』









__何も出来なかった俺に一度目・・・龍を倒す力をくれた・・・。








『・・・・・』









__ジルドカーンの時、小さな女の子を助け、寸で間に合わなかったが大群の龍を退ける力をくれた・・・。




『・・・・・・・・・・』






__お前の動きの全ては俺の体に記憶され、魔剣を使わない時でも相応に戦えるようになれた・・・。

__お前は常に・・・俺を助けてくれた・・・。





『・・貴様・・・・・・』





__俺の望みを叶え続けてくれたお前を憎みはできないし拒みもしない・・・。お前が居たから俺はここまで来れたんだ。

__だから、『二度目の後』、お前に名前を付けた・・・「鉄のように硬い運命すらも切り開いてくれる」ってことでな・・・。






『・・・・・・・』







__さらばだ、アイアン・シェフ。確かにお前は『魔剣』だ・・・だけどな・・・他の誰に魔剣と呼ばれようと・・・








『・・・・・・・』











__俺にとっては唯一の・・・聖剣だった・・・。








『 !!! 』










__・・・・・・・・・









『・・貴様・・・・我を・・・聖剣と呼ぶか・・・』







__・・・・・・






『・・・・貴様は私を・・・聖剣と呼ぶのか・・・?』









__・・・・?









『あなたは・・・・わたしを・・・・』












__な・・・に・・・・?











『聖剣と・・・呼んでくれるのね・・・。』








__お、女の声ッ・・・!?












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








・・・・・・・・・・・









白い空間から意識が遠のいていく・・・。




ゆっくりと浮かび上がるような感覚に身を任せながら時間が過ぎていく・・・。




あたかも羽に包まれたようで暖かく心地良い。このまま最高の気分であの世へと旅立つのだろう・・・。









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








・・・・・・・・・・・









と、思いきや!!


テリィ「ガァッ!?」


思いがけない激痛で意識がハッキリとしていく。不明の激痛は左腕に腹部・・・。息を大きく吸おうにも頭の先まで痺れそうな腐臭がそれを遮る。

痛みに声を大きく上げようとしても体中の激痛がそれを拒み、果ては暴れようにも体の動作を邪魔する『何か』が地面に引っかかり動くことさえ間々ならない。突飛な状況に脳内が混乱で支配される。

い、一体何がどうなっているんだ?

揺らぐ視界は遠目に数人の剣士を映し出す。その背後に白い法衣を着た魔法使い・・・。


こ、これはhidechiによく知らない二人の剣士・・・それとB10??


マリアージュ「あははは・・・ヨワイ・・・ゼイジャク・・・ドンダケェェー・・・」


!?



何だ?マリアージュの声が遥か上方から聞こえてくる?

そういえばhidechi達の周りにマリアージュの姿がない?一体・・・この状況は・・・?


B10「風の命にその魔力を集い、大きく貫け!!ウィンリィー・ショットッ!!」



あれはB10の魔法の中で最も威力が高い風の魔法・・・?だが、何をしているんだ?何故、洞窟の天井に向かって魔法を打ち放つんだ?

大きな轟音を立てながら天上に向かう風の威力で、周囲を張り巡っていた腐臭と煙が晴れていく・・・。

すると魔法が命中した先、俺がてりりの姿をしていた時に対峙したカオスドラゴンの姿が青白く映し出された!!

い、いや・・・俺が対峙していた時よりも遥かに強靭な姿に変貌している?


マリアージュ「シャァーーーーーーッ!!!」

洞窟中が大きく響くほど唸り声を上げながら腕を振りかぶると獰猛な爪をhidechiたちに振り下ろす。

間一髪、それを凌ぐ剣士達だがその体力は確実に削られている・・・。

だが、それよりも気になったのはカオスドラゴンの爪だ。

さっきまでは黒い腐臭を放っていた毒属性の爪なのに、今は一つ一つが黄色の薄い光を放っている。

あ、あれはたしか・・・。


マリアージュ「素晴らしいッ!!流石は『ルーンドラゴンの爪』!!破壊力がチガウ!!」

そうだッ!!こいつは俺がこの龍深の洞窟で倒したルーンドラゴンの爪じゃないか!!

このマリアージュの声を発するドラゴンは『カオスドラゴンとルーンドラゴンの獰猛な外殻』を併せ持っている!?

一体、何がどうなればこんな「不思議生物」が爆誕するんだッ!?


????????『あれはカオスドラゴンの肉を食べたマリアージュ・・・。』


テリィ「なっ!?この声は・・・?」


声を上げることが出来ない俺の脳に綺麗な声が直接響いてくる。

目を覚ます前、最後に聞いた女の声!!



????????『更には「ルーンドラゴンの宝玉」を呑み込んで遺伝子情報まで吸収した姿よ・・・。』



テリィ「そ、それじゃ・・・カオスは倒せても、それ以上に強大な敵が現れたって事かよ?アイアン・シェフ?」


アイアン・シェフ『そう・・・私はあなたとの『三度目の約束』は果たしたけど、それ以上の敵が現れてしまった。』


じょ、冗談じゃない!!このままじゃB10達が助かると思って差し出した俺の命が無駄に終わるだけじゃないか!!

意識があるなら俺も参戦して・・・



アイアン・シェフ『無駄よ・・・。あなたの体はもう動かない・・・。』


アイアン・シェフの言葉は正しかった。

いくら脳から「動け」と命令を送っても体は一切の信号を受けてはくれず指一本を動かす力すら無かった。

未だ意識を保ち、B10達を見つめていることすら不思議な状態だ。

何も出来ないまま地に這い蹲っているだけ・・・?こ、こんな・・・こんなことがあってたまるか??



アイアン・シェフ『三度(みたび)を遂げた私は魔剣の呪縛から解放され、天に召される・・・。その代わりに貴方が魔剣の中に縛られることになる・・・。』


!?


アイアン・シェフ『過去三度、貴方が私を使った時は『貴方の代わり』に私が戦ってきた。

         つまりこれから先、魔剣を持った他の誰かに貴方が『龍喰い』として絶大を授ける戦いを行う・・・。』




!!!


そ、それはつまり・・・

他の誰かがアイアン・シェフを持たない限り、俺はこの体を動かすことが出来ないということか!?


アイアン・シェフ『でも、それも不可能・・・。龍喰いの体がここまで破壊されては・・・。』



なんて無常だ・・・。三度(みたび)を賭しても叶わない?


どれほど無念だ・・・。一番助けたかった者を助けることができない?


どこまで無様だ・・・。俺は、今ただ視ているしかできない?




アイアン・シェフ『グッ・・・。』


今まで幾度と無く味わった苦汁よりも大きく勝る苦酸は俺の全てを絶望に染めていく。

俺の心を全て無視する体躯は、牢獄の様に俺の意志を嘲笑い束縛する。

溢れかえる悲しみは決して止まらない。今の俺に許されるのは唯一・・・。



マリアージュ「!!」

B10「りゅ、龍喰いさん・・・」

コーカサス「!!」

☆miyabin☆「あ、紅い瞳から・・・・」

hidechi「血が・・・」



頬から赤い涙を・・・一滴、また一滴と堕とす事だけ。


マリアージュ「ア〜〜〜〜ッハッハッハ!!!無様よッ、龍喰い!!そこで無力に呑み込まれていなさい!!!」


俺は・・・俺は・・・・何故・・・?B10を助けることが・・・・できないんだ・・・?









・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






・・・・・・・・・・・・・・・・・・






・・・・・・・・・・





意識を失った龍喰いさんを助ける為に必死で戦ってきたけど、hidechiさん達の剣も既に限界一杯。

上質の黄金ミスリルで強化された新品の剣ですら、ボロボロに刃毀れを起こしている。

私の攻撃超魔法「ウィンリィー・ショット」ですら、マリアージュに傷一つ付ける事が出来なかった。


マリアージュ「シね!!全部シね!!!ツブレロ!!全部シね!!」


hidechi「コ、コーカサスッ!!避けろ!!」

コーカサス「うっ!!ぐぼわぁ〜〜〜〜〜!!!」

☆miyabin☆「何してるんです!!喰らうんじゃなくって避けるんですよッ!!!」

や、やばい!!コーカサスくんにキュアを掛けなきゃッ!!

マリアージュ「ア〜〜〜ッハッハッハ!!ウジ虫はヤッパリ遅いわぁ〜〜〜〜☆」


感情のままに腕を振るう龍化したマリアージュは虫を叩き潰そうとジャレる赤子の様に私達を襲う。

直撃だけは何とか回避しているが動けば動くほど全員の体力が削られ、それを魔法で回復させるために私の魔力も削がれていく。

家から持ってきた回復薬は最早品切れ。これ以上戦えば確実に全滅する!!!



マリアージュ「!!」

一瞬私達から目を逸らし、腕を下ろすマリアージュ。

不解にその視線を追いかけた先には意識を取り戻した龍喰いさんの姿があった。

しかし、その姿は私の予想した結末をそのまま映し出している様に思えた。


B10「りゅ、龍喰いさん・・・」

コーカサス「!!」

☆miyabin☆「あ、紅い瞳から・・・・」

hidechi「血が・・・」


マリアージュ「ア〜〜〜〜ッハッハッハ!!!無様よッ、龍喰い!!そこで無力に呑み込まれていなさい!!!」


目を覚ましてくれた龍喰いさんだが、現状で彼女に『キュア』を掛ける訳にはいかない。

龍に食べられてしまった体へキュアを掛ける事は、「死の宣告」に代わり無いからだ。

失われた部分の傷が閉じるだけでそれ以上の希望は一切望めない。

腕が無いままキュアを掛ければ、その腕が元に戻ることは決して無くなる。

内臓を奪われたままキュアを掛ければ、著しく身体機能が低下する。

龍喰いさんを助ける為にはマリアージュの腹の中にある「体」を取り戻さなければならないのだ。

マリアージュ「うふふ・・・☆ そろそろねぇ〜〜〜〜☆」

コーカサス「な、何がだ!?」

hidechi「ぐっ!!もう15分が経つ頃か!?」

☆miyabin☆「はぁ・・・はぁ・・・。一体何が15分なんです??」


B10「い、いけない!!みんな、急いでマリアージュの腹部を攻撃してーーッ!!」



15分・・・。

それは『龍が胃に有機物を入れて消化するまでの時間』である。

この時間までになんとかマリアージュから龍喰いさんの体を吐き出させてキュアを掛けるつもりだった。

それが唯一、マリアージュに敵わない私達に残された勝機だったのだ・・・。


遅くならない時間。壊れてくれない時間。無情にも一刻、また一刻と私達から過ぎ去っていこうとする・・・。


マリアージュ「残念☆ もう、私の栄養になっちゃったわょ☆ 残りの体も私が摂ってあげるから心配しないでね?龍喰い☆」


龍喰い「・・・・・・・・・・・・」


マリアージュの挑発、悲痛に血の涙を流している。きっとこれ以上無く、悔しいのだろう。

その気持ちが私の心とシンクロする。懸命に戦い、尚、悪意の前に全ての持てる力が破られる・・・。


でも、私は諦めない・・・。絶対に・・・諦めない・・・。


てりりの姿の時、誰よりも無力な時でも私の事で怒ってくれた貴女は私が守って見せなきゃならない!!


hidechi「調子に乗るなよ!!秘剣ッ!メガクロノスッ!!!」


マリアージュ「ッ!!小賢しいィ〜〜〜〜ッ!!!」

瞬で見せたマリアージュの隙。

それにhidechiさんの奥の手!!瞬時に対象を4回切り刻む超速剣技、メガクロノスがマリアージュの腹部を襲う!!


瞬く間の攻防は最後に希望を与えてくれると心から信じていた・・・。






でも・・・・



B10「えっ!?」


hidechi「くっ・・・くそーーーーっ!!!」



☆miyabin☆「ッ!!!」


マリアージュ「はっ!!そんなナマクラ刀じゃ無理よ!!」

マリアージュの驚異的な爪の硬度の前に、hidechiさんの剣は耐えることができず折られてしまったのだ!!!


そして・・・


コーカサス「あ、あぶないっ!!避けろ〜〜〜〜〜ッ!!」



一瞬、抉る様に折れた刃が・・・私の胸を目掛けて飛んできて・・・





B10「ッ!!」






ザシュっと・・・鈍い音を立てた・・・。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






・・・・・・・・・・・・・・・・・・






・・・・・・・・・・





これは奇跡だろうか・・・?

幾度、命令しても動いてくれなかった躯。流し過ぎた血がほんの一瞬だけ舞い戻ってくれた。

何もできず、蠢く事すら許されず、血の涙しか流せない塊に堕ちた俺に与えられた・・・ほんの一瞬の小さな奇跡。

地を蹴り、前へ跳ぶ・・・。ただそれだけの事がこんなにも素晴らしい事だと俺は始めて実感した。

B10「あ・・・あ・・あ・・・」

俺は間に合った。B10を襲った凶刃に・・・

火を絶やす刃が俺の胸を射抜く。残り僅かな俺の火は消えるが『一番の大切』には届いてない。

未来ある大切な火は風に揺らぐ事無く、俺の前で煌々と燃えている。

霞む世界・・・間近に見える大切・・・眩しい炎が俺の心を満たし、瞼をゆっくり瞑らせる。

消えていく俺の世界は未練で満ちているが、希望だけは絶たれていない。


hidechi「りゅ、龍喰い様!?」



マリアージュ「・・・・・・・・・」

B10「や・・・やだよ・・・龍喰いさん・・・そんなの・・・ねぇ、てりり・・・・いや・・・やだ・・・。」


消える世界から手向けの花の如く、頬へと落ちる無数の暖かさ・・・。

俺はそれが何なのか、理解している。全く以ってB10は心優しい・・・。

戦場にはこの世で最も似合わない・・・優しい女だ。

それは昔から理解していたことだが、最期にそれを再確認して俺の火は消える・・・。

願わくば、この後マリアージュから逃げ延びる力になりたいが、それはもう望めないと運命が告げている。

B10「てりり!!目を覚まして!!てりりッ!!てりりーーッ!!!」

ビート・・・俺に構わず「逃げの一手」を打つんだ。

そうすればお前達の実力なら必ず逃げ延びることができる。

龍喰いの威力で敵わない相手・・・。悔しさはある。だが決して敗北じゃない。

ビート達さえ生きていれば、マリアージュを倒す術は幾つでもあるんだ。

俺はそんな希望の光を最期に守ることが出来たんだ・・・。

我ながらに最高の死様だと確信している。

B10「お願い!!!お願いだから・・・生き返って!!てりり!!!私を置いて逝かないで!!」

頬へと落ちる暖かさは勢いを増していくが、それを冷す様に凍る肉体は死へと誘われていった・・・。








                                  次回に続く・・・