題名:風の魔女とイデアの魔人 修正Ver



プロローグ

魔物の多く潜む洞窟に向かって走る影が二つ・・・。

山あいに囲まれた、その暗い洞窟は山上に見える「魔物の王、リグレット」が居るという「虚無の城」へとつづく道・・・。

いま二人の魔法使いが、リグレットに挑もうとしているようだ・・・。

かすみ「ミンク・・・二人で行動するのって久しぶりね・・・。」

高級な魔法衣に身を包んだ女の魔法使い、名前はかすみというらしい・・・。

声をかけられた男の魔法使いミンクは、上目遣いで走りながら・・・かすみに答える。


ミンク「今回ばかりは厳しいミッションになりそうだ。無駄口はたたかないで気合入れていくぞ・・・。」

周りには魔物の姿は見えない様子だが真剣な眼差しのミンク。

その目には緊張の色が少し見える・・・。

ミンクの緊張に気づいたかすみは、茶化すように走りながらもミンクの肩をたたく。

バシっ!!

かすみ「もう少し気楽でもいいんじゃないのかなぁ?」

ミンク「気楽って・・・(相変わらず力強いな・・・)」

軽い笑みを浮かべていると、あっという間に洞窟へとさしかかる・・・。

ここからが本番となるようだ・・・。

この洞窟の中には何百、何千という魔物が潜んでいるのだ・・・。

いや、魔物だけではない。思いもかけないトラップや仕掛けが待ち受けているかもしれない。

ミンクは中の魔物に悟られないようにと、洞窟に入る前に「スイートリキッド」と呼ばれる気配を消す魔法をかすみと自分にかける・・・。


ミンク「これで中の魔物には悟られないだろう・・・。本当に気を引き締めてくれよ?」


眉をしかめてかすみに言い放つミンク。今回ばかりは少しの失敗が、少しのミスが命取りになるのだ。

しかしミンクの緊張もわかるというものだ・・・。

ミンクが彼女のことをこれだけ心配するのには簡単な理由がある。

二人の指・・・薬指には同じデザインの指輪がはめられていた・・・。

かすみ「私たちまだまだ若いのに、こんなところで死ぬわけにはいかないわよね・・・。」

けたけたと口を開けて笑うかすみ・・・。

そのあけた口を覆う右手にはめられた指輪はその昔、ミンクと結婚を誓い合った時の指輪・・・。

そう、二人は夫婦なのだ・・・。

ミンク「ここからは本当にしゃべることもできないから・・・本当に頼んだよ・・・。」

ため息をつきながら汗を垂らすミンクは真っ暗な洞窟の奥へとゆっくりと歩きながら進んでいく・・・。


かすみ「ねぇ、ねぇミンクってば!!ここの雰囲気・・・ちょっとおかしいわよ?」


洞窟を入って三十分。

先ほどから一向に魔物の姿はなく、ただただまっすぐ・・・時折階段を上りながら同じようなところをぐるぐると回っているような・・・?


方向感覚に問題はないはずなのだが、何故かそんな気がしてならない・・・。

ミンク「・・・・まさか、トラップにハマって・・・ないよなぁ?」

ミンクは立ち止まり、先程進んできた道をもう一度振り返って確認する。

背後には魔物の姿はなく、勿論のこと前方にも魔物の姿は見えない・・・。

ここまでの道のりで魔物はおろか、罠一つ見あたらない上、先程からネズミ1匹すら見つけることはできないのだ。

ミンク「・・・・・・」

精神をとぎすませて、もう一度注意深く辺りを見渡すミンク。

かすみは、その注意深いミンクを無視する様に、壁にもたれ掛かり休憩しようとする・・・。


その瞬間!!


かすみ「きゃ、きゃぁ〜〜〜〜〜ッ!!!」


なんと壁が崩れて、かすみが青く光る十メートル四方の間に落ちていってしまったのだ!!


その高さは二十メートル程くらいであろうか?



ドガッ!!!



かすみ「くうッ!!いったーーーッ・・・」

両足で着地したかすみ、魔法使いとはいえ肉体は一般の人間と何ら変わらない・・・。

足がジンジンと痺れている・・・。

もっとも、二十メートルという高さは一般の人間であれば即死ではあるのだが・・・。

かすみを心配して焦りながらも声を掛ける・・・。


ミンク「おいッ!大丈夫か!?かすみッ??」

崩れた壁を右手で掴みながらかすみを見下ろすミンク・・・。

すぐさま降りようとするが・・・青く光る部屋に息を潜める様に待ちかまえていた大きなクモの魔物に気づく!!

ミンク「な、なんてデカいクモだっ!!!」

その巨大なクモは今までミンクの見てきたレベルの大きさではない!

何を食べればここまで大きくなるのか?

導き出される答えはただ一つ・・・。


かすみ「ひ、人食いクモだわッ!!!」

巨大クモ「シュシュ・・・シュ・・・」


ガラスを爪でひっかく様な不快な音を立てる巨大クモ・・・。

なんと「蜘蛛の糸」をかすみに向かって飛ばしてきたのだ!!!

かすみ「クッ!「ウィンリィ・ショット」!!!」

かすみが「蜘蛛の糸」に向かって風の魔法を唱える・・・。

しかし、いつもであれば簡単に出るはずの魔法が・・・全く出ない!!!

かすみ「きゃぁぁッ!?ど、どうして・・・魔法が出ないの???」


ミンク「な、何やってるんだ?かすみッ??」

かすみ「な、なぜか分からないけど・・・魔法が出ないのっ・・・。」

突然の状況に戸惑いながら両腕を振り回すかすみ・・・。

ミンク「くそっ?まさかあの青い光が俺たちの魔法を封じているのか?」

部屋を照らす青い光が不気味に広がる・・・。


かすみは混乱している為、振った両腕が余計に蜘蛛の糸に絡みつく・・・。

かすみ「むぐ・・むぐぐぐ・・・」

とうとう動く事も出来なくなるくらい蜘蛛の糸がかすみに絡みついてしまった・・。

その状況に慌てて援護の為に魔法を使用するミンク・・・。

ミンク「ちっ!!出てくれよ??「サンダースピア」!!!」

青い光に体が触れない様に、指先から光速でターゲットを攻撃できる「雷の魔法」を巨大クモに向かって放つ・・・。

ミンクの勘は当たり、青い光がミンク達の魔法を封じていた様だ・・・。

ミンクの「サンダースピア」が巨大クモに向かって飛んでいく・・・。

しかし・・・


パキィーーーン・・・・


ミンク「なっ?ま、まさか?跳ね返ってきた???」

巨大クモに確実にヒットしたと思われた魔法がミンクに向かって跳ね返ってきてしまったのだ!!

ドガーーーーーーーンッ!!!

ミンク「グワァーーーッ!!」

崩れた壁が跳ね返った魔法によってさらに崩れる・・・。

ミンク「ググ・・グ・・」

強く地面に体を打ち付け、額から血がドクッと流れていく・・・砂煙にまみれながらも、再度青く光る部屋を見下ろそうとした時・・・

なんとかすみが巨大クモの放った「溶解液」に当たる寸前であったのだ!!

ミンク「!!!」



ここから先の話はほんの数秒・・・



そう、数秒のお話し・・・。


ミンク「!!(くっ・・・間に合えッ「ゴッドキャスリング」ッ!!!!)」

ミンクは青ざめながらさっと指を振る・・・。

するとミンクの魔法効果で「ミンクとかすみの存在位置が交換」されたのだ!!!

ミンク謹製の「ゴッドキャスリング」は目に見える生物とならば誰とでも存在位置を交換できる魔法・・・。

そう、ミンクは「かすみの身代わり」になったのだ!!!

安全な二十メートル上の壁際に移動したかすみ・・・。

青い光が燦々とミンクに降り注ぐ・・・

そのミンクの姿を・・・体が動かせないまま、ただ見ている事しかできないかすみ・・・。

涙を浮かべ、大きな声で愛する者の名前を叫ぶ!!!


かすみ「ミ、ミンクーーーーーーーーーーーッ!!!!!」


かすみの声に反応して、崩れた壁際を見上げるミンク・・・。

ミンクは目の前に迫ってきた溶解液に恐怖する事もなく・・・笑顔でかすみを見上げている。

ミンクの脳裏に一瞬で・・・「今までの人生」が走馬燈の様に駆けめぐる・・・。





「第1章 空飛ぶ魔人、現る・・・。」



俺の名前はミンク・・・。

男なのに「ミンク」などという「可愛らしい名前」が名付けられたのは何故かって?そんな事、はっきり言って俺も知らない・・・。

聞きたくっても名付けた父親が赤ん坊の頃に死んでしまったらしいからな・・・。母親も俺を産んだ時に死んだと聞かされている・・・。

俺は物心が付いた時から「ババァ」に育てられてきた・・・。

まぁ、物心が付く前に死なれていたものだから「寂しい」という気持ちは全く知らずに育ってきた・・・。

俺が育ったのはティモーレの山奥の更に奥・・・。はっきり言って「ド田舎」だ・・・。

いや・・・あれは田舎なんて言っていい物か? 木々に溢れた山奥に俺の家があったが・・・その山には俺の家以外は無かったからな・・・。

つまり、俺は「ババァ」と二人でずっと生きてきたっていうわけだ・・・。

この「ババァ」。正直言って「腹が立つ」事、この上なかった・・・。

6歳にも満たないこの俺に「やれ、ヘルニア」だの、「それ、神経痛」だの言ってまったく自分は動こうとしない・・・。

家事のすべては俺がしてきたんだからなぁ・・・。料理も掃除も力仕事も風呂を焚くのも全部、俺・・・。

子供ながらに、生きている上で楽しみなんてのは・・・何にもなかった・・・。

遊ぶ物もないから父親が遺した本を読み耽っていたのを覚えている・・・。

本はほとんどが魔法の専門書・・・。「字」すら教えてくれないババァだったもんだから自分で全部、辞書を引きながら覚えていった・・・。

魔法書以外にも「街の事」が書かれた本もあったがこの本は何度も読み返してお気に入りの一冊だった。

総計、約千冊ぐらいか?いや二千・・・?もう、よく覚えていない・・・。家にあった「専門書」のすべてを読み終わった十三歳の春の事・・・。

朝起きて、気が付くとババァは死んでた・・・。布団にくるまって涙を浮かべて一人悲しそうに・・・。

何故、ババァは悲しそうな顔をしていたのか・・・?俺が心配だったのだろうか?

ババァが死んだ時に初めて思ったのだが・・・「自分が長く生きられない」と知っていたからこそ、「家事など全て」を俺にさせていたのだろう・・・。

一人になって初めての夜・・・。俺は初めて「悲しい」という感情で涙を流したのを覚えている・・・。

その時、涙を流しながら何度も何度も「ババァ」に言われ続けた言葉を思い出していた・・・。

ババァ「ミンク・・・人に好かれる人間になるんじゃ・・・。」

ババァと俺の二人しかいないのに・・・人に好かれる?ってなんだ???

ババァが死んで一人っきりの俺には・・・その答えを見つける事はできなかった・・・。

だいたい生きる為に必要としないものを見つける気など・・・俺には更々無かった。

十七歳になったある日、俺は家を出る事にした・・・。本で読んだ知識では「山奥」には人はいないが「街」には人が沢山いるらしい・・・。

ババァが死ぬまで言い続けたワケのわからない遺言を聞くのも悪くない・・・と思ったからだ・・・。

父親の遺した魔法書をヒントに「自分で考え出した魔法」を使い・・・俺はイデアと言われる「新興国」に向かう事にした・・・。

樫の木で作った杖をパッと宙へ浮かべて空を飛ぶんだ。この気持ちよさは一度味わったら忘れる事は出来ない・・・。

馬なら平均で四日、歩くと八日間はかかる道・・・地平線が見えるほど広く続く草原、とてつもなく大きく長い泥の色に染まった茶色い川を越え、

一度入ったら抜け出せそうにもない闇に包まれる森を見下ろして空飛ぶ・・・。

時折見える「魔物」も山では見る事の出来ない奴らが多い・・・。

地面を歩いていたら遭遇するたびに戦わないといけないのが面倒くさいので、空を飛べるというのは本当に便利だ・・・。

俺は魔法を使う事により、たった十五時間程でイデアに着く事が出来た・・・。

街の風景が遠目に入った瞬間、俺は空から舞い降りて歩いて街に向かう事にした。

妙に気が浮かれて・・歩いて街に入りたいと思ったからだ。

土にまみれ、鋪装されていない山奥とは違い、石畳の続く道・・・。木で出来た家なんてものは全く無い。

あまりに多い人集り、全てが煉瓦製の銀行、市役所、病院・・・とてつもなく大きな建物が多く建ち並ぶ・・・。

ドニアという通貨を使用すれば欲しい物が何でも手に入る世界・・・。

山奥に住んでいた時は、偶に行商人が来て買い物は出来たのだが・・・俺にとって「本」でしか知らなかった世界が目の前に広がってくる・・・。

街ゆく人々は多種多様な格好をしている。鎧に身を包む者、魔法衣に身を包む者・・・。

動きやすい軽装に槍を携えた輩も見受ける事が出来る。この街の人間の大半は剣や魔法を使う事が出来る様だった・・・。

そう、俺の知らなかった世界は剣士や魔法使いで溢れていたんだ・・・。

小さい子供も結構多いが、複数で遊んでいるのが羨ましく思った・・・。

夜になると灯りがともり、街が昼間みたいに照らされていく。人の多い街というのは眠らないのだろうか?

深夜遅くまで、ともり続ける灯の光を・・・空から見下ろすのがあまりにも綺麗でたまらなく好きだった・・・。


いつでもその風景が見られるようにと少し離れた丘の上に一軒家を建てる事にした。いつでも街を見下ろしてあの灯の光を見られるようにと・・・。

決断した俺は、風の魔法で木を伐採した後、更に加工する・・・。

組み立ての穴は水の魔法で慎重にあけて少しずつ組み立てていったなぁ・・・。

それがまた、楽しくって仕方がなかった・・・。

俺は1日も経たない内に小屋を完成させた・・・。

俺の選んだ場所は裏手に美しい小川が流れて鮎や岩魚などの魚も捕れる・・・。

少し離れた薄いピンク色の建物は牧場だろうか?

俺の家でも食用の鶏を飼っていたが、似た様な匂いを感じる・・・。

幸せな気持ちに包まれて、「人に好かれる男になろう」と第一歩を踏み出した17歳の俺・・・

この手作りの木の小屋から始まったんだ・・・。


イデアに住み始めて十日後、父親やババァが遺したドニアを持って街に買い出しに行こうとしたのだが、

丘の上から街まで四キロメートルという距離の場所・・・。

「空」を飛んで街に出向いたのだが、街の人々が俺を指さして驚いている事に気付いた。

聞いてみると「この街の魔法使いは誰一人として空を飛ぶ事が出来ない」らしいのだ。

いや、それどころか世界中でも空を飛べる魔法使いはいない!と、一般商店の親父に怯えられながら言われたのを覚えている・・・。

魔法使いの魔法とは決して「万能」ではない・・・が、「魔力」を使用する事によって普通では出来ない事も出来る様になる・・・。

大抵の魔法使いは、自然の属性に準じた魔法しか使用する事は出来ないのだ。

一般商店の親父に言われるまでは知らなかったが、俺の空飛ぶ魔法などは「異質」な物と言えるらしい・・・。

話す事によって少しずつ、街の人間の事を知り始めた・・・。


だけど・・・イデアの城下町に空を飛んで通う日が五日程過ぎて・・・あの事件は起こった・・・。



・・・・・・・・


ミンク「おばさん・・・このパンとトウモロコシ、いくらだい?」

人気の少ない商店の中、ミンクは夕食に備えて「食材」を買いに出てきた様だ・・・。

着ている服はボロ布に近く、とてもではないが「服」と呼ぶ事はできない・・・。その姿を忌々しく見つめ、頬をつり上げながら答える。

店員「五百ドニアだよ・・・。」

ミンク「あっ、そう?じゃ・・・これでいいよな??」

皮の袋に無造作に入れられたドニアを取り出すとミンクはカウンターにジャラジャラっと百ドニア玉を五枚、五百ドニアを並べてみせる・・・。

ミンク「じゃ、貰っていくぜ?」

「大きなかばん」にパンとトウモロコシを詰め込んで店を出ようとするミンク・・・。しかし、店員に大きな声で呼び止められる!

店員「ちょいと!?お金が足りないじゃないか!?あたしゃ五百ドニアって言っただろ??」

ミンク「?」

その店員の言葉に眉をしかめて振り返り、カウンターに置かれているドニアを再度確認する・・・。

すると何故だろう?先ほどちゃんと置いたはずの五百ドニアが四百ドニアになっている・・・?

店員「さぁ、百ドニアをもう一枚!!置いていきなッ!」

じっと店員の目を見つめるミンク・・・店員はミンクに対して「良い感情」を一切持っていない事がよくわかる目だ・・・。

ミンクは店員の全身を頭の上から足先までを観察する様に見てみると・・・店員の右手が震えるほど握りしめられていることがわかった・・・。

ミンク「・・・(こりゃ・・・明らかに・・・)」

ミンクはピッと人差し指を弾く・・・。すると小さな・・・とても小さな「火の玉」が店員の右手の甲に向かって飛んでいく・・・。

店員「ぎゃッ!!」

店員は手の甲に付いた火の玉の熱さに驚き、手を大きく振る・・・。

チャリーーーーン・・・・

店員の手に握りしめられた「百ドニア玉」が店の棚に一度当り、地面に音を立てながら落ちていく・・・。

ミンクはその百ドニア玉を、大きくため息をつきながら拾い上げると店員に向かって言い放つ・・・。

ミンク「なぁ、?もう少しウマくやった方がいいぜ?」

グッと睨みを効かせながら、ミンクは店員の手の平に叩きつける様に「百ドニア玉」を渡し付ける・・・。

するとその態度が気に入らなかったのか?理解に苦しむがミンクに向かって大きな声で怒鳴り上げた・・・。

一般に言われる「逆ギレ」と言うやつだ・・・。

店員「う、うるさいッ!!あたしゃ、あんたみたいな小汚い魔法使いなんかに店に来て欲しくないんだよ!!!」

ミンク「小汚い・・って言われてもこの服・・・気に入ってるんだが・・・?」

頭をかきながら、店員に言い返すミンクだが確かに店員の言う通り・・・かなり不潔そうな格好ではある・・・。

洗濯をしていない為、十人の人が見れば十人全員が「不潔」と思うであろう・・・。しかし、店員の悪口はこれでは終わらない・・・。

店員「オマケに「空を飛ぶ」なんて「ワケの分からない魔法使い」と、関わり合いたくないんだよ!二度とこの店に入ってくるんじゃないよッ!!」

店員はカウンターの棚に閉まってあった「塩」を取り出すと、ミンクに向かって思いっきりそれをまき付ける。

その店員の態度にいい加減に腹が立ったのか?ミンクも負けじと大きな声で怒鳴りつける!

ミンク「ムカッ!・・・・いい加減にしろよ?このクソババァ・・・?俺は何も間違った事なんてしちゃいないだろ?先に「因縁」付けたのはそっちだろうが?」

店員「う、うるさいッ!もしもこの店で暴れようってんだったら・・・け、警察を呼ぶよ?」

店員のいう警察とは剣士や魔法使いのみで構成された集団・・・。街で問題を起こした輩を捕まえて「裁く」者達である・・・。

しかし、ミンクは「自分に否がない」という自信から・・・その挑発に水の魔法で店員に答える・・・。

ミンク「おうおうおぅおぅ!!!!呼べばいいじゃねえかッ!!!てめぇ、手加減しねぇぞ!!こらーーーッ!!!」

十七歳という若気の至りからか・・・?ミンクはこの時・・・初めて人に向かって「魔法」を使ってしまった・・・。




「第2章、魔人戦う」

ガシャーーーーン・・・


警察の牢獄の扉を閉じられる音が大きく鳴り響く・・・。

煉瓦で囲まれ、薄暗いその牢獄・・・煉瓦自体も魔法でコーティングされていて魔法も物理攻撃も吸収してしまう素材の様だ・・・。

カビくさい匂いが建物一面に充満し、とても不衛生である事がよくわかる・・・。


牢獄の中に入ってしまったのは・・・ミンクであった・・・。


ミンク「ちきしょうッ!!ふざけんなよ!?何で俺が牢獄に入らなきゃならないんだ!?」

ミンクの声が虚しく牢獄内に響き渡るが、その答えに回答する者は居ない。

どうにかして「牢獄の檻」を出ようと試みるが・・・3分で「無駄な努力」である事に気付く・・・。

ぎゅるるる〜〜〜〜〜・・・

ミンク「ちきっしょーーー・・腹が立つ上・・・腹が減ってきた・・・。」

「二つの意味」で腹の虫が治まらないミンクは牢獄にしがみつきながら大きな声で叫び続ける。

ミンク「おいっ!誰か居ないのか?俺の「かばん」返せよ!中にパン入ってるだろ?腹減ってんだよっ!オイッ!誰かーーーーーっ!!」

ガンガンと牢獄を両手で叩きつけて、大きな音を立てるミンク・・・。その大きな音に牢獄の住人がミンクに怒鳴りつける。

??「うるせぇ!」

???「腹減ってんのは手前だけじゃねぇんだよ!」

?「バカだ、この牢獄は叩いて開く訳ないのに・・・。」

????「あぁ、叩いて出られるなら俺も叩くぜ・・・。」

牢獄には6つの部屋があるのだが、ミンクの居る牢獄以外から声が聞こえてくる。

どうやらミンク以外に四人、捕まっている様だがその全員の声はとてもドスの効いている声だった。

ミンクはそのドスの効いている四人に怯むことなく言い返す・・・。

ミンク「あん?俺は何も間違った事してねぇのにこんな所に閉じこめられたんだぞ?」

??「はッ・・・何もしてねぇのに、こんな所に来るわけねぇだろ?」

?「ここに来る前に何をしたんだ?」

ミンクに興味を持ったのか?四人の内の一人がミンクに問いかける・・・。

ヤサグレながらミンクはボソッとその問いに答えた・・・。

ミンク「金を騙し取ろうとしたパンを売ってる商店の店員に・・・魔法で攻撃した・・・。」

?〜????「な、なにっ〜〜〜!!!?」

ミンクの発言に大きな声を上げて驚く四人・・・すると四人は先程とは打って変わって、急に静かになってしまう。

ミンク「(・・・?・・・なんだってんだ?)」

ミンクは四人の態度に疑問を感じて大きな声で牢獄を叩きながら問い返す。

ミンク「おう!こらっ!?いったい何だって言うんだ?なぁ?何で黙っちまうんだよ!?」

ミンクの牢獄を叩く音に恐怖しながらも、その問いに答える四人。

その声は明らかに恐怖の色を隠せない事が感じ取れるが、あまりにも丁寧な言葉使いになっていた・・・。

?「いや・・・まさか「一般人」に向かって「魔法」を使う人だったなんて思ってもいなかったんで・・・。」

???「すいません・・・。僕達、調子に乗ってました・・・。」

??「・・・・・・・」

????「む、無法なチャレンジャーですよね・・・。」

ミンク「ぐぐぐぐぐぐ・・・・・」

ビクビクした雰囲気が尚、ミンクの神経を逆撫でするとは思ってもいない四人・・・。

ミンクは魔法を使用して牢を破ろうとする・・・。

ミンク「ちきしょーー!!出さないって言うんならッーーーーッ!!!「大いなる水の精霊の・・・」」

ミンクが大声で最も得意とする水の魔法の詠唱を始める・・・。

??「う、うわーーーッ!!おまわりさんッ!!この「新しい人」ッ!!法律ってモノを無視してますよーーっ!!!」

?「助けてッ!!こんな狂った人と一緒なんていやだーーーーッ!!!」

ミンクの詠唱にビビリまくる四人の囚人・・・。

その声を聞くと待機していた警官が大急ぎで牢獄へと入ってくる・・・。

警官「こ、こらっ!!貴様、何をしようとしている!!」

魔法衣に身を包んだ警官・・・ミンクと同様に「魔法使い」であるようだが、どうにもミンクを見る目が怯えている様にも見える・・・。

ミンク「魔法を使ってここを出るんだよ!!お前ら全然出してくれないじゃないか!!」

怒鳴るミンクの言葉に目を大きくして驚く警官は、眉をしかめてミンクに逆に言い放つ・・・。

警官「な・・・だって君は、街中で「攻撃魔法」を使用したんだろう?」

両手を広げてミンクに問いかける警官・・・。しかし、ミンクは警官に向かって堂々と言い放つ・・・。

ミンク「魔法使いが「魔法」を使って何が悪いんだ?俺の住んでた山奥じゃ普通に使ってたんだぞ!!!!」

警官「や、山奥だって・・・?」


ミンクと祖母の二人で過ごした今までを警官に怒張しながらも詳しく話すミンク・・・。


ミンクの全ての話を聞き終えると、恐る恐る警官はミンクへと問いかける・・・。

警官「ね、ねぇ・・・君、「国家剣魔律」って知ってる・・・?」

ミンク「「国家剣魔律」だ?なんだ・・・そりゃ・・・・?」

警官「平たく言えば・・・「街中での剣士の抜刀」、「街中での魔法使いの攻撃魔法の使用」禁止令だよ・・・。」

ミンク「 !? 」

今まで山奥に住んでいて「法律」にふれた事のないミンクにとって、それは初めて耳にするモノであった・・・。

汗を垂らして、今度はミンクが警官の言う事に耳を傾ける・・・。1時間程話したであろうか?ミンクは警官の言う事を聞き終えると

目を伏せて、顔色を青くしながら汗を垂らす・・・。

ミンク「し、知らなかった・・・。ま、街中で・・・攻撃魔法を使ったらダメなのか?」

警官「攻撃魔法は当然の事、「補助魔法」だって使用するのを控えている人が多いよ。君は知らないとはいえ、少しやりすぎたんだ・・・。」

腕を組み、目を閉じて説明する警官はミンクの表情を見て同情しつつも宥めている・・・。

ミンクは警官に向かって汗を垂らし・・・慌てて問い返す。

ミンク「なぁ?俺はここから出られないのか?教えてくれよッ!!」

ミンクの言葉を聞いて眉間にシワを寄せて考え込む警官は、懐から「手帳」らしきモノを取り出してパラパラと捲り始める・・・。

目的のページをあけると手帳に付属していたペンで線を引きながらか?文字を書きながらか?

同情の瞳で見つめながらミンクにこう言った・・・。

警官「「器物破損罪」に「傷害罪」に「公然魔法使用罪」・・・普通なら合わせて8ヶ月って所だと思うけど・・・」

ミンク「は、8ヶ月!?8ヶ月って言ったら・・・す、すごく長いじゃないか???挑発してきたのは店員なのにッ!!!」

ガンガンと思いっきり牢獄を叩きながら警官に怒鳴り上げるミンク・・・。

警官は慌ててミンクの罪を擁護して計算をはじき出す・・・。

警官「いや・・・ま、まぁ君は初犯だし、君の言う通り店員の罪が明らかになったら「数日」で出られる様になると思うよ・・・?」

ミンク「だったらッ!!早く店員も調べ上げてこの牢屋に入れろよッ!!俺は間違った事は・・・絶対にやってねぇーーーーッ・・・・。」

ミンクは警官に怒鳴り上げると青ざめた顔で牢獄から離れていく。しかし、商店の店員が「正直」に話する事は一切無く、ミンクの擁護をする弁護士も

現れなかった為に・・・虚しくも「6ヶ月」の月日を牢獄で過ごす事になる。

更には「器物破損」及び「保釈金」の支払いの為、財産の大半を支払う事となったのだ・・・。

6ヶ月後、ミンクは警察の牢獄から出所して外に出る事が出来た・・・。

・・・・・・・

今のミンクの心と同じ様に曇った空が広がる・・・。どうやら雨が近い様だ。

「鳥の清々しく鳴く声」も「晴れやかな心で遊ぶ子供の声」すらも鬱陶しく感じてしまう・・・。

道行く人も楽しげに笑顔で会話しながら歩いているが、見れば見るほどミンクにとっては気分が不快になる。

この6ヶ月でミンクの心は深く傷ついてしまった様だ。

ミンク「くそッ・・・。ババァよ?この俺に一体・・・何をさせたかったんだ・・・?」

人と過ごし、「人に好かれる」いう意味が未だ見えないミンクは悲しげに歩いて丘の上の一軒家に戻っていこうとする・・・。

ぎゅるるるるるーーー・・・

ミンク「ちっ・・・こんな時に・・・」

途中、ミンクの腹の虫が鳴り出す。

ミンクは思い出したかの様に警官から返却された「大きなかばん」の中をのぞき込んでみる。

するとそこには「異常なまでにカビたパン」と「腐ったトウモロコシ」が入っていた・・・。

ミンク「・・・・・・・・・」

ミンクは無造作にそれを道の隅に投げる様に捨てる。

少し、目に涙を浮かべて丘の上の一軒家を目指して歩いて帰っていったのだが・・・

ミンクが家に着くと、目を疑う情景に遭遇する。

ミンク「な・・・なんだ・・・・こりゃ・・・・!?」

なんとミンクが一生懸命作った木の一軒家がボロボロに破壊されていたのだ。

屋根や壁には穴が開き、中の家具はすべてひっくり返っている・・・。

買い貯めていた保存食品や調味料も床に散乱し・・・最早、人が住める状態ではなくなっていたのだ・・・。

ミンクはバラバラに割れた窓ガラスも気にせずに家の中に入っていくと、その光景に言葉を失う・・・。

床の上に赤い文字で書かれた大きな紙が、風で飛ばない様に「ナイフ」で差し込まれて置かれているのを見つけた・・・。

ミンクは目を充血させ、手をブルブルと震わせながら、その紙に書かれている内容に目を通すが・・・

赤い字で書かれているその言葉はあまりにも無慈悲な・・・心をえぐる言葉。

ミンク「イ、イデアに・・・魔人はいらない・・・?だと・・・?」

ミンクを嘲笑うかの様に・・・畏怖と嫌悪を示した赤い文字にミンクは心の底から悲しみがこみ上げてくる・・・。


ポツポツ・・ポツ・・・ザザザ・・・ザザザザザザーーーーーーー・・・・



ミンク「俺が・・・一体、何をしたって言うんだ?俺は、ただ空を飛んで街へ買い物に行っただけだろう?なのに・・・どうしてこんな想いをしなきゃならないんだ?」

穴の開いた屋根から「雨」が降り注がれていく・・・。

強く、厳しいその雨は床に落ちた調味料を外へと流しだし・・・紙に書かれた赤い文字を滲ませていく・・・。

ミンク「俺は、魔人なんかじゃない・・・。・・・普通の・・・みんなと同じ「魔法使い」なのに・・・。」

ミンクに強く降り注がれる雨はあっという間にボロボロの服をびしょ濡れにしてしまう・・・。

髪から滴り落ちる雨はミンクの顔を伝って地面に落ちるが・・・その雨にはミンクの涙が多く、より多く含まれていた・・・。

・・・・・・・

失意の底に落ち込むミンクはボロボロの家の中・・・雨の当たらない場所で体を丸める様にして座っている。

ぎゅるるるるるーーーーー

体が冷えて、空腹に苦しむ・・・しかし、今のミンクには何かをするという「気力」が失われていた・・・。

・・・・・・・

雨もやみ初め、虚ろとしていたミンクの小屋に誰かの声が聞こえてくる。

????「イデアの魔人さ〜〜〜ん?いませんかぁ〜〜〜?」

年齢の若そうな男の声がミンクの小屋に聞こえてくる。

気持ちの沈むミンクには返事をする気力もない様でじっと座ったまま・・・。

その声の主に返事しようとは一切しようとはせず、ただただ目を瞑りじっとしたまま動こうとしない。

????「おーい、この私、ケリーさんがいい儲け話を持ってきたんだよー・・・って・・・ここまでボロボロになった家に居る訳ないか・・・?」

髪を金髪に染めた柄の悪そうな男が、ポケットに手を突っ込んだままミンクの家に無造作に入り込み家具を足で蹴っ飛ばす。

ミンクの存在に気付かないその男は座り心地が良さそうな倒れたタンスに腰を掛けてタバコに火を付ける。

ふーっと煙を吐き出し、ある程度タバコを吸うと投げ捨てる様に床に吸い殻を叩きつける・・・。

更には唾を吐き捨てて、機嫌悪そうに立ち上がるとボソッと金髪の男は言い放つ。

ケリー「ちっ、この「ケリー様」が直々に来てやったのに太ぇ野郎だぜ、まったく・・・。」

ミンク「さっきから見てたら、好き放題じゃないか?貴様・・・」

ボロボロの壁からスッと姿を現して、飢えた狼の様な目で金髪の男ケリーに声を掛けるミンク。

ミンクの声に驚いたケリーは肩をビクつかせてそーっと背後を振り向き、

ヘラヘラと笑いを浮かべてさっき迄とは打って変わって「低姿勢」な態度を取り始める。

ケリー「あは・あは・あははははは・・・い、居るんでしたら居るって言って下さいよ〜〜〜兄貴ぃーーー・・・。」

目を垂らせてミンクの事を兄貴と呼び、笑いながら近づくケリーは隠し持っていたバラの花をミンクの着るボロボロな服の胸元にスッと付ける・・・。

ミンク「( ? なんだコイツは・・・?)」

眉をしかめてケリーを見るミンク・・・敵意が無い様なので暫く様子を伺う。

ケリーは眉をしかめるミンクの表情を伺いながらも笑顔で用件を話し出す。

ケリー「いやいやいや、実は兄貴に「いい話」を持ってきたんだよ〜〜〜!!」

ミンク「 ? 「いい話」・・・?」

ケリー「そうそう!とびっきりの「いい話」! とりあえず聞くだけでもいいから聞いて頂戴よ〜〜〜ッ!!兄貴ッ!!」

軽々しくミンクに言い寄るケリーはミンクの事を知っているのか?

ミンク自身、普段であれば相手にもしないのであろうが心が重く一人ではやりきれなかったのか?

ケリーの話に耳を傾ける。

ミンク「・・・言ってみろよ。」

ケリー「えへへッ!兄貴、「公営地下闘技場」って知ってます?」

ミンク「知らない、帰れ!」

ケリーの第一声でイキナリ門前払いするミンク!興味無さ気に家の奥の方へと戻っていこうとする・・・。

ケリーは焦ってミンクの服を一生懸命引きずりながら引き留めようとする。

ケリー「ちょ、ちょっと!!待ってよッ!兄貴ッ!!儲け話だから・・・さ、最後まで聞いてッ!!」

ミンク「うるさいっ!人と戦うのはマッピラだ! また警察に捕まったらバカみたいだッ!!」

「闘技場」と言う言葉に拒否反応を示し、振り向き様にケリーの腕を振り払うミンク。監獄での六ヶ月間を脳裏によぎらせる。

しかし、ケリーは目を瞑ってミンクに向かって自信有り気に指を横に数度振る。

ヘラヘラ笑いながらミンクに内容を再度話し続ける・・・。

ケリー「へっへっへ、警察〜? 言ったでしょ?「公営、地下闘技場」って・・・警察に捕まったりしませんよ〜。」

ミンク「 ??? 」

ケリー「それどころか相手を殺しちまっても「お咎め無し」なんっすよ?兄貴には「打って付け」でしょう??」

目を輝かせてミンクを見つめるケリー。はっきり言って失礼な発言が爆発であるがミンクは冷静にケリーの話を聞く。

ミンク「俺にその話をしてどうするつもりだ・・・貴様は?」

ケリー「はいッ!俺は「闘技場で戦う人」をスカウトする仕事をしてまして・・・兄貴に目を付けさせて頂きましたッッ!!」

闘技場で戦う者を集めて、戦わせる商売を生業にしていたケリー。

話を詳しく聞くと、ミンクが警察に捕まる時の騒ぎを「ストーカー」の様にジッと見ていた様だ。

その時、ミンクの魔法の威力を目の当たりにしてミンクに白羽の矢を立てた様だ・・・。

顎に手をやり、ケリーをジッと見つめながらボソッと言い放つミンク。

ミンク「なんだか貴様、気持ち悪いな・・・?」

ケリー「あ、兄貴ぃ〜・・・そんな事言わないで・・・」

手でゴマを擂りながらミンクの機嫌を取ろうとする。

ケリーはなんとしてもミンクをスカウトしたい様だ・・・。

ケリー「闘技場で近々「ライフダウト」っていう大きな大会があるんですよ?1〜8位には賞金でますし・・・」

ミンク「賞金・・・?」

ケリー「はいっ!優勝なら1000万ドニア貰えますよ〜〜〜〜!!」

ミンク「い、1000万ドニア?」

1000万ドニアと言えばミンクが警察に支払った財産の10倍に相当する・・・。

少し心がグラ付くミンクは汗をかきながらケリーに背を向けて一つ、問いかける・・・。

ミンク「な、何人ぐらい出るんだ?その大会・・・ライフダウトだったか?」

ケリー「 ! 」

ミンクの言葉に「もう一押し」と感じたケリーは胸元からメモ帳を取り出す・・・。

ミンクの正面に廻って「紙面」をミンクに見せる・・・。

するとペンで字を書いた訳でもないのに「字」が浮かび上がってくる・・・。

魔力の込められたインクで字を書いている為、過去に書いた情報が浮かび上がってきたのだ!!

紙面には19人の名前が浮かび上がってきた・・・。

ケリー「後一人、兄貴の名前がここに書き込まれたらスカウトは完了さッ!兄貴がもし今、断ったら違う人の名前が入っちゃうかもね・・・。」

少し、上目使いでミンクに話しかけるとケリーは魔法のペンをミンクにそっと渡す・・・。

ミンク「・・・・(公営みたいだし・・・金も取られて無くなったし・・・)」

心の中で迷いつつ、眉をしかめるミンク。

ペンを持ちながら力強く腕を組んで考え込む・・・。

煮え切らないミンクの様子に終止符を打つべく、ケリーはミンクの耳元でそっと呟く。

ケリー「兄貴、ライフダウトで優勝したら街のみんなの・・・人気者になるよ〜??」

ミンク「 ! (人気・・・か・・・)」

人気=人に好かれる、という式を頭の中で打ち立てるミンク。ミンクは決意したのか?

魔法のペンを字が書きやすいように持ちかえると自分の名前を紙面にと書き込む・・・。

・・・・・・・

ケリー「へへへッ!!さすがは兄貴ッ!!大会は3日後、朝11時だよッ!!コンディションはバッチリにしておいてね??」

ケリーが字を書き終えたミンクからペンをパッと取り上げると手に持つメモ帳が赤く光り出し、インクで書かれていた大会出場者の名前が一斉に消えていく。

これで全員の登録が完了したのだ。

水たまりの出来た床をバシャバシャと踏み付けながら機嫌良く表に出るケリー。

ミンクは空を見上げながら帰って行こうとするケリーに問いかける・・・。

ミンク「おい、俺は3日後に「闘技場」に行けばいいんだな?」

ケリー「あぁ〜、いやいや!俺が迎えに来るよ!「ユニコーンの馬車」があるんでね〜〜〜。」

ミンク「ふーん・・・馬車ねぇ・・・・(空を飛んだ方が速い気がするが・・・。)」

頭をかきながら目を瞑って受け答えするミンク・・・そのミンクの姿を見てケリーは釘を刺すように言い放つ・・・。

ケリー「兄貴・・・名前を書いた以上、絶対に出場して貰うぜ?何処にいてもこの「メモ帳」で「居場所」までわかっちまうんだからな?」

ケリーの釘の刺し方に少しムッとするミンク・・・。

ミンク「俺が逃げるって言いたいのか・・・?」

一歩、足を踏み出すミンク、

ケリー「うぉぉ〜〜〜〜〜怖い怖いッ・・・」

その姿にケリーは又も身を震え上がらせる・・・。

もっとも、今回の震え方はワザとらしい・・・。

ケリーはニヤリと笑ってイデアの街、「草原の街道」の方へと帰って行った・・・。

ミンク「闘技場で・・・大会か・・。」

ミンクは家の床下に隠していた「1本の杖」をそっと取り出す・・・。

空を飛ぶ為の「長い樫の木の杖」とは違い、黄金ミスリルで出来た長さ1m程の杖・・・。

ミンクはバトンでも振るかのように鮮やかにその杖を振り回すと精神を統一させる・・・。

ミンク「(ずっと山奥で読み続けた本の「知識」と身を削って思案した「知恵」が・・・どこまで通用するんだろうなぁ・・・?)」

目を大きく見開くミンク。その目は先程までとは違い「活力のある目」になっていた・・・。

山で熊や魔物などばかりを相手にしてきたミンクにとって初めての「人間との戦い」。

無性に心を躍らせる・・・。オマケに「賞金」に「人気」までが付いてくるのだ・・・。

これ以上、ミンクにとっては求めるモノはないだろう・・・。

ミンク「あっ・・・」

フッと現実に戻るミンクは杖を持ち上げていた腕をダランと下ろし、やるせなさそうに首を下に向ける・・・。

ミンク「ボロボロの家・・・直さなきゃ・・・。」

元々、1日で造った家はミンクによってまた、1日で建て直された・・・。


・・・・・・・・・・


3日後、ミンクは朝早くから家の前にある切り株の上で座禅を組んでいる。座禅は精神を鍛えるにはとても効果的なのだ。

「大会」に出る前の調整といった所であろうか?

目を瞑りながら空を向くミンクはゆっくりと息を吐きながら軟らかな自然の風を体に受ける。

ミンクの体が少し青白く輝くとスーッと体に吸い込まれるようにその光が消えていく・・・。

ミンク、気力は充実のようだ。

ミンク「ふぅ・・・こんなもんかな?」

時刻は朝、9時になろうとしていた。ミンクはすでに朝食を取り終えてケリーが来るのを今か今かと待ち侘びている。

ミンク「ってか遅いな・・・?ケリーの奴、何をしてるんだろう?」

切り株からスッと立ち上がり背伸びをしていると遠くから「馬の蹄」のなる音がしてくる・・・。

ミンク「来たか・・・」

ケリー「へへへっ!兄貴ッ、お待たせですッ!!!」

ゆっくりとユニコーンの馬車に向かうと馬車には当然の事ながらケリーが乗っている・・・。

ミンクを笑顔で馬車の中に招き入れて一枚の紙をミンクに手渡すとルールについて説明しようとする・・・。

ケリー「兄貴、大会はトーナメント方式で・・・」

ミンク「・・・・・・」

ジッと紙に書かれているトーナメント表を見てみると、どうやら「5回」勝てば優勝の様だ・・・。

紙の裏に書かれていたルールに目を通すと目を大きくしてケリーに問いかける。

ミンク「お、おい?剣士や武闘家も出場するのか!?」

ケリー「へっ?そりゃ大会ですしね?まさか魔法使いばかりが出ると思ったんですか・・・?」

ミンク「いや、遠距離での攻撃が出来ない剣士や武闘家じゃ、魔法使いの魔法って卑怯じゃないのか・・・?」

ケリー「いやー!兄貴ってばイキナリ対戦相手の心配ですか?流石ですねーーー!!!」

手を数度叩き高笑いするケリーはニヤリと笑い人差し指を振りながらミンクに言い放つ・・・。

ケリー「油断しない方がいいですよーー?この「ライフダウト」は、「魔法使い」が優勝した事無いんですからぁ!」

自信ありげにそう言い放つとケリーはかばんに入れていたウィスキーボトルを取り出してグイッと酒を飲み込む。

そして、頬を少し赤く染めてミンクに一言だけ忠告を入れた・・・。

ケリー「まぁ、怪我しないようにように気をつけて下さいよ・・・。(くっくっく・・・怪我どころか本当に死ななければ・・・いいんだがなぁ・・・)」

心の中で裏腹な事を考えるケリー・・・。ケリーの心の中での「独り言」は続く。

ケリー「(イデアの魔人と言えば今が旬の魔法使い・・・。今回の集客に大いに役立って貰えたよ・・・)」

再度、グイッと酒を飲み込むケリー。

ケリー「(ここ最近、街のみんなに陰口を叩かれていたアンタが大会に出たら「ヒール」になるのは確定・・・

ライフダウトはイデアの強者のみが出る大会だ・・・。アンタがボロボロにやられる様を観客は身を歪ませて喜ぶ事だろう・・・。)」

空になったウィスキーボトルを逆さにして注ぎ口を品も無く、のぞき込むケリー・・・フッと笑いを浮かべてうつむく・・・。

ケリー「(アンタがこの大会に「名前を書くだけ」で出れたのも・・・アンタが無残にヤラれる所を見たいって奴が多いからなんだよ・・・。さっきまであった「命」が嘘のように消えていく格闘大会「ライフダウト」・・・。あんたはどれだけ耐えれるんだろうなぁ?)」

ケリーがそうこう考えている内に「草原の街道」へと到着する・・・。

いつもよりも数倍人通りの多い闘技場は露店も沢山出ている・・・

大人が子供の様にハシャギ、沸き返り、大会が始まるのはマダか?マダか!?と待ち侘びている。

それをすり抜けるように裏手入り込み、沢山のユニコーンの馬車が止まっている闘技場の裏門に到着する・・・。

表通りとは打って変わって殺風景な裏口・・・人は誰もいない・・・。

ミンク「なんだ?俺たちで最後か?」

馬車を降りて周りを見渡すミンクの肩をポンっと叩き、道案内をするケリー・・・。

ケリー「へへへ、真打ちは最後って昔っからの決まりじゃないですか?さささ、こちらへ・・・。」

ライフダウトのエキジビジョンへの入り口を入っていくミンク。

その入り口は少し異様な雰囲気を醸し出して、少し薄暗い・・・。

中には出場者用の個室か人数分用意されていた。

それぞれの個室から雄叫びが聞こえてきたり、魔法の詠唱が聞こえてきたりとウルサイ事この上ない。

「ミンク様、控え室」と書かれているドアのノブを捻り部屋にはいるとミンクはケリーに問いかける・・・。

ミンク「俺は表じゃ「第七試合」だったが呼びに来てくれるのか?」

部屋に置かれている果物や飲み物に目を止めるとミンクはリンゴを取り上げる・・・。

ケリー「もちろんですよ!ちゃんとアシストさせて貰いますよ〜〜〜ッ!」

個室にミンクが入った後、ケリーがドアノブに手を掛けてドアを閉じようとする・・・。

最後にミンクに笑顔で言い放つ。

ケリー「それじゃ兄貴、この部屋にある物は何でも食べてくれていいですから〜〜。(地獄に行く前に精々栄養を付けときナ・・・。)」

パタン・・・

ケリー「ライフダウト出場者の強さに愕然とするアンタの顔が目に浮かぶぜ・・・。」

ドアを閉じるとケリーは更に奥に続く闇に包まれた通路を歩いていく・・・。

その先には、これからミンクが戦う闘技場があるのだ・・・。

ミンクはケリーの企みを何も知らずに・・・戦いの時を待っていた・・・。

・・・・・・・・・

昼の1時・・・今、準決勝戦の戦いが行われている・・・。

会場は観客の熱気で沸き返り、興奮のあまり皆が大声で歓声を上げている。

斧を持つ屈強そうな戦士ゲイルが気力を振り絞り、必殺技を出そうとしているがそれに対峙する魔法使いは余裕の顔で戦士の一撃を待っている・・・。

その魔法使いの様を見つめてケリーは汗をダラダラと流して大口を開ける・・・。

勝ち残っている余裕の顔つきの魔法使いは・・・ミンクである・・・。

これが終われば残すは決勝戦のみであるが、ケリーの考えとは裏腹にミンクはこれでもかと言うほど順調に勝ち進んでいた・・・。


ミンク「ふぅ・・・この大会こんなモノだったのか?名前ばかりで期待外れだったなぁー・・・。」

ゲイル「き、貴様ぁ〜、ぶっ殺してやるーーーーッ!!」

かなりのスピードでミンクに間合いを詰め、闘気で光り輝く斧を振り下ろすゲイル・・・。

ヒュ・・・

ミンクが指先をさっと振るとゲイルの背後、10mの位置に瞬間移動する・・・。

片眉をゆがめて、杖で肩を叩きながらゲイルに言い放つミンク。

ミンク「ホラホラ、闘気の無駄使いだ・・・。」

屈強な戦士をまるで子供扱いするミンクは常に本気を出していない。

ケリー「まさか・・・「詠唱無し」で魔法を使えるなんて・・・。」

通常、魔法使いというのは「魔法の詠唱」を終えてからしか魔法を使用する事は出来ない。

「ライフダウトで魔法使いが優勝した事がない」と言われる理由は詠唱を終える前に魔法使いが攻撃を受けてしまうのが原因だったのだ。

しかし、ミンクの魔法には詠唱がまったく無いので戦士の攻撃よりも素早く攻撃できるのだ!

哀れむような瞳でゲイルを見つめて黄金ミスリルの杖に魔力を込めていく・・・。

ミンク「じゃ、これで倒れるんだぞ・・・?」

ゲイル「き、貴様ーーーッ!!!」

ミンク「サンダースピアッ!!」


ズバーーーーーーンッ!!!!


手加減された雷の魔法がゲイルに放たれると電撃が体中を突き抜ける・・・ゲイルは無残に口から煙を吐きながら倒れていった。

ミンク「ふぅ・・・こんなモノか・・・?」

ミンクの雄志にオロオロしながら汗を垂らすケリー・・・。

その慌てぶりは尋常ではない・・・。

何をこんなに焦っているのであろうか・・・?

ケリー「(く、くそ!?こんなに強いなんてあり得ない!見立てじゃ一般の魔法使いに毛が生えた程度だと思ったのに!
賞金の話も1000万ドニアなんて言ったが・・・実際は10万ドニアなんだぞ・・・?)」

なんと嘘の賞金金額をミンクに話していたケリー!!

卑怯な手段を用いたのがここに来てアダとなった様だ・・・。

カーム「(・・・?ケリーの奴、何をオロオロしているんだ・・・?)」

それをエキジビジョンの袖口で見ていたケリーと同じファイタースカウトの、カームがケリーに声を掛ける・・・。

カーム「おい?ケリー??何をそんなに慌ててるんだ・・・?」

ケリー「あ、カームの兄貴ッ!!じ、実は・・・。」

汗を垂らしてカームに事情を話すとケリーは泣きそうな顔でしょげ返る・・・。

その姿を見て、カームはニヤリと笑ってケリーの肩を叩く・・・。

カーム「心配するな!魔人の野郎が次に戦う「剣士ウォルト」は俺がスカウトしてきたんだ。イデア三銃士の副官なんだぞ?負ける訳がない!!」

ケリー「あ、あのイデア三銃士のッ!?」

イデア三銃士とはイデア国家を守る最強の衛兵。

国家近隣に現れる魔物や盗賊の駆除に関して全てを任されている軍隊の指揮官である。

その副官ともなればかなりの強さを誇るのであろう・・・。

ケリーは大きく息を吐いて安堵の表情を見せる。

ケリー「そ、そうか〜・・・それなら安心っすね〜。」

カーム「あぁ!だが万が一の為に、「保険」を掛けておこうか?」

ケリー「保険・・・?」

ミンクの方を向いてニヤリと笑いながらケリーの耳元で囁くカーム・・・。

たちの悪い二人の悪巧みが次の試合に仕組まれていく・・・。

・・・・・・・

ミンク「ふぅ、次で最後みたいだが観客には・・・どんな風に映ってるんだろうなぁ?俺って・・・?」

控え室に戻り、観客の視線を気にするミンクが椅子に座りながらくつろいでいる。

後10分程でまた、試合が始まるのであるが次が決勝戦。

ミンクは魔力回復用のアイテム「マナの水」を数本飲み干す。

ミンク「よし、これでバッチリだ・・・。」

スッと椅子を立ち上がるとミンクは首を数回回して背伸びをする。

するとドアの外からケリーが引きつった声でミンクに話しかけてくる。

ケリー「あ、兄貴ッ!!決勝戦が始まりますよッ!!急いで下さいねッ!!それじゃッ!先に行ってるんでッ!!」

慌ただしく闘技場に走っていく音が部屋の中にいるミンクに聞こえてくる。

ミンク「?(何をあんなに急いでいるんだ、アイツ・・・?)」

ケリーの慌ただしさに首を傾げながら部屋の外に出るミンク。

ミンク「まぁ、決勝戦だしアイツも忙しいんだろうなぁ・・・。」

ミンクはケリーの悪巧みに気付かないまま・・・闘技場へと向かっていった。


うおぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!!!


ミンク「うぉッ!?こ、この歓声は・・・?」

先程まで結構高まっていた観客の熱気ボルテージに輪が更に掛かって高まっている・・・。

その観客の熱気がミンクをむせ返るくらいに息苦しくする。

ミンク「す、すごい・・・観客みんなが俺を、あんなに熱い視線で見るなんて・・・。」

狂気にも似た声援に包まれるミンクだが大勢が一斉に怒鳴り上げているので何を言っているのかはサッパリ分からない・・・。

ミンク「いやいや・・・今は決勝戦の相手に向かい合わないとな・・・」

一度目を閉じて息を整えると中央の決勝戦のステージに向かっていくミンク・・・。

中央のステージにはすでに「剣士、ウォルト」が控えていた。

ミンクを寡黙に蔑んだ目で見つめながら、腰に据えた鋼の剣をスッと抜き出す。

その鋭い眼光はミンクに向けて深い「殺意」が込められている・・・。

ミンク「はっ、やる気満々ですか?剣士さん?」

ニヤッと笑いを浮かべてウォルトに杖を向けるミンク・・・。


今、決勝戦が始まる・・・。


冴えないセコンドが試合開始の合図をした後、慌てて場外へと走っていく。

戦う者だけが残った闘技場・・・双方がそれぞれ、得意としている攻撃態勢に入る・・・。

剣をグッと低く構えて、先程まで寡黙だったウォルトがミンクに向かって大声で怒鳴り上げる・・・。

そのウォルトの発言はミンクに大きな目を開けさせて、混乱へと誘う・・・。

ウォルト「魔人よッ!ここまで「人質」を使って勝ち進むとは卑怯にも程があるぞッ!!」

ミンク「ひ、人質ッ!?」

ウォルト「聞いたぞッ!この大会関係者の子供を攫って無理矢理「ライフダウト」に出場した事もなッ!!」

カームとケリーは試合が始まる前、ミンクの嘘の情報をウォルトに吹き込んでいた様だ。

ウォルトはカーム、ケリーの言う事を心の底から信じ切っている・・・。

ミンク「ま、待ってくれよ・・・?俺はそんな事・・・」

ウォルトの言う事をまったく理解できないミンク・・・。

ミンクはウォルトに大きな声で問い返そうとすると、ウォルトは待ってましたとばかりに一気に間合いを詰めてミンクに斬りかかる・・・。

ウォルト「滅びろ、悪よッ!!「瞬裂斬」ーーッ!!!!」

ミンク「(は、速ッ!!!)」

ウォルトのあまりにも速い間合いの詰め方に驚きながらも魔法を使用しようとするが、杖を下ろしていたのがマズかったか?

ザシュッ・・・

左腕に斬撃を喰らってしまうッ!!

ミンク「グッ、グゥゥ・・・・」

ウォルト「ちっ!浅かったか・・・次は・・・首だーーーーッ!!!」

先程と同じ技でミンクに斬りかかるウォルトはターゲットをミンクの首だけに絞る。

ウォルト「(決まったッ!)」

ミンク「・・・・・・」


フッ・・・・


ウォルト「な、何ッ!??」

大きく剣を振ったウォルトだが、何故か何処にもミンクの姿を確認できなくなってしまう。

瞬間移動の魔法を使用した様子だが辺り360度を見渡してもミンクは見当たらない・・・。

ウォルト「お、おのれ?逃げだしたのかッ!?」

ミンク「逃げやしないよ・・・。どういう事か説明してくれよ・・・。」

ウォルト「なにッ!?上ッ?」

ミンクは瞬間移動で空中へと移動し空飛ぶ魔法を使って飛んだままでウォルトに話しかける・・・。

剣が届かない上空なのでミンクも剣撃に気を遣うことがない・・・。

するとウォルトは空へと移動したミンクに対して大声で暴言を怒鳴り上げる。

ウォルト「お、おのれ魔人めッ!俺の剣技に臆したか!?」

ミンク「そうじゃない!お前の言う事が全く分からないって言ってるんだよッ!」

頭をボリボリと掻きながら眉をしかめるが場外から観客が一斉に野次を飛ばす。

客1「早く戦えよッ!!休憩してるんじゃねぇーーッ!!」

客2「何やってんだッ!!勝負が付かないだろーーッ!降りて戦えッ!!魔人ーーッ!!」

ミンク「ったく・・・うるさいな・・・外野が・・・」

眉を大きくしかめて目を瞑るが、観客から思いもよらなかった野次がミンクを襲う。

客3「俺たちはお前が死ぬ所を見に来たんだよッ!!」

客四「さぁッ!さっさと殺されっちまえよーーッ!!」

ミンク「なっ・・・?」

目を大きく見開いてミンクへの野次の声が聞こえた方を探すミンク・・・

しかし・・・その野次は・・・

客5「死ねッ!!魔人ーーッ!!!」

客6「気持ち悪いんだよッ!!空なんて飛びやがってッ!!」

どんどん、観客席全体から聞こえてくる・・・。

ミンク「そ、そんな・・・観客全員が俺に野次を飛ばしてくる・・・?」

今まで観客の応援が自分にも僅かながらでもあったと信じていたミンクは今、初めて観客全員に敵意がある事に気付く・・・。

ウォルト「バカめ、観客は誰が「正義」かよく分かっているのだ・・・。」

蔑んだ目で見つめるウォルトはミンクがいつ地上に降りてきても言い様に「必殺技」の構えを取る・・・。

しかし、観客の野次はまだ終わらない・・・。

客7「この街で空を飛んでいるのを見かけた時から気に食わなかったんだッ!!」

客8「お前みたいな「訳の分からない魔法」を使う様な奴が一番アブナイんだよッ!!!」

客9「調子こいてんじゃねぇぞッ!!馬鹿野郎がーーーッ!!」

ミンク「そ、そんな・・・違う・・俺は・・・」

ミンクの心が深く深く傷ついていく・・・。

悲しみの底へと堕ちていくミンクに観客は・・・トドメの野次をミンクに飛ばす・・・。

客全員「死んでしまえーーーーッ!!!」

ミンク「(ど、どうしてここまで嫌われるんだ?「一般の魔法使いが使用できない魔法」を使うという事はここまで嫌われる物なのか・・・?)」

心を締め付けられて息が荒くなる・・・。観客の表情を見てみると「畏怖」と「狂気」に満ちている・・・。

ミンクの言う通り、一般人にとってミンクの「魔法」は脅威以外の何物でもない・・・。

今までに見た事もない技術を持つ者。街の全ての者は一見しただけでそれに恐れを抱き、脅威を感じたのだ・・・。

ミンクの悲しげな表情を闘技場の袖から見ながらほくそ笑むケリー。

ケリー「これだ!これが見たかったんだ!!そのまま・・・力なく、殺されっちまえ!!!」

カーム「クックック、ケリーよ・・・エグイ事を考えるなぁ・・・?」

観客の異様な活気を見て気分が高揚しているのか?

ケリーの笑顔は人間の笑顔に感じる事が出来ない・・・。

ウォルト「さぁ、死刑執行だ。降りてくるがいいッ!!「イデアの魔人」よッ!!!」

大きな声で怒鳴り上げるウォルトの声がミンクの耳に届く。

ミンク「・・・・・」

ウォルト「なっ・・・なんだ!?その目はッ!!!」

ミンクは「悲しみ」を越えて・・・「怒り」で目を大きくしてウォルトを睨み返す!

その目は・・・「涙」で溢れている・・・。

ミンク「あぁ、降りてやるさ・・・。今すぐに・・・な・・・。」

いつもよりも低い声を出すとミンクは目をスッと瞑る・・・。

ウォルト「くくく・・・楽に殺してやるぞ?」

ミンクは人差し指を立てて腕を振る・・・。

ミンク「ゴッドキャスリングッ!!」

その瞬間ッ!!


ウォルト「な、何ーーーッ!?」

なんとウォルトは空中に居たミンクの場所へと瞬間移動したのだ!

代わりにウォルトの居た場所にミンクは立って・・空から落ちてくるウォルトを睨んでいる・・・。

ミンク「・・・・・・」

ミンク謹製の魔法「ゴッドキャスリング」。

それは目に見える生物とならば誰とでも居場所を交換できる魔法である。

この魔法も、一般で使用される事のないミンク特製の魔法・・・。

遙か空中から「空を飛ぶ術」を持たないウォルトが・・・哀れに落ちていく。

ウォルト「う・・ううう・・うわーーーーーッ!!!」

ドガッ・・

観客「・・・!!」

カーム「お、おいおい・・・ば、場所を交換だと!?」

ケリー「そんな!?あんな魔法・・・反則だッ!!」

今まで異様な熱気に包まれて野次でうるさかった場内がシーンと静まり返る。

ミンクはゆっくり地面に墜落したウォルトに歩いていくと蔑んだ目で見つめながら回復魔法「キュア」をかける。

ミンク「・・・・(回復魔法を使用しても・・・暫くは目を開けないか・・・。)」

ふっと闘技場の袖を見てみるとケリーがミンクを青ざめた顔で見つめている。

その表情を一見して悟った様に溜息をつく。

ミンク「どうせさっきのウォルトの言ってた事・・・アイツの仕業だな・・・。」

静かな怒りの満ちたミンクはゆっくりとケリーの方へと歩いていく・・・。

ケリー「ひっ・・た、た・・助けて・・・」

ミンク「・・・・・」

しかしミンクはケリーを一発でも殴るかと思いきや、何もせずに悲しげに控え室に続く道を歩いていく・・・。

ケリーを通り過ぎた後、振り返りもせずにミンクはケリーに言い残す・・・。

ミンク「賞金はもういい・・・俺に二度と近寄るな・・・。」

ケリー「は・・はぁぁ・・・わ、わかりました・・・!!」

カーム「よ、よかったな・・・おい・・・。」

悲しげに闘技場を後にして空を飛んでいくミンク・・・。

誰もが見た事のない魔法で戦いを繰り広げたミンクに城内の観客は最早、罵声を浴びせようとする物はいなかった・・・。


ミンク「もう・・・俺は「人間」なんて物に関わりたくない・・・。山へ・・・帰ろう・・・。」

ミンクがイデアに移住してたった半年と少し・・・。

ミンクはティモーレの山奥へと帰っていくと決意したのだ・・・。

「イデアの魔人」という畏怖の名前だけを残して・・・悲しく帰って行く事しかできなかった一人の魔法使いのお話である・・・。



「第3章、イデア三銃士の風の魔女」

イデアの魔人が消えてから1年の月日が流れた・・・。

街は活気に溢れて誰もが皆、元気に活動している。

珍しい物を陳列する露店や大道芸人が道行く人を笑わせている風景が遠目に見ることができる山上にそびえる大きな城。

新興国、イデアが誇るイデア城である。

白色の外壁に茶色い屋根。ノイシュバンシュタイン城を思わせるように建てられたその城は大きな敷地に優雅にそびえたつ。

その城の中央の広場には「剣士」や「魔法使い」がチラホラと見えて、慌ただしい雰囲気を醸し出している。

剣士は銀色の鎧に身を包み、魔法使いは軍服に身を包んでいる。

男性のみならず女性も多く見受ける事が出来る様だがその女性の殆どは「魔法使い」であった。

そう、この城にいる魔法使いは殆どが女性であるのだ。

剣士1「今日は「二時」から魔法使いと合同で軍事練習だとよ・・・。」

剣士2「そかー、「女」と一緒だったら・・楽な訓練になるだろうなー・・・」

今は休憩中であろうか?剣士も魔法使いも一同に私語を交し合っている。

その私語を手に顎を据えて眺めている水兵服を模した軍服を着る可愛らしい雰囲気の女性・・・。

3階のテラスから剣士に声を掛ける。

???「ふふふ、私たちと一緒だったら楽が出来るって言いたい訳・・・?」

剣士1「あんっ!?って・・・か、かすみ・・・さんッ!!」

剣士2「バカッ!かすみ隊長だろっ!?」

かすみ「ま、お手柔らかに頼むわね?屈強な剣士さん?」

ツンと剣士に背を向けてテラスを立ち去る魔法使いかすみ・・・彼女はこの城で魔法兵団の隊長をしている。

あまりに凄まじい「風の魔法」を使う事から「風の魔女」とも呼ばれ、イデア最強の称号「イデア三銃士」の内の一人にも数えられている。

言うなれば「魔法使いのエリート」である。

今では「上官」のリーシュよりも「腕が立つ」ともっぱらの噂だ。

かすみ「(女だからって・・・バカにして!私一人でも剣士10人くらい・・・いいえ20人だって一瞬で倒せるって言うのに!)」

少し不機嫌そうな表情で城の廊下をつかつかと歩いていく・・・。

年の頃は16歳、まだまだ幼さが残る年頃である。

その16歳という年齢から、城の男はかすみをナメてかかる者も多い。

かすみ「はぁ・・・男って本当に「口」ばっかりで強い奴なんていないって言うのに・・・。」

両手を組みながら首を振り・・・呆れた様に自室に入っていく。

部屋はイデアに支給されているのであるが「女の子」らしいものは一切置かれていない殺風景な部屋。

デスクに置かれている本をスッと取り上げると空中に放り上げる。

かすみ「んッ!!」

放り上げられた本をかすみが指さすとピタッと本が空中で止まる!!

と、思いきや・・・

かすみ「くふっ!!やっぱダメッ!!」

ドサッ!!

眉をしかめて地面に落ちた本を拾い上げるとボソッとつぶやく。

かすみ「ふぅ・・・魔法で物の浮かべるのって本当に難しいわね・・・。」

本を丁寧に閉じた後、部屋に置かれているベッドの上にドサッと体を預ける様に大の字で横になる。

かすみ「ここに配属されて1年にも満たないけど・・・ああいう男が多いと面白くないわ・・・」

城の男の態度に不満を持つかすみは溜息をついて目を閉じる。

かすみ「オマケに外にも出る機会が全くないから・・・ストレスも溜まるし・・・」

日々、部下の訓練を任されているかすみは城から外に出る機会が少ない。

かすみは日々、自分の環境をカゴに閉じこめられた小鳥の様に感じている。

コンコンッ・・・

かすみの部屋のドアからノックの音が聞こえてくる・・・。

???「あの、隊長・・・?いますか・・・?」

かすみ「あ、はいはい?入ってきていいわよ?」

ベッドに寝そべっていたかすみは慌てて立ち上がり乱れた衣服を整えて咳払いをしながら言い放つ。

???「レイナ、入ります・・・。」

ガチャっとドアを開けられた先には、かすみと同じ服を身につけた女性が立っている。

唯一つ違う点は、胸元にはかすみのような「勲章」も無く、服に刺繍された星の印が少ない・・・。

かすみの服には四個の星の刺繍と星の形をしたアクセサリーが四個の計8個あるが、レイナの服には3個の刺繍、アクセサリーが2つ計5個である。

しかし、かすみはレイナの服に付いている星の印に喜びの声を上げる。

かすみ「きゃっ!?レイナ!やったじゃない?とうとう「五つ星」になったのね?」

レイナ「あはっ・・これも隊長のお陰です・・・。」

この城では「魔法使い」の階級は星の数で定められている。つまり星の数が多いほど権力を持つという事になる。

レイナは頬を赤く染めて少しうつむきながら、かすみに礼を言う。

このレイナはかすみの信頼する部下の一人である。

かすみ「この分だと私が追い抜かれちゃうのも時間の問題かもね?」

レイナ「そ、そんな訳ないじゃないですか!?私なんかが・・・隊長に追いつくなんて・・・。」

両手を広げてブンブンと振るレイナ。レイナはかすみの事を随分と尊敬している様に見える。

かすみはレイナの服の星印にそっと手を伸ばしてレイナに微笑みかける。

かすみ「ふふふ、この服を私に見せに来てくれたの?レイナ・・・?」

レイナ「えぇッ!!隊長に教えて頂いた通りに試験を受けて合格できたんですもの!当然です!!」

かすみの問いに答えるレイナはスカートの裾をちょっと持ちながらかすみに360度見える様にクルッと廻って笑顔で微笑む。

よほど嬉しかった事がレイナの表情や仕草を見るだけで理解できる。

かすみはくすくすと笑いながらレイナの肩をそっと叩いてドアの方へとレイナを連れていく。

かすみ「軍事訓練までもう少し時間があるから、一緒に「ケーキ」でも食べに食堂にいきましょう、レイナ。」

レイナ「うふふ、はいッ!今日は私がおごりますね!!」

かすみ「ダメよ、私がおごってあげるわ。「昇格祝い」ってヤツょ・・・って、ちょっと安い昇格祝いかしら??」

レイナ「そんなッ!と、とんでもないですー。」

二人は笑顔で食堂自慢のショートケーキを食べに行く事にした。

・・・・・・・・・・

同じイデア城の別室。重苦しい雰囲気に包まれたその部屋の中には重苦しい雰囲気の男が3人、円卓に座って話をしている。

どうやらこの城の「重役」が会議をしている様だ・・・。

剣の刺繍12個と右胸に勲章のある騎士が口を開く。

騎士長「大臣、現状では隣国ドルロレとの戦争はあまりに非現実的だ・・・。」

続いて、少し若めの魔法使い風の男が自信なさげに口を開く。この男の服には10個の星印の刺繍と右胸に騎士よりも小さめの勲章が着けられている。

軍師「た、確かにレヴォルト騎士長殿の言う通り兵力が違いすぎる。我がイデアは新興国が故、未だに強固たる兵団も存在しない・・・。」

国王を差し置いて戦争の話をしている大臣、軍師、騎士長・・・。通常であればあまりに不自然な会話であるが、

どうしてこの3人はこのような話をしているのであろうか?

軍師「今は国家を安定させ無ければいけない大事な時期だというのに・・・」

レヴォルト騎士長「軍師リーシュの言う通りだが・・・。大臣アーク殿の送った密偵の得た噂は事実なのですか・・・?」

汗を垂らしつつレヴォルト騎士長が大臣、アークに問う。

大臣アーク「諸君らが言う通り新興国であるが故、今は国家を安定させる必要がある。しかし、ドルロレに送っていた密偵からの情報は確かなのだ。これを現実として受け入れなければイデアに明日は無い・・・。国王が病に伏せっていなければお話しも出来るのだが・・・」

レヴォルト騎士長「ふむ・・・どうにかして戦争を回避できないものか・・・。」

軍師リーシュ「ゆ、友好関係を結ぶ為に「第2皇女」にドルロレの「第3王子」と婚約を結ばせれば・・・」

レヴォルト騎士長「ふむ、それも良いかもしれないが少し弱いのでは・・・?」

好き勝手な相談をしている3人。その「政略結婚」に待ったを掛ける大臣アーク。

大臣アーク「馬鹿な事を言うな、二人とも!政略結婚で回避できる様な甘い状況ではないのだ。」

そういうと大臣アークは円卓の上に城外秘の密書を円卓に広げる。

大臣アーク「この「イデア兵団構成詳細図」が城外に漏れ、ドルロレに戦力を理解された上で戦争に挑まれようとしているのだぞ?」

レヴォルト騎士長「ぐッ!!こ、これは・・・。」

軍師リーシュ「くっ、確かにドルロレの2分の1の戦力であることは・・・一見で理解されてしまいますね・・・。」

大臣アーク「姫を差し出した所で何の解決にもならん!!最早、一刻の猶予も無いのだぞ!どう考えても現状の戦力を2倍以上に増やすしか「イデア」が生き延びる道はないのだ!戦力を早急に増やす良案を・・・検討せねば・・・。」

大臣アークは円卓に力強く両手を押さえつけて椅子に座る・・・。

その後、右手で額を押さえつける様にして考え込む・・・。

レヴォルト騎士長「な、ならば傭兵を雇うというのはどうでだろうか・・・?」

目を光らせて大臣アークに言い放つレヴォルト騎士長。

だが、軍師のリーシュが溜息をついて首を横に振る・・・。

軍師リーシュ「傭兵一人当り一ヶ月に「五十万ドニア」は必要ですよ?1000人増やすだけで「五億」なんて・・・現状の国家予算では、そんな大金とてもではないが不可能です・・・。」

レヴォルト騎士長「ふんッ!愚かな国民の税金を上げれば良かろう?早急に対応するにはそれしかあるまい?」

大臣アーク「レヴォルトの言う事は分からないでもないが「傭兵」ではいざと言う時、逃亡する恐れもあるぞ?」

税金の値上げに関しては同意の大臣アーク・・・。傭兵という案には反対する。

軍師リーシュ「では、国民より兵団希望者を募れば良いのでは・・・?」

レヴォルト騎士長「なるほど!そうすれば「逃亡者」も押さえられるし、前線に赴かせれば「犠牲者」も現状の「貴族主体の騎士団」には大して被害が及ばないということか・・・?」

軍師リーシュ「い、いや・・・それは・・・」

レヴォルトの言葉の返答に困惑する軍師リーシュ・・・。

大臣アーク「なるほど、それは名案・・・痛みは「国民」のみが引き受けてくれるという事か・・・。」

聞けば聞くほど「国民」の事を思っていない発言が飛び交っていく。

リーシュは眉を少ししかめているが、満足そうな笑顔が大臣や騎士長には戻っていく・・・。

その表情に水を差す様に軍師リーシュが二人に言い放つ。

軍師リーシュ「し、しかし問題点として・・・民間人に希望者を募ってどれだけの人数が集まるか・・・。」

大臣アーク「ふむ、確かに「兵士」になりたがる者は少ないだろう・・・一人で100人に相当する人材がいればいいのだが・・・。」

レヴォルト「むぅ・・・民間では「剣士」も「魔法使い」も、たかが知れた者しかいないかも・・・しれませんな・・・。」

三人「・・・・・・・」

暫く三人とも黙りながら、頭の中で「兵士適任者」を模索する。

円卓に置かれた高級な花柄のティーカップには林檎の香りのする紅茶が入っているが、会議の為にぬるくなっているのか?

大臣アークが香りを嗅ごうとしても「林檎」の香りはしてこない・・・。

不機嫌そうにグッと紅茶を飲み干した時、軍師のリーシュが声を上げた。

軍師リーシュ「そ、そうだ!奴なら100人どころか・・・1000人に匹敵する強さかもしれない!!」

レヴォルト「(・・・・・・・)」

大臣アーク「 ? 奴・・だと?」

眉をしかめて軍師リーシュを見つめる大臣はティーカップを円卓にスッと置いて問いかける。

レヴォルトは何故か寡黙にリーシュを見つめている。

軍師リーシュ「そう!奴です!!「イデアの魔人」ッ!!大分前に噂になったでしょう?」

大臣アーク「・・・?「イデアの魔人」・・・?なんだそれは?」

レヴォルト「確か・・・闘技大会「ライフダウト」の2年前の優勝者・・・ですなぁー。」

不機嫌そうに肘をついて、顔を横に背けるレヴォルト騎士長。

大臣アークは眉をしかめて軍師リーシュに再度問いかける。

大臣アーク「強いのか?そいつは?」

アークの疑いの表情にバッと椅子を立ち上がり、笑顔で答える軍師リーシュ。

リーシュ軍師「えぇ!目の当たりにした訳ではありませんが、レヴォルト騎士長の部下であり息子殿でもあるウォルト殿をあっさり倒したという・・・あっ・・・。」

滑らせる様に出してしまった発言に汗を垂らしながらレヴォルトの方をチラリと見るリーシュ。

明らかに不機嫌そうな顔つきのレヴォルトがリーシュに向かって吐き捨てる様に言い放つ。

レヴォルト「ふんッ!あんな「ペテン師」、私に掛かれば子供も同然だ!息子のウォルトにしてもあの頃はまだまだ若輩者だった・・・。しかしまぁ、前線に配置するのであれば「矢避け」程度には使えるかもな。」

大臣アーク「ほぉ?レヴォルトの嫡男が敗れたのか・・・?」

レヴォルト「2年前の話です。実際に今年の「ライフダウト」ではウォルトが優勝している。」

軍師リーシュ「そ、そうですとも・・・決してウォルト殿よりも「イデアの魔人」が強いワケがない!」

宥める様にレヴォルトに微笑みかけるがその額は少し汗ばんでいる。

両腕を組んで鼻息を荒くするレヴォルトはゆっくりと目を開けて不機嫌そうに軍師リーシュに言い放った。

レヴォルト「「イデアの魔人」を兵士にしようと言ったのは君だ!精々断られない様にうまく奴を引き入れる事だな!」

大臣アーク「うむ、「イデアの魔人」招集任務及び兵団希望者100名以上招集任務、軍師兼、魔法兵団長のリーシュ、君に頼む事にしよう。」

軍師リーシュ「え、えぇっ?」

目を大きくして慌てふためき・・・二人が会議室を後にしようとしている後ろ姿を歯を食いしばって見つめる。

ドアを開ける間際、ニッと笑いながら大臣アークがリーシュに言い放つ。

大臣アーク「期限は一ヶ月。もし出来なければ、前のように「イデア三銃士」の称号が消えるだけでは済まないぞ・・・?」

レヴォルト「ふふふ、まぁ君の手腕に期待している。」

リーシュ一人を残して、上機嫌で会議室を出て行った大臣と騎士長。

赤い絨毯の引かれた廊下をゆっくりと歩いていく。

リーシュ「ふん・・・せいぜい今のうちに威張っている事だ・・・あの狸と狐め・・・今に見ていろ・・・。」

軍師リーシュが前髪をグッとかき上げると今までと違い「厳しい眼差し」へと変貌する。

あまりに変貌したリーシュの心の中には何が描かれているのか・・・?

それは、今は誰にも分からない。

・・・・・・・・・・・

かすみ「あー、ここのケーキは本当に美味しいわー!」

レイナ「えぇ、イチゴと生クリームが絶妙ですよね!!」

食堂を入って一番奥の一番隅のテーブルに座り、美味しそうにショートケーキとアップルティーを食べている二人。

キャッキャと騒ぎながらケーキを食べるその姿は一見、女学生と何ら変わらない。

頬に付いた生クリームを指で拭い、嬉しそうにおしゃべりをしているようだ。

かすみ「はぁ〜、この瞬間がお城の仕事を忘れる事が出来る唯一の時間よねー。」

レイナ「えぇ!甘い物は本当に心を和ませてくれますもんね〜。」

ケーキの生クリームだけをフォークですくい上げて掲げる様に見つめるレイナがゆっくりとそれを口に運んでいく。

レイナ「ん〜〜!この幸せ・・・、男には絶対理解できないでしょうね!」

かすみ「そうよね・・・男なんてケーキの素晴らしさも理解できないバカばっかりですものねー。」

少し男に対して壁を作っているかすみの発言にレイナは含み笑いをしながら答える。

レイナ「ふふふ・・・でもでも、そういう隊長も「あの人」だけには「お熱」を上げてるんですよねーー。」

かすみ「な、何よぉ?あの人って・・・?」

頬から汗を垂らしながら椅子を横向きに座りながらアップルティーを口に運ぶかすみ。

その背後から一人の男性が声を掛ける。

リーシュ「やぁ、かすみにレイナ。休憩中かい?」

芸能人でもないのに歯を光らせて笑顔で声を掛ける軍師リーシュはそっとかすみの隣の開いている椅子を引き出して座り出す。

かすみ「ぶっ!!!   り、リーシュ様ッ!?い、いつからそこにいらっしゃったんですか?」

アップルティーを少しふき出し、心臓をドキドキさせながらリーシュの方を振り向くかすみ。

リーシュが座りやすい様にソッと席を立とうとする。

リーシュ「はっはっは。ついさっきからだよ?君たちは上司、部下の関係なのに随分と仲がいい様だね?羨ましいよ。」

レイナ「うふふ、リーシュ様ったら。リーシュ様とかすみ隊長だって上司、部下の間柄なのに仲が宜しいじゃないですか?」

かすみ「レ、レイナッ!!な、なんて言う事を・・・。」

顔を真っ赤にして両手をブンブンと振るかすみ・・・照れ隠しをしている事が誰にでもわかる。

リーシュ「ははは、仲がいいか?そうかもしれないが・・・んっ?今日は剣士と魔法使いの合同軍事訓練じゃなかったか?」

目をキョロキョロさせて時計を探すリーシュが食堂に飾られている立時計に目をやる。

時計の針は残り5分で2時を刺そうとしていた。

レイナ「やばいっ!あと5分で訓練開始だわ!!い、急がないと「教官」が遅刻なんてシャレにならないですよ?隊長!」

かすみ「ほ、本当ね!急がないと!!」

そういうと残っていたケーキを一気にパクッと平らげるかすみ・・・しかし、ハッとした様な表情で、フォークを口に含みながらリーシュの方を見る。

リーシュ「ははは、かすみは相変わらず甘い物には目がないね。」

笑顔でかすみがケーキを頬張る所を見ていたリーシュ。かすみは顔を再度真っ赤にする。

レイナ「た、隊長ぉ、一気に食べ過ぎですよ?」

かすみ「〜〜〜〜〜・・・・」

目を思いっきり閉じて赤面するかすみにリーシュが汗を垂らして話しかける。

リーシュ「あぁ、急いでケーキを食べて貰って申し訳ないが「かすみ」に用事があるんだ。レイナ、かすみは俺からの急務で指導に行けないと剣士隊の教官に伝えてくれるか?」

レイナ「えっ?急務って・・・任務ですか?かすみ隊長に?」

目を大きくしてリーシュに問いかけるレイナ。

しかし、その問いに答えることなくリーシュはレイナに話しかける。

リーシュ「おいおい、残り3分きってるぞ?」

レイナ「うっ!わ、わかりました!!急いで行ってきますッ!!」

そういうとレイナは身支度も早々に訓練場へと駆けて行った。

食堂に誰もいないことを確認するとリーシュは目を閉じながら一枚の資料を懐から取り出す。

食堂に残ったかすみにその資料をスッと差し出す。

いきなり差し出された資料に首を傾げるかすみは質問をリーシュへ問いかける。

かすみ「な、何ですか?この資料は・・・?」

リーシュ「かすみ、「イデアの魔人」というのは知っているかい?」

かすみ「い、いいえ・・・聞いた事もありません・・・。」

マジマジと資料に目を通し、添付されている少しボヤけた写真にも目を通すが今まで見た事もない人物・・・。

かすみは推測で問いかける。

かすみ「もしかして最近出没の犯罪者か何かですか?」

リーシュ「いやいや!彼は犯罪者ではないよ?確かに「前科者」ではあるようだがレッキとした一般人だ。」

かすみ「なるほど!前科者だから「イデアの魔人」なんて呼ばれているんですか?この男・・・?」

納得したかのような声を上げて、写真をマジマジと見るかすみは眉をしかめてボソッと呟く。

かすみ「なんだか・・・小汚い服装・・・。」

リーシュ「ははは、そういうなよ。彼を我らが「イデア魔法兵団」に加えようと思うんだ。」

かすみ「ええっ!?こんな男を魔法兵団に加えるんですか?」

リーシュ「あ、いや・・・かすみは・・・反対かな・・・?俺は是非、彼を迎えたいのだが・・・。」

額から汗を垂らし、頬を指でポリポリとかくリーシュはかすみに苦笑いしながら話しかけている。

かすみ「この男を・・・魔法兵団に・・・(むぅー、女性ばかりの魔法兵団に男・・・?)」

イデア魔法兵団、最高指揮官リーシュ以外に男の魔法使いは一人もいない。

かすみは口を尖らせながら更に資料に目を通す。

リーシュ「私の調べでは間違いなくこの男は「民間最強」と言っていい。私や「風の魔女」と呼ばれるかすみでさえ勝てるとは限らないよ?」

かすみ「こ、こんな小汚い男にリーシュ様が負けるなんて事があり得るワケが無いじゃないですか!!」

リーシュ「ははは、かすみは私を過大評価し過ぎだよ。イデア三銃士の称号だって既に君が引き継いでいる。それにイデアの力を確固たる物にする為には彼の力がどうしても必要だ・・・。」

かすみ「・・・・・・・」

何となく、何を指示されるか頭の中で想像するかすみはリーシュに言われる前に口を開く。

かすみ「・・・「この男をイデアに連れてくる事」が今回の「私の任務」なんですね?」

溜息をついてテーブルに資料をそっと置くとつまらなそうな顔でリーシュに問いかける。

するとリーシュは満面の笑顔でかすみに向かって首を縦に振る。

リーシュ「あぁ!君ならば俺の期待に応えてくれると信じて、この「任務」を持ってきたんだよ・・・。」

両手をかすみの両肩にすっと乗せて煌めく様な笑顔でかすみの目を見つめるリーシュ。

かすみ「!!!」

かすみは顔のみならず耳まで真っ赤にするとシドロモドロに地面を見つめる。

頬や額は湯気が起つほど火照っている。

どうやらかすみはリーシュの事が好きな様だ。

かすみ「あ、あの・・・き、期待に応えられるかどうか・・・わかりませんが全力で頑張ります・・・。」

リーシュ「ありがとう!かすみ。君ならばこの任務を達成できると信じているよ。」

優しげな声でかすみに話しかけるリーシュ。

しかし、この後かすみに向かって耳を疑う発言を口に出す。

リーシュ「それとかすみ・・・もしもの場合だが・・・」

かすみ「は、はい?なんですか・・・?」

リーシュ「「イデアの魔人」が勧誘に応じなかった場合は抹殺してほしいんだ・・・。」

かすみ「!?」

ビクッとして、目を大きく開けるかすみ・・・。

自分の耳を疑って再度、リーシュに問いかける。

かすみ「あ、あの・・・?い、今・・・なんとおっしゃいましたか?」

リーシュ「もし、イデアの魔人が勧誘に応じなかった場合は「抹殺」して欲しいんだ。」

かすみ「な、なんでそんな?相手は・・・一般人ですよね?」

リーシュの言葉に理解を示せないかすみ・・・。

額から流れる汗が頬を伝って延びていく・・・。

その汗は先程まで顔を赤くしてた時の汗とは質が違う・・・。

リーシュ「彼ほどの「力」を持った人物は「危険因子」になりかねない。万が一、「イデア」の勧誘に応じて貰えずに「ドルロレ」に手を貸されでもしたらこの国は終わりだ。」

困惑するかすみだがリーシュの真剣な眼差しに引き込まれるように返事をする。

その瞳はまるで「アクアマリン」の様に澄んだ危険な青い瞳・・・。

かすみ「は・・・はい。わかり・・ました。」

リーシュ「頑張ってくれ、かすみ。期限は残り十四日だからね・・・。」

心の中で「何か」と葛藤しながらも上官リーシュの指令に頭を下げた後、敬礼するが・・・

敬礼した後のかすみはジッと地面を見つめて顔をあげようとはしない。

今、彼女の心の中では何が考えられているのか?

いま、リーシュの心の中では何が考えられているのか?

二人の心中は同じではない事だけは・・・確かである。

リーシュは言う事を済ませると目を瞑りながら、食堂を去っていった。

・・・・・・・・・・

第4章「風の魔女とイデアの魔人」

ティモーレの山奥。豊かな自然を通り越して全く開拓されていない土地が非常に多い国。

国としての価値を考えると道路も舗装されていない上、欲しい商品もなかなか入りにくい不便な国である。

人口も大変少なく最早「国」というよりも「村」と呼んだ方がしっくりくる国である。

若者は「イデア」や「ドルロレ」へ「職」を求めて出て行くことも多く、見捨てられた国と言ってもおかしくは無い悲しい国である。

その「悲しい国」の更に更に、更に山奥・・・。

「悲しい男」が一人で住んでいる。

「イデアの魔人」と畏怖の名前を付けられた魔法使い・・・。

そう、ミンクである。

イデアから帰ってからずっと「人との接触」を拒み、自分の住んでいる山全体に「結界」を張って侵入を拒んでいた。

ミンクは今日も空を飛び、夕食になりそうなものを探して川の上を飛んでいるようだが住んでいる山とは二つ程離れた山の上を飛んでいる・・・。

ミンク「ふぅー・・・なかなか魚が見つからないなぁ・・・。今日は絶対「魚」が食べたいのに・・・。」

暫く上空から川を見つめていると上流からバチャバチャとシブキをあげて流れてくるものを見つける。

ミンク「なんだ?動物が上流から流れてきたのか・・・?」

溺れる様な雰囲気で流れてくる物体・・・。

ミンク「まぁ人じゃないとは思うんだが・・・。」

ミンク「・・・・・・」

ミンク「・・・・!?」

更に暫く見ていると「やっぱり溺れている人」だったことに気づく!!!

ミンク「何でこんな山奥に人が・・・って・・・子供・・・?」

溺れている人物が子供であった事に気づくと「川」に向かって急降下で降りようとする!!

しかし・・・ハッとした表情を浮かべた後、キュっと空中でブレーキをかけてミンクは昔の事を思い出す。

ミンク「(お、俺が・・・あの子を助けても・・・ロクな事にならないんじゃないだろうか・・・。)」

流されている子供は6〜7歳の小さな少年・・・。

無力が故、溺れているのだがその体力も限界に来ているのだろうか?

川に完全に弄ばれて陸に上がる事は不可能である事が一見してわかる。

水の中に沈み、また浮かんだと思ったら沈みかける・・・。

眉を歪めて子供を見つめるミンクは震える手をギュッと握り締め、頭の中で山に帰ってきてからの事を思い描く。

ここ最近、結界を破って「ミンク狩り」に来た腕に覚えのある剣士や魔法使いたちの事・・・。

この山に入ってきた人間の大半は「打倒!ミンク」に燃える若輩格闘家ばかりであった。

ミンク「・・・あれだって・・・俺を襲いに来た連中の罠かも知れないじゃないか・・・。」

スッと溺れる子供に背を向けて飛んでいこうとするミンク・・・。

ミンク「・・・・・・・」

ミンク「クソッ!」

しかし、そのまま飛んでいくかと思いきや、急降下で子供に向かって飛んでいく!

????「ガボガボガボーーッ!!ゲブ・・・ガボガボ・・・!!!」

ミンク「待ってろッ!!今助ける!!」

完全に溺れて沈みそうになっている少年の腕をグッと掴み、川原へ飛んでいくと少年をソッと降ろすとミンク・・・。

????「ゲホッ!!ゲホッ・・・あ、ありがとう・・・兄ちゃん・・・。」

ミンク「・・・・・・・」

ミンクは川の水しぶきを全身に受け、少年同様ビチャビチャに服が濡れてしまう。

少年のかける感謝の言葉を無視して再度、空中に飛び上がりジロッと少年を見つめる。

ミンク「こんな所で何をしている・・・?」

ミンクがサッと腕を振ると少年の体中に出来ていた「傷」を一瞬で治してしまう。

更に「火の魔法」を調節して、ずぶ濡れの服を一気に乾かしていく・・・。

ミンクの行動自体は親切だが、少年に向ける眼差しはあくまでも鋭い。

????「爺ちゃんと一緒にこの山に遊びにきてん!」

ミンク「じ、爺ちゃんだと?何でこんな山奥に来るんだ?」

????「この山奥の「温泉」がリュウマチに効くから行くって言うの・・・無理矢理付いて着たら・・川に落ちてもうて・・・。」

ナマリのキツイ少年の言葉に眉をしかめるミンクだったが・・・すぐさま背後に感じ出した「強大な魔力」に怯えを感じる!!

ミンク「!!??(な、なんだ!?この魔力は!?)」

????「ど、どないしたん?兄ちゃん?」

少年は何も感じない様だが、背筋を凍らせてサッと背後を振り向くと地面に飛び降りて少年を庇う様に杖を構える。

ミンク「しょ、少年ッ!俺の後ろに隠れろ!(俺を倒して名を上げたいって輩か?それにしては魔力が尋常じゃなく高い!?)」

今まで何度も「ミンク狩り」で名を上げようというイデアの無法者がミンクの山に入り込み、その度に返り討ちにしてきたが

生まれてこの方、感じた事の無い「強大な魔力」に冷や汗を垂らす・・・。

ミンク「・・・・(こ、この山には数多の魔物が住んでいるが・・・ここまで強大な魔力を持つ魔物はいない筈だ・・・)」

隙を作らないように神経を研ぎ澄ませて川原に並ぶ森の奥を見つめるミンク・・・。

その時、少年が大きな声をあげる!

????「爺ちゃん!!来てくれたん!?」

??「フォッフォッフォ・・・ここにおったんか?やすのぶや・・・?」

ミンク「なっ!?少年ッ!?そ、そいつが君の言う「爺ちゃん」なのか?」

森から出てきたのは、外見は本当に「よぼよぼ」のお爺さんである。

魔法衣を着ていることから「魔法使い」であることがすぐにわかるが・・・それでも外見はどう見ても「よぼよぼのお爺さん」。

右手に持たれた「魔力を帯びた杖」はあくまでも「体を支える為」に持たれている。

しかし、只の「お爺ちゃん」ではないようだ・・・。

やすのぶの様な一般人では感じることはできないのであるが、ミンクは「山奥での暮らし」で「強者の臭い」を感じることが出来る。

それに加えて「感じたことの無い、溢れんばかりの魔力」にミンクは青ざめて二歩、三歩と後退りをする。

心臓が張り裂けそうな程「鼓動」が高鳴り、恐怖を覚える・・・。

やすのぶは安心した様に闇慈に抱きついて笑顔を見せる。

闇慈「わしゃ、闇慈と言うての・・・このちっこいのは近所の子供で「やすのぶ」というんじゃ。」

ミンク「・・・お、俺は・・・ミンクだ・・」

闇慈「フォッフォッフォ・・・」

闇慈の強大な魔力に怯え、迂闊に目を離せれない様子のミンクに闇慈はスーっと魔力を消していく。

ミンク「ハァ・・・ハァハァ・・・(このジジイ・・・なんなんだ?)」

汗を拭って、それでも臨戦態勢を崩さないミンクを無視してやすのぶは闇慈に嬉しそうな声で話し掛ける。

やすのぶ「この兄ちゃんが溺れてるの助けてくれてな・・・回復もしてくれてんで!!!」

闇慈「おぉー!そうじゃったか!こりゃ「無粋」なマネをしてしもうたわい・・・。」

ミンク「くっ・・・」

やすのぶ「えへへー・・・お礼言うて!爺ちゃん!!」

闇慈「本当にありがとうの・・・わしゃ、やすのぶが「魔物」にでも襲われとると思うてしまってのぉ・・・」

ミンク「・・・ま、魔物じゃなくて・・・残念だったな・・・。」

あまりにも大きな力の差を感じるミンク。

魔力の総量を比率で言えば「1:5」・・・。

当然「1」はミンクである。

闇慈に背を向ける事の無いまま「木の杖」を宙に浮かべて空を飛ぼうとする。

しかし、闇慈はそれを笑顔で止める。

闇慈「待つんじゃょ。是非ともやすのぶを助けてくれた「礼」をしたいんじゃ。」

そういうと闇慈は懐から何かを取り出してやすのぶに手渡す・・・。

無邪気に駆け寄ってくるやすのぶが笑顔でミンクにそれを手渡す。

やすのぶ「ほんまにありがとうね、兄ちゃん!」

ミンク「な、なんだこりゃ・・・?宝石・・・?」

濃く輝く二センチ程の蒼い宝石・・・。

とても美しく輝くその宝石は「サファイア」である。

闇慈「それは「魔力」を高める効果があっての・・・お前さん「魔法使い」じゃろ?」

ミンク「あ、あぁ・・・。」

闇慈「それ、有効に使ってくれると嬉しいぞい?」

笑顔で笑う闇慈に少し、気を許すミンク。

今までこの山に入ってきた者とは違い、「悪意」の無さに安堵の表情を見せる。

やすのぶ「にょ?リスがいたよ?」

闇慈「おいおぃ!?近くで遊んでおくれよ?」

川原に下りてきたリスを無邪気に追いかけるやすのぶに手を振った後、ゆっくりと座りやすそうな岩に腰をかける。

「ハァー」っと大きく息を吐いて、闇慈は笑顔でミンクに話し掛ける。

闇慈「お前さん、こんな山奥で何をしておる人なのじゃ?」

ミンク「な、何・・・って、魚獲ったり・・・山菜を採ったり・・・」

突然の質問にシドロモドロになるミンク。

ゆっくりと地面に腰を据えて闇慈に眼差しを向ける。

闇慈はミンクの腰掛ける姿を見つめてゆっくりと話し掛ける。

闇慈「お前さん、自然を愛しとるようだが・・・それ以外を愛するという事をまったく知らん顔じゃ・・・。」

ミンク「な、何だと?」

闇慈の突然の発言に目を大きくして一気に立ち上がる。

ミンクのその表情は怒りに満ちているが、話はまだ終わらない。

闇慈「愛しとるのは自然と・・・せいぜい自分ぐらいじゃー・・・。」

ミンク「・・・・・」

闇慈「寂しい、とても寂しい目じゃよ?今のお前さん・・・。」

ミンク「・・・・・くっ・・・。」

歯を食いしばり、何処と無く「図星」を突かれているような気がして苛立ってくるミンク。

川の方を向いて闇慈の言葉を聞き流そうとする。

闇慈「「愛し方」と「愛され方」を学べば・・・きっと「いい魔法使い」になれるて・・・。」

そういうと闇慈はやすのぶを手招きして傍へと呼ぶ。

そしてスッと立ち上がり、思い出したかの様にミンクに再度、話し掛ける。

闇慈「そうじゃ・・・わしゃ、人を襲う「イデアの魔人」とかいう空飛ぶ魔法使いの退治を頼まれたんじゃが・・・」

ミンク「!!!」

闇慈の言葉に慌てて振り向いて臨戦態勢をとるミンク・・・。

しかし、闇慈は構えを取ることも無く、背を向けたままで笑ってこう言った。

闇慈「所詮は「悪い噂」だったようじゃのぉ・・・。温泉にでも入ってサッサと帰る事にするわぃ・・・。」

そういうと闇慈は、やすのぶの手を引きながら森の方へと入っていこうとした。

ミンク「・・・・・ちっ・・・食えないジジイだ・・・。」

杖に乗って空へと舞い上がろうとするミンク。その時、やすのぶの声が聞こえてくる。

やすのぶ「ありがとう!兄ちゃん!俺、いつか「正義の味方」になって兄ちゃんの事、逆に助けてあげるからなーーー!!」

ミンク「・・・・(せ、正義の味方・・・?)」

やすのぶの「子供らしい発言」に眉をしかめて目を閉じる・・・。

普通に聞けば馬鹿馬鹿しい言葉である。

しかし、ミンクは溜息をついて心の中でこう思う。

ミンク「(俺は・・・「イデアの魔人」と呼ばれる様になって・・・誰かに助けて貰えるなんて思った事もなかったが・・・)」

手を一生懸命振るやすのぶに見ることができたのかはわからない・・・。

少し、微笑んでミンクはスッと目をあける。

ミンク「・・・・・・」

今まで「人間との接触」を拒んだミンクだったが、心に少し明るい光が注ぎ込まれたような気がしていた・・・。

・・・・・・

やすのぶ、闇慈と別れて森の中を飛びながら・・・何かを考えている。

ミンク「・・・・・・・」

その表情はいつもとは違って「笑み」に溢れていた。

ミンク「マトモに人と接したのは・・・なんだか久しぶりだったな・・・。」

森の間から降り注ぐ木漏れ日を体に受けながら飛んでいく。

しかし自分の家のある山あいに入った所で急に止まる!!

ミンク「!?(ん?この感じは・・・?)」

「何か」の違和感を感じて森の奥の更に奥・・・遠くを見つめるミンク。

一体どうしたのであろうか?

ミンク「(俺が張った結界に誰かが入ってきている?)」

山一体に侵入者が入ってきていないかいつでも分かる様に張ったミンクの結界。

ミンクは頬を掻きながら眉をしかめて呟いた。

ミンク「こんな山奥に一人だと?迷子か何か・・・だろうか?」

ミンクを襲いに来る者たちは「集団」で山に入る事が大半である。

一人で山に入って来るというケースは大変珍しい様だ。

ミンク「今日は「何もない山」に千客万来だなぁ・・・。」

フッと笑みを零して「人」の反応のあった方角へと飛んでいった・・・。

・・・・・・・


ところ変わって同時刻、ティモーレ山中・・・。

ミンクの住む山の麓に指しかかろうかという場所に一人の「女の魔法使い」の姿が見える。

かすみ「こ、ここまで来るのに馬を使っても・・・3日も掛かっちゃった。」

辺りを見渡すが木しか見えない光景に汗を垂らす。

たった一人でこの「ティモーレの山中」にやってきた様であるが、手元に持たれている「マップ」を頼りに歩き続ける。

かすみ「ふーむ・・・情報ではこの辺りの山が「イデアの魔人」の出没地帯だよねー・・・」

マップを片手にキョロキョロと辺りを見渡すが、本来ならば人なんて誰もいる筈も無い雰囲気の漂うただの山道・・・。

いや、山道と言うよりも「ケモノ道」と言った方がいいであろう。

かすみはアテもなく、探索するように山を歩き回る。

背負っている大きめのリュックサックの中には何が入っているのだろうか?

随分と重たそうに汗を垂らして歩いている。

かすみ「今日中に、せめて目撃だけはしたいんだけど・・・」

かすみは「イデアの魔人、ミンク」をまるで「珍獣」扱いの様な口ぶりで、見晴らしの良さそうな谷を目指す。

・・・・・・・

一時間後、標高八百m程の位置にある「サリーン谷」に到着するかすみ。

美しい鳴き声の鳥達が多く住む「自然の溢れる」谷である。

空を見上げれば雲は延々と地平線まで続き、崖を見下ろせば遙か下方に森が続く・・・。

かすみ「ふぁーー・・・これが「ティモーレ」かぁ・・・。こんな所で「魔法の修行」とかしたら・・・強くなれそー・・・。」

座り心地の良さそうな岩に腰を掛け、ポカーンと口を開けているかすみは思い出したかの様にリュックサックを下ろして中身を取り出す。

かすみ「そうそう、やっぱり「腹ごしらえ」は大事だよねーー。」

にこやかにリュックサックを開けると、その中には「バスケット」が3個入っている。

あと、「魔力回復用の薬」が五本と「袋に包まれた何か」・・・。

それ以外にもごちゃごちゃ「女性の必需品」とも言える化粧品だの服だのが入っていた。

かすみは嬉しそうな笑顔でリュックサックから「バスケット」を一つ取り出して「パン」や「りんご」を取り出す。

美しい自然の風景に笑みを零しながら食べる弁当。

かすみにとってそれは至福の時・・・

かすみ「えへへ・・・いっただきまーーーす!!!」

そう言ってかすみは嬉しそうにパンをカブリつこうとした。

その瞬間!

??????「ガァーーーーッ!!!」

かすみ「!?」

何者かの背後からの不意打ちをフワッと宙を舞って避けるかすみ!

膝に置いていた「バスケット」は地面に落ちて無残にも食べれない状態になってしまう。

その地面に落ちたバスケットの向こうに見慣れない魔物の影・・・。

かすみ「・・・ティモーレにしか生息しない魔物・・・「白首いのしし」ね・・・?」

首の周りが異様なほど白い「イノシシの魔物」が、かすみに襲いかかる。

地面に落ちたバスケットには見向きもしていない為、「食べ物」が目的で襲ってきた訳ではない。

そう、かすみの命を狙って攻撃してきたのだ!

かすみ「ふぅ、「知性を持たない生物」ってこれだから嫌い・・・。」

かすみは仕方なさそうに「星のピアス」を外すとパッと杖に変化させる。

そして目を瞑って何かを「詠唱」仕始めた。

白首いのしし「ガッ!?」

突然の武器の出現に驚く白首いのししだが、地面を二度、三度蹴った後、息を荒げてかすみに猪突猛進していく!!

冷たい眼差しでスッと目を開けるとかすみは杖に魔力を込めて大きな声を上げる。

かすみ「喰らいなさい!!ドラゴンゲイルーーーッ!!!」

勢いよく杖を白首いのししに突き出すと「竜」の形をした風が白首いのししに向かって飛んでいく!

摩擦で大きな音を上げながら向かっていく風の竜が鋭い牙と爪を剥いて白首いのししの全身にぶつかった!!

白首いのしし「ゴァーーーーッ!!」

かすみの「強力な魔法」の前に無力と化した白首いのししは無残に崖から落ちていく・・・。

かすみ「・・・・・弱い・・・この山の魔物って・・・本当に弱いわね・・・」

白首いのししは決して「弱い魔物」では無い。近隣の街に降りてきては、たった一頭で家一軒を簡単に潰すほどの強靱な魔物である。

しかし、風の魔法を極めた「風の魔女」の前では「ただのいのしし」も「白首いのしし」も同じ様な物であった。

大きな溜息をついて「リュックサック」から「新しいバスケット」を取り出すと、途中だった食事を再度取り出す。

風の魔女、かすみ。

その「魔力」は他に追随を許さない程に磨き上げられている。

かすみ「ふが・・・このふんじゃ・・・イヘアのマズンっへ・・・げふげふ・・・」

口の中に物を入れて何かを言おうとしたが、うまくしゃべれない為に一度、食べ物をちゃんと食べてから再度口を開くかすみ。

かすみ「この分じゃ、イデアの魔人っていうのもタカが知れているわね・・・・。」

口元に食べカスを付けてニヤリと笑うかすみ・・・。

一人になると「子供っぽい」ところが出てくるのは「悪い癖」である。

・・・・・・・・

ミンク「・・・ん?あれが・・・そうなのか・・・??」

かすみが口に食べカスを付けながら弁当を食べている更に上空・・・。

見下ろす様に、かすみの様子を伺っている。

ミンク「何だ?あの子は・・・?」

無邪気にリンゴをかじる姿は「ピクニック」にでも来た様な雰囲気。

ミンク「あの女の子「魔法力」が強いみたいだけど・・・弁当を食べに来ただけなのか?」

目を凝らしてみると、ミンクにはかすみの体から僅かに滲み出る「魔力を示す青白い光」が見えるようだ。

疑問のとけないミンクは腕を組み、宙を浮かびながらかすみを見つめているが・・・その時、「自分の体調の変化」に不思議そうに首を傾げる。

ミンク「ん? なんだろ・・・?あの子を見ていると・・・妙に胸が支えるって言うか・・・?」

かすみを見つめて胸の辺りを手で押さえるミンク。

目を閉じ、眉をしかめて考える。

ミンク「(あぁ・・・そういや腹が減ったたし・・・あの子の弁当を見て腹の虫が騒いだんだな・・・。)」

胸の苦しみを「空腹」と結論付けるミンクだが胸の辺りを押さえている自分には気付いていない。

ミンク「・・・・」

ミンクは微笑みながら・・・かすみが弁当を食べ終わるまで見つめていた。

・・・・・・・・

かすみ「よし!おなかも一杯になったし、「魔人探し」を再開しますかー!」

バスケットをリュックにしまい込み、パンッと手を叩くかすみは「魔人の住む山」を再度歩き始める。

上空にミンクがいることに気付かないかすみは当ても無く山の中を歩き回ろうとしている。

ミンク「ん?動き始めるのか?」

上空のミンクがかすみの行動に目を留める。

どうやらミンクはまだ「かすみがミンクを探している」とは気付いていないようだ。

ミンクは理由もわからずにかすみの後をつけるように空を飛んでいる。

髪の毛を掻きながら少し眉をしかめる。

かすみ「へぇー・・綺麗な川だわー・・・。」

小川のせせらぎを聞きながら、透き通る水の向こうに見える魚を笑顔で見ているかすみ・・・。

ミンク「・・・・・・」

その笑顔を見て声を掛けようか、どうしようか・・・迷った表情のミンク。

ミンクは魔力を抑えて気付かれない様にしていたようだが、大きく息を吐くと小川の方へと舞い降り、意を決して上空から声をかける。

ミンク「な・・・なぁ・・あんた・・・」

かすみ「な、何ッ・・・!????」

突然の「男の声」に驚くかすみが一瞬で声のした方を振り向こうとする!!

しかし・・・

小川のほとりを歩いていたかすみはあろう事か、足を滑らせてしまう!!

かすみ「きゃ・・・!!」


ドボーーーンッ!!!

ミンク「なっ!?」

ガンッ!!


かすみ「ぶっ!」

なんと、かすみは足を滑らせて川に落ちた挙句に岩で後頭部を思いっきり打ち付けてしまったのだ!!

ミンク「ナ!?ナニィーーーーーッ!!」

突然の「アクシデント」に思いっきり焦り始めるミンク。

グタッと気を失うかすみの後頭部からドクドクと血が流れていく・・・。

透き通るぐらい美しかった川の水に溶ける様に混ざっていく血・・・川が真紅に染まっていく。

ミンク「あ、ありぇねぇ!!なんなんだ!?この子は???」

慌ててかすみを川の中から抱き上げると血の止まらない後頭部に一生懸命「回復魔法」をかけるミンク。

衣服は水でドボドボに濡れてしまっているが、かすみは気を失ってしまい一向に目覚める気配は無い。

ミンク「こ、この子・・・大丈夫なのか・・・?」

初めての経験にオタオタしながらかすみを抱き上げているミンクは川辺にかすみを寝かしつける。

「火の魔法」で焚き火を起こしてみたものの、かすみが目覚めることは無く濡れた衣服もとてもではないが乾きそうに無い・・・。

ミンク「まいった・・・。お、俺が声をかけたばかりにッッ!?」

悲痛な顔で地面に手を付くミンク。

歯を食いしばり真剣に悔やんでいるようだが、「滑稽」にしか見えることは無い・・・。

ミンク「ダメだ・・・。こんな所に寝かし付けていても目が覚める保障なんてまったく無い・・・。」

そういうとミンクはまだ服の濡れたかすみを抱き上げて、「ミンクの住む家」に連れて行くのだった・・・。


「第5章 ありがとう・・・」

かすみ「待ちなさい!イデアの魔人ッ!!」

森の中を縫う様に現れては消え、現れては消え瞬間移動で逃げていくイデアの魔人・・・。

かすみは容赦無く「風の魔法」を打ち込んでいく!

余裕の顔付きでかすみの魔法を避け切ると腕を組み、仁王立ちでかすみに対峙する。

イデアの魔人「くっくっく・・・貴様の力はこの程度かぁーーー?」

口から青い煙を吐き出して、不適に笑うイデアの魔人。

目は紅く光り、人とは思えない程、体も毛深い・・・。

もはや「ケダモノ」と言っても過言ではないその容姿にかすみは汗を垂らす。

しかし、かすみは手をグッと握り締めイデアの魔人に向かって大声で言い放つ!!

かすみ「あなたの様な「危険人物?」を放置しておく訳にはいきません!イデアへの協力を断られた以上、抹殺します!!」

ミンク「キョキョキョキョキョキョキョッ!!人間なぞ我にとって「食料」と同じ!!家畜如きに我を倒せるはずが無かろう!!」

ありえない位に「悪者の笑い声」を上げるイデアの魔人は両手から「無数の蛇」を出していく。

最早、イデアの魔人は「魔物よりも魔物」に見えてしまう。

かすみはイデアの魔人に臆する事無く「魔法の詠唱」に集中する!!

かすみ「食らいなさい!!イデアの魔人ッ!!!ベアーウィンドーーーーッ!!!」


ゴァーーーーーッ!!!


かすみの両手から風の大熊が牙を向いて現れる!!

猛々しくイデアの魔人に向かっていく「風の大熊」は周囲の木々をなぎ倒し、振りかぶった拳をイデアの魔人へとぶち込む!!

イデアの魔人「ぎゃぁーーーーーーッ!!バカなぁーッ!!こ、こんなに強い女性は初めてだぁーーーッ!!」

ありえない位にワザとらしい「負け台詞」を吐き出すイデアの魔人・・・。

かすみはフフンと笑いを浮かべて、イデアの魔人に問いかける。

かすみ「どう?恐れ入ったかしら?イデアの魔人さん?」

イデアの魔人「は、はいッ!もう悪いことはしませんッ!イデアに協力しますので許して下さいッ!!」

かすみ「うふふふふ・・・分かればヨロシーーーー、ヨロシー、ロシー、シー!!」

地面に両手を付いて土下座するイデアの魔人を見て、高らかに歓喜の声を木霊させるかすみ・・・。

その笑い声が止む事は無かった・・・。

・・・・・・・

かすみ「ん・・・んーー・・??」

暖められた部屋の中、かすみの目に眩しい光が降り注ぐ。

その眩しい光は太陽の光・・・。

かすみはベッドの上で眠っていたのだ。

目の前に見える物は木張りで作られた天井・・・。

フッと壁際を見れば窓があり、その外には木々からの木漏れ日が降り注いでいる。

ズルッ・・・

かすみの額から濡れた布がズリ落ちる。

かすみ「?」

意味も分からずにズリ落ちた布を見つめるかすみ・・・。

記憶を呼び起こす・・・。

かすみ「(あたし・・・イデアの魔人を探してたんだよねぇ・・・?)」

虚ろ虚ろとしているかすみだったが自分の知らないベッドの感触に目を大きく開ける。

ガバっとベッドから起き上がると、ベッドに伏せる様に眠っている男に目を留めるかすみ。

かすみ「あれ?どう言う事ッ!?・・・ってかこの人誰ッ!?」

床に座り込み、前のめりで眠っている男はかすみよりも少し年上の男性。

その状況にかすみは閃く。

かすみ「た、確か足を滑らせて川に落ちたんだっけ?」

男性を見つめて呟くかすみ・・・その時、眠っていた男が笑顔を見せてかすみに話しかける。

?「おぉ・・・目覚めたか?」

かすみ「あ、あなた・・誰?」

布団をギュッと抱きしめて恐る恐る問いかけるかすみ。

男は目を擦りながらかすみの問いに答える。

ミンク「俺の名前はミンク。川に落ちて後頭部をぶつけて丸一日起きなかったんだぞ?あんた。」

かすみ「な?そうだったの?・・・・って・・・?・・・んっ?」

汗を垂らしてうつむくかすみ・・・自分の体の感触に違和感を感じる。

手でスッと自分の胸の辺りから膝の辺りまでをゆっくりと確認するように撫でる。

するとそこに本来在るべき物・・・いや、無ければいけない物が無かった・・・。

スベスベの感触がかすみの脳裏を混乱させる。

かすみ「な!なんで私ッ!!裸なのよーーーーっ!!?」

大声で怒鳴りつけるようにミンクに問いかけるかすみ。

かすみは川に落ちてしまった為に服がビショビショだった。

ミンクはかすみをベッドに寝かしつける為、かすみの服を全部脱がしていたのだ!

牙を向いて怒鳴るかすみに飄々とミンクは答える。

ミンク「ん?だってベッドが濡れるだろう?ちゃんと脱がしておいたよ。」

かすみ「ちゃ、ちゃんとじゃないわよ!!あなた男でしょう!?私の裸・・み、見てないでしょうねッ!!?」

ミンク「い、いや・・・脱がしたんだから裸は見たけど・・・?」

かすみ「!」

腕を組みながら目を瞑り・・・かすみに思い出話を語り出すミンク。

ミンク「いやー、うちのババァが風呂に入る時、いつも背中を流してたけど・・・あんたの肌って張りがあるんだなー・・・。」

かすみ「ぎ・・ぎぎぎ・・・」

目を大きく開けて小刻みに震えるかすみ。

ミンクの話はまだ終わらない。

ミンク「男と女じゃ「体」は違うって聞いてたが、本当だったんだなー。」

ケタケタと笑い飛ばすミンク。

しかし・・・・

ビターーーーン!!!!

ミンク「ブゴァーーーーッ!!」

ミンクの頬をかすみは渾身の力で張り上げる!!

壁まで転がりながら引っくり返るミンクにかすみは悲しそうに怒鳴る。

かすみ「最低!あなた最低よ!!女の子を無断で裸にして・・・しかも見たなんて・・・」

かすみは悲しそうに布団に包まり、顔を布団の中に埋める。

そんなかすみに、ゆっくりと立ち上がり地面に打ち付けた顔を手で押さえながらミンクが大声を上げる。

ミンク「な、なんだよ!せっかく助けてやったのに!なんでブタレなきゃならないんだよ!ワケ判んねぇよ!」

かすみ「・・・・・・」

怒鳴るミンクに何の反応も見せないかすみ。

ミンク「おいっ!聞いてるのか!?」

かすみ「・・・・どこよ・・・?」

ミンク「ん?ナニ・・・?」

泣きそうになりながら、小さな声でミンクに問いかけるかすみ。

布団から顔を見せようともせずに再度問いかける。

かすみ「私の服は・・・どこよ?」

ミンク「あぁ、あんたの服なら・・・あそこに干してある。」

ミンクがそう言うとかすみは少しだけ包まった布団から顔を出してミンクの指差す方・・・窓の外を見てみる・・・。

かすみ「・・・!!!」

目を大きく開けて驚きの表情を見せるかすみ・・・。

竹で作った物干し竿、左から順に・・・軍服の上着、スカート、白いブラウス、白い靴下、ピンクのブラジャー、ピンクのパンツと・・・

燦燦と太陽が当たるように干してある。

この干し方は女の子にとってはかなり恥ずかしいであろう・・・。

かすみ「あ・・あああ・ああ・・・・」

その洗濯物、腕を組んで見つめながら、かすみに又も・・・言わなくてもいい事を言うミンク。

ミンク「うちのババアの下着は「腰巻」だったが・・・若い女ってあんな薄っぺらいの穿くんだな?知らなかったよ。」

かすみ「・・・・・・・・・」

表情に闇が満ちていくかすみ。

かすみ「・・・・・」

怒りが満ちていくかすみ・・・。

かすみ「・・・」


ビターーーーーーーーーーン!!!!

ミンク「ブゴァーーーーッ!!」

思いっきりミンクをぶったことは言うまでもない・・・。


・・・・・・・

哀れ、目を回して気を失うミンク・・・。

頬は真っ赤に腫れ上がり、壁際で逆さになって完全に気を失っている。

かすみ「しくしくしくしく・・・」

それを無視して泣きながら木のドアをバンッと開けて外へと飛び出す。

太陽のお陰で乾いた服を不躾に取るとミンクの目が覚めないうちにサッサと着替える。

身嗜みを整えると家の中に殺気を放ちながら入るかすみ。

目を回して気を失うミンクに拳を握り締め、睨み付ける。

その目には恥ずかしさを通り超えて、怒りで満ち溢れている。

かすみ「こ、こんな・・こんな男に裸を見られるなんて・・・。」

ギリギリっと歯軋りをさせてミンクの顔を睨みつけるかすみだが、どこかで見たような顔に首を傾げる。

かすみ「? あ、あれ?こいつ・・・どこかで・・・?」

眉間に人差し指を押し付けながら考えるかすみはハッと気付いたように辺りを見渡す。

ベッドの横にもたれさせる様に置かれていたリュックサックを取り上げると中から一枚の紙切れを取り出す。

その紙切れは「イデアの魔人」の情報、そして写真が貼られている・・・。

汗を垂らしてゆっくりとミンクの方を振り向くと、かすみは目を大きく開けてボソッとこういった・・・。

かすみ「こ、こいつ・・・まさか!イデアの・・・魔人・・・?」

汗を垂らしながらマジマジとミンクを見つめるかすみ。

かすみ「確かにまともな服は着ていないし、乱暴そうだったけど・・・これじゃ普通の人・・・だよねぇ?」

先程までのミンクとの会話を思い返すかすみは「イデアの魔人」の認識を改める。

もっと人間離れした魔物のような男だと思っていたようだ。

先程のかすみの夢を思い返してもらえれば、それは理解できる。

かすみ「私とケンカしてる時も魔法とか全然使わなかったし・・・それに私を助けてくれたんだよね?」

目を回して気を失うミンクの姿にようやく冷静さを取り戻すかすみ。

罪悪感が出てきたようだ。

しばらくミンクを見つめた後、非力ながらもミンクの腕を引っ張りベッドへと運ぶかすみ。

回復魔法を掛けて、今度は逆にミンクの目が覚めるのを待つ。

かすみ「・・・悪い事したなぁ・・・目が覚めたらちゃんと謝ろう・・・。」

冷たい水で塗らした布をミンクの額に置き、今度はかすみがベッドに伏せるように眠る。

かすみ「初対面がこんなので・・・イデアに協力して貰えるかしら・・・」

フッと過ぎる不安に溜息をつくかすみ。

滑稽な二人のやり取りで「貴重な1日」が過ぎていった。


・・・・・・・・・


同時刻、イデア城

リーシュ「そろそろかすみはティモーレに付いたころだろうか・・・?」

かすみがイデアを旅立って3日目の昼時。

昼の日差しを受けながら窓の外を見つめているリーシュ。

外は何故かいつもより騒がしい様だが、スッと目を閉じて考えはじめる。

このところアーク大臣の様子がおかしいのだ・・・。

今まで城の外に赴くことを拒んでいたにも拘らず「イデア、ドルロレ国境付近の町に行く」と言い出したからだ。

アーク大臣は朝早くから、イデア城を後にしていた。

大臣などは城の内部に常に身を置き、王の側に仕えるもの。

今回のアーク大臣の行為にリーシュは疑問を抱いている。

リーシュ「何故、今の時期にあの男が国境に行くのだ?戦争になりかねないと自分で言っていたのに・・・。」

思案するリーシュ。その時、慌しく一人の騎士がリーシュのいる部屋に入り込んでいく。

騎士「リーシュ殿!し、失礼しますッ!!大変です!大変なんです!」

リーシュ「どうした?騒々しい?ノックもしないで一体何があったというのだ?」

ムッとした顔で騎士を宥めるリーシュだが、騎士の口から出てきたのは思いもよらない報告であった。

騎士「ド、ドルロレの兵士が国境を越えて・・・攻め込んできました!!」

リーシュ「な、なんだと!!どういうことだ!?」

慌てて騎士に駆け寄るリーシュ、騎士の報告に怒鳴りつける。

騎士「辺境の村、「漆黒の森」に攻め入ったドルロレが村人を襲い・・・拠点とした模様ですッ!!村民に死者が多数!駐在していた小隊は・・・全滅です!」

リーシュ「そ、そんな!早過ぎる・・・・何故こんな時期に・・・それに今・・・漆黒の森にはアーク大臣が・・・・」

!!!

慌てふためくリーシュだが、国境に赴いたアーク大臣を思い出して一つの結論を出す。

それは、当たっている確率が高い結論・・・。

リーシュ「まさか・・・あ、あの男・・・あの男が描いたシナリオかッーー!!」

騎士「あ、あの男?」

意味が解らずに慌てながらリーシュに問いかける騎士。

リーシュは掛けてあった軍専用のコートを取り上げると廊下に出て場内の兵士に軍備の指示を出しながら説明する。

リーシュ「アーク大臣がドルロレに寝返った!」

騎士「な、なんですって!?」

リーシュ「兵士が足りない事で有能な人物を集める予定だったが、集めるために三銃士のかすみをティモーレに使わせた・・・。
それを予想していたんだ・・・あの男は・・・」

騎士「そ、そんな・・・アーク大臣が裏切られるなんて・・・」

慌しい城内、戦争の為に軍備を整える兵士に指示を出すがリーシュ一人では指示しきれない。

現状、指示ができる人物が自分一人しかいない事に気付くと、レヴォルトを思い出す。

リーシュ「おい!レヴォルト殿はどうなされたのだ?姿が見えないが!?」

騎士「そ、それが・・・どこを探しても見つからないのです!!ご子息のウォルト様の姿も見えません!!」

リーシュ「!」

その騎士の言葉に言葉を失うリーシュ・・・。

アーク、レヴォルトが揃って城からいなくなった現状。

この二人が協力してイデアを裏切ったと考えてもおかしくはない・・・。

リーシュ「う、迂闊だった・・・あ、あの二人がここまで大胆な行動を取ってくるなんて・・・。」

後悔に青ざめるリーシュの背後から慌しく一人の魔法使いが駆け寄ってくる。

レイナ「リーシュ様ッ!この騒ぎ、戦争って皆が騒いてますけど!どういうことですか!?」

リーシュ「どうもこうもない!そういう事だ!レイナッ!今すぐティモーレからかすみを呼び戻してくれ!!」

振り向くや否やレイナに指示を出すリーシュ。

ティモーレまでの道のりは力のある「強者」でなくては越える事ができない。

人間の山賊なども勿論心配であるがレベルの高い魔物も多く存在するからだ。

現状ではレイナでなくてはティモーレに行く事はできないとリーシュは判断した。

レイナ「わ、解りました!馬を使って不休で走ります!!」

大急ぎで駆けていく魔法使いレイナ。

リーシュ「頼んだぞ!レイナッ!!」

戦争という逃れることの出来ない「悪夢」に遭遇してしまったイデア。

風雲は急を告げていく・・・。


・・・・・・


戦争などとは全く無縁のティモーレ。

イデアの状況を全く知らないかすみがミンクの目覚める声に笑顔で答える。。

ミンク「う・・・うーーーん・・・・。」

かすみ「あっ?目が覚めた?さ、さっきはゴメンネ・・・。」

頭を押さえて怪訝そうな表情でかすみを見つめるミンク。

無言でゆっくりとベッドから起き上がると笑いつつも青筋を立てながら、地面に置いてあったかすみのリュックを渡してこう言った。

ミンク「帰れ!」

かすみ「と、とりつく島もなしッ!?(しかも一言でッ!?)」

眩しいまでの笑顔とは裏腹のミンクの声に肩をビクっとさせて、悲しそうな表情になるかすみ。

かすみは椅子から立ち上がると先程の暴力に慌てて謝罪する

かすみ「ご、ごめんなさい!さっきは私が悪かったわよッ!助けてくれた事を完全に忘れてて・・・」

慌てて弁明するかすみだが、ミンクは悪口を止めない。

ミンク「うるさいよ。俺は根本的に人と関わるのが嫌なんだ。何の用事でこんな山に来たが知らないけど、ここは俺の山だ!さっさとどっか行け!」

突き放すように手に持っていたリュックサックをかすみに渡すとドアをスッと開けてかすみの方を睨みつける。

先程の一軒で、ミンクはかすみに対して「良い感情」を喪失させてしまったようだ。

かすみ「(ま、まずいわ・・・いきなりこんな事になっちゃうなんて・・・。)」

ミンクの方をチラッと見るがその表情は怒っている。

かすみ「(このまま帰る訳には行かないし・・・だからと言ってイデアに一緒に来てくれなんて言える状況でもない・・・。)」

確かに、今のミンクには何を言っても通用しない状態であろう。

かすみにとって最悪の結論を出さざるを得なくなる可能性が高い。

イデアの魔人との対立という・・・最悪の結論・・・。

ミンク「お前も元気になったから用はないだろ?さぁッ!!」

ドアの外を指差して怒鳴るミンク。

ミンクの態度にかすみは泣きそうになり、震える声を絞り出す。

ミンクに頭を下げてこんなことを言ってみた。

かすみ「ごめんなさい。でも、出て行けって言われても・・・帰ることが出来ないのッ!!」

ミンク「!? か、帰ることが出来ないって・・・どういうことだよ?」

かすみ「そ、それは・・・」

ミンクの問いかけに手をモジモジさせるかすみ。

ミンク「あんた程の魔力があれば、十分安全に町まで降りられるはずだ!一人で帰れるだろう?」

開けたドアにもたれかかり、腕を組んでかすみを見つめるミンク。

かすみは目に涙を浮かべてミンクに言い放つ。

かすみ「どうしてもこの山に居たいのッ!!居なきゃいけないのッ!!」

なんの言い訳も思い浮かばなかったかすみが感情に任せてミンクに言い放つ!

その声は真実の重みを秘めた心からの一言・・・。

ミンク「なっ?(ど、どうしてもって・・・?)」

切羽詰ったかすみの声に汗を垂らすミンク。

かすみは更にミンクに言い放つ。

かすみ「お願いッ!私をこの家に置いてくれない?お礼はちゃんとしますからッ!!」

ミンク「お、置いてくれって言われても・・・こ、この家・・・俺しか居ないんだぞ・・・?」

かすみのいきなりの発言に戸惑うミンク。

かすみ「・・・・・・・」

ミンク「・・・・・・・」

かすみの目は真剣にミンクを見つめている・・・。

その真剣な眼差しにミンクはかすみに問いかける。

ミンク「もし、嫌だって言ったら・・・?」

かすみ「その時はッ・・・(あなたを殺すしかない・・・。)」

ミンクの問いかけに一層、眼差しが熱くなるかすみ。

グッと握ったかすみの手を見つめてミンクはかすみが本気だと確信する。

ミンクはかすみが発言を言い切る前にため息を付いて言い放った。

ミンク「わかったよ・・・その代わり自分の事は自分でやれよ?根本的に手は貸さないからな?」

かすみ「!?ほ、本当に!?ありがとう!!」

ミンク「はぁ、なんだってこんな事になっちまったんだ・・・?」

髪の毛を掻きながら椅子に座るミンク。

怪訝そうな顔はしているがチラッとかすみの方を見て少し顔を火照らせる。

ミンク「・・・?(なんか俺・・・顔が熱くねぇ?)」

自分の顔の火照りに意味が解っていないのか・・・口を尖らせて床を見つめる。

嬉しそうに家の中に入ってきたかすみはミンクに笑顔で話しかける。

かすみ「ねぇ、私はかすみって言うんだけど・・・あなたはミンクさんでいいのよね?」

ミンクはドキッとしてかすみの問いかけに答える。

ミンク「!?? あ、あぁ?なんで俺の名前を知っているんだ・・・?」

かすみ「ふふふ、「イデア」じゃ結構有名でしょ?あなた?たしか・・・」

かすみが続けて言葉を出そうとするがそれを邪魔するように大声を上げる!

ミンク「ふん!有名なもんかッ!!・・・俺はずっと山で暮らしてるんだ・・・。」

かすみから顔を背けて腕を組む。

かすみ「そ、そか。」

かすみはミンクが過去を隠しているのかと思い、それ以上を聞く事はしなかった。

かすみは話題を変えようとリュックサックの中から一着の服を取り出して笑顔でミンクに手渡す。

かすみ「はいっ!これあなたにあげる。」

ミンク「な、なんだこれ・・・?服・・・?」

目を大きく開いて突然のプレゼントに驚くミンク。

上質の生地で作られたその服は魔法のコーティングが施された「魔法衣」である。

色目は深緑で少し地味だが星の刺繍が数個入っている魔法衣・・・。

イデア魔法兵団でも未だ、誰も手を通したことのない「男物の軍服」である。

しかし、イデアの軍服を知らないミンクはかすみに恐る恐る問いかける。

ミンク「な、なぁ・・・この服、あんたの服に似ていないか・・・?」

かすみ「ん?そうよ?気に入らないかしら?」

いつもボロボロの服を着ていたミンク。

かすみと一緒の柄の服に再度、顔を背ける。

ミンク「お、俺なんかに何でこんなもの・・・」

少し小さめの声で問いかけるミンクにかすみは背けた顔の方へと移動して、笑顔でミンクに話しかける。

かすみ「あなたに着て欲しかったからよ。」

ミンク「!」

突然の発言に驚くミンクは袋からそれを取り出して広げて見つめる。

ミンクにちょうど合いそうなサイズで仕立てられたその軍服は、ミンクにとって着た事もない、それはそれは上質の物。

無言で嬉しそうに服を見つめるミンクにかすみも嬉しそうにしている。

かすみ「ねぇ!その服・・・着て見せてよ!」

ミンク「で、でも・・・こんな高そうな物、貰えない・・・。」

初めて人から貰うプレゼントにどういう顔をしていいか分からないミンク。

油断していたのか?かすみはさっき迄とは打って変わったミンクの姿に笑みを見せてミンクのボロ着を剥ぎ取る。

かすみ「えいっ!自分で着替えないなら私が着替えさせてあげるわッ!!」

ミンク「なっ!?お、おい!??止めろ!自分で着替えるからっ!!」

ミンクは慌てて「軍服」を持って隣の部屋へと駆けていく。

・・・・・・・

数分後、奥の部屋から出てきたミンクは深緑の軍服に身を包んでいる。

軽量で動きやすいその服、サイズもちょうどピッタリだった様だ。

その雰囲気はさっき迄のボロ着を着ていた時とは違い、凛々しい軍人に思わせる。

かすみ「うわー・・・結構カッコイイじゃない?びっくりだわ・・・。」

ボロを着ていたミンクの変貌ぶりに目を大きく見開くかすみ。

もともと顔立ちの整っているミンク。まともな服を身につければその辺の男にも全然負ける事は無い。

かすみの褒め言葉に顔を赤くして下を向く。

ミンク「・・・・・・」

心の中が「今までに感じた事のない感覚」で満たされていく。

くすぐったい様なその感覚はミンクとって嫌な物ではない。

今までに感じた事のない・・・感覚。

もしかしたら、一番欲しかった感覚・・・。

ミンク「・・・・と・・・」

無言で下を向き続けるミンクがかすみにボソッと呟く。

かすみ「んっ?何・・・?」

ミンク「・・・な、なんでもない・・・」

かすみ「・・・?」

下を向き続けるミンクの表情は確認する事が出来ない。

しかし、ミンクの今の気持ちがかすみにはわかったのだろうか?

優しい笑顔でミンクにかすみが言い返す。

かすみ「どういたしまして!喜んで貰えて良かったわ・・・。」

かすみに向かって顔を上げると初めて笑顔を見せる。

いや、かすみだけではなく初めて他人に見せた笑顔。

二人が出会い、初めて笑顔で笑いあった瞬間はミンクにとって忘れる事ができない瞬間であった。

・・・・・・

笑顔で笑い合うがミンクは途中、ハッとした様な顔をしてかすみに問いかける。

ミンク「んっ!?でもなんで「男物の服」を持ってたんだ・・・?そういえば俺に着て欲しいって言ったけど・・・
俺がこの山に居るって事を最初っから知ってたって事か?」

かすみ「えっ!?あ、あのーーー・・・そのーーー・・・・」

かすみのプレゼントで浮かれていたミンクだったが、「不自然なプレゼント」に我に返る。

ミンク「お前・・・まだ何か隠してるだろぉ?」

腕を組んで呆れた顔で問いかけるものの、さっき迄とは違って優しげにかすみに問いかけるミンク。

かすみは頬から汗を垂らしてミンクに話し始める。

かすみ「え、えと・・・実は・・・ねぇ・・・・」


・・・・・・・・・・


二日後、ティモーレ山中。

風の魔女がイデアの魔人と共に山の中を歩いている・・・。

ミンク「えとー・・この赤いきのこが「シルベリオルサント」っていって・・・」

かすみ「・・・・・・」

熱心に「きのこ」の講釈をするミンク。

ミンクの説明を念仏でも聞くかのように聞き流しながら眉をしかめる。

かすみ「(いきなり「イデアの軍人」になってくれって言っても断られると思ったから「植物学者」なんて嘘ついたけど・・・暫くは様子を見ないとね・・・。)」

ミンク「んで、この白っぽいのが「コンソルージュ」っていって毒が一杯あるんだ。」

かすみ「(でも、話せば話す程・・・ミンクって博識もある(キノコしかまだ話してないけど)・・・。思ったよりもずっと頭いいんじゃない?)」

口を尖らせてミンクを見つめるかすみ。

その眼差しは少し暗い物がある。

この二日間のミンクを思い出していく。

かすみ「(偶に常識が無い所があって滅茶苦茶だったけど、それなりにちゃんと接してくれてるし・・・空を飛べたり「知らない魔法を使える事」を除いたら普通の魔法使いとあまり変わらない・・・でも、空を飛ぶっていうのがどうしても理解できないわ。私よりもずっと強大な魔力を隠しているか、特別な力を持っているのか・・・?)」

ミンク「んで、この緑色のきのこは「シンドリール茸」っていって結構美味いんだ・・・。」

かすみ「(どっちにしても私たちとは「別格」なのかもしれない・・・ミンクは・・・。)」

ミンク「なぁ、聞いてる?お前?」

考え事をしているかすみに向かって問いかけるミンク。

かすみの表情でミンクの言葉を聞いていないという事が伝わったのか、不機嫌そうな顔をしている。

かすみ「え?えぇ!!聞いてるわよ・・・。」

慌ててミンクの方を向いて乾いた笑いを見せるがミンクがかすみに問いかける。

ミンク「じゃ、この赤いのは何だ?言ってみな?」

かすみ「え、えーと・・・ベニテングダケ?だったっけ?」

適当に答えるかすみにミンクが大きな声でハッキリとした発音で嫌味っぽく言い放つ。

ミンク「「シ・ル・ベ・リ・オ・ル・サント」ッ!何にも聞いてねぇじゃねぇか・・・。」

髪を掻きながら呆れた表情を見せるミンクはすっとかすみに背を向ける。

ミンク「この山のきのこを調べ終わるまで帰れないっていうから協力してやってるのに・・・なんなんだよ、お前・・・。」

かすみ「え・・あ・・いやーーー。」

ミンク「初日にはブタれたし、風呂が汚いとか食べ物が少ないとか贅沢言ったり・・・わがままばっかり言うんだなー・・・女って生き物は・・・。」

かすみ「そ、そんな言い方ないじゃない。あの件はちゃんと謝ったし、私だってスープ作ったでしょ・・・?」

口を尖らせ、上目使いでミンクを見つめるかすみ。ミンクは文句を言うのをまだ止めない。

ミンク「あのスープは食えた物じゃなかっただろ?何でスープを入れた器が「緑色」に変色するんだよ?」

かすみ「あ、あれは確かにマズかったかも知れないけど・・・」

ミンク「人間の多い所で生きる奴っていうのはわがままばっかり言う癖に自分で出来ることが少なすぎるんだよ。」

かすみ「う・・ううう・・・」

先日、ミンクと一緒に過ごした結果、魔法以外・・・料理や家事等が「からっきし」という事が判明した。

図星を指されてグウの根も出ないかすみ。

ミンクの言うことを悲しそうな表情で聞いている。

ミンク「・・・・・・」

かすみの悲しそうな表情に汗を垂らして、少し上目使いになるミンク。

ミンク「(・・・かすみが悲しそうな表情になると・・・俺まで苦しくなるのはどうしてだろう・・・。
今までこんな気持ちになる事なんてなかったのに・・・。何だかやりにくいな・・・。)」

かすみの方へゆっくりと近寄り、ゴホンと咳払いをする。少し顔を赤くして目を閉じながら話しかける。

ミンク「まぁ、ゆっくり何でもできるようになればいいさ。」

かすみ「う、うん・・・?」

ミンクの突然の優しい言葉に目を白黒させるかすみ。ミンクは照れる様にかすみに背を向けて更に山道を歩いていく。

2〜30分歩いただろうか?

かすみが転んだ小川を抜けるとまた、ケモノ道に遭遇する。

当然の様に草むらを抜けていくミンクに一生懸命かすみは後を付いていく。

かすみ「でも・・・すごいケモノ道よね?誰も通っていないって感じがものすごくする・・・。」

辺りの雰囲気に「人」の存在を感じさせない。

草が茫々に生え、木々が鬱蒼と生えているがそれを抜けると気持ちの良い風が吹き抜ける崖に面する。

かすみ「気持ちいいーー。」

かすみは走って崖の方に走っていこうとするが、ミンクが慌ててそれを止める。

ミンク「待てッ!それ以上は走っちゃだめだ!」

かすみ「えっ!?どういうこと・・・?」

ミンクはゆっくり歩きながら、崖の方を指刺す。

ミンク「崖の下を見てみな。」

かすみ「?」

ミンクの言う言葉の意味が解らないかすみはゆっくりと崖を見下ろす。

かすみ「!!」

すると崖の下は真っ暗な闇に包まれていて、まるで「地獄」へと続くかと思わせる程深く、下へと伸びている。

かすみ「あ、危なッ!!なんでこんな所にこんな穴があるのよッ!!?」

ミンク「この近辺はあまり近寄らない方がいいんだが、この崖の光が当らない所に「キノコ」が生えてる。これは俺もよく名前は知らないキノコだ。」

ミンクもゆっくりと崖を見下ろすと持っていた木の杖をパッと宙に浮かべる。

かすみの方を向いて笑いながら問いかけるミンク。

ミンク「一緒に来るか?あんた重そうだけど・・・乗せてやるぞ?」

かすみ「! し、失礼ね!重くなんかないわよッ!!!・・・の、乗らないわッ!」

ミンク「そか、じゃぁ持って来てやるからそこで待ってな。」

そういうとミンクはスーっと崖を降りていく。

あっという間にミンクの姿が闇に消えていった。

かすみ「でも、空を飛べるって本当にすごいわ。私なんて本一冊すら宙に浮かべていられないのに・・・。」

ミンクの姿が見えなくなり、かすみは木々の日陰で待つ事にした。

かすみ「魔力自体はミンクの方が高いかもしれないけど・・・大して差は無い筈。なのになんでミンクは空を飛べるのかしら?私だって飛べそうなものなのに・・・。」

ぶつぶつと独り言を言って時間を潰すかすみは耳に付けていた「星のピアス」を外してポーンっと宙へと放り上げる。

かすみ「ふんッ!!」

ピアスに手のひらを向けると魔力を放出する。

ピタッ!

かすみ「ぐぐぐぐぐ・・・・ぐぅぅーーーーッ!!」

いつもの通り、一瞬止まる。いつもであれば2秒と持たないが「今日こそは」という思いでかすみは歯を食いしばりながら力を込め続ける。

2秒、3秒、4・・・

ボトッ・・・

かすみ「くふぅ・・・やっぱダメ・・・。」

ミンク「何やってんだ、それ?新しい遊びか?」

かすみ「なっ!?い、いい・・いつからそこに居たのよッ!?」

ミンクは崖をすでに上ってきて、かすみの真横まで来ていたのである。

軍服の右の大きなポケットには「キノコ」が顔を見せている。

かすみは顔を赤くして両手をブンブン振り回す。

そんなかすみにお構いなしに地面に落ちた「星のピアス」を拾い上げる。

ミンク「これを宙に浮かべたいのか・・・?」

かすみ「べ、別に浮かべたいって言うか・・・練習してたのよ!練習ッ!!」

自分の体を浮かべて空を飛べるミンクに対して「小さなピアス」すら宙に浮かべていられない事に恥ずかしがるかすみ。

しかし、ミンクは目を大きくしてかすみに言い放つ。

ミンク「すごいな・・・こんな「金属の塊」を宙に浮かべていられるのか・・・。」

かすみ「?・・・えっ・・・?」

空を飛べるミンクの意外な回答に目を大きくするかすみ。

ミンクは眉をしかめながら指でポンっとピアスを宙に弾くとそれを指さす。

ミンク「どうだッ!?」

かなり力を入れてピアスを宙に浮かべようとするミンクだったが、なんとかすみ同様「数秒」しかピアスを宙に浮かべることが出来なかったのだ。

ミンク「はぁ・・・疲れる・・・ってか、指が攣りそうだよ。」

指を振った後、逆の手で指を揉みほぐすミンクにかすみが慌てた様に問いかける。

かすみ「な、なんで空を飛べるミンクがこれを宙に浮かべられないのッ!?」

かすみの当然の質問に腕を組んで笑って答えるミンク。その答えは案外と簡単なものであった。

ミンク「あんたは「風の属性」の魔法使いだろ?俺は「水の属性」」の魔法使いだ。「火の属性」の魔法使いが炎を宙に浮かべることが出来るのは知っているだろ?俺は「水」を浮かべ続けているだけなんだよ。」

かすみ「!」


ミンクの言う「属性」とは魔法使いの各々が持つ「最も得意とする魔法の種類」の事である。

簡単に言うと風の魔女と呼ばれるかすみは当然の如く、「風」を操るのが上手い。それに対してミンクは「水」を操る事が最も得意なのである。

精霊と契約する事により、この「属性」を開花させることが出来るのであるが、

大抵の魔法使いは自らの力の「底上げ」をする為に一つの特出した「属性」を求める。

欠点としては「属性契約」してしまうと二度と「契約解除」出来ないことと、反属性の敵に対しては威力を発揮できないこと。

一長一短なシステムである。


話の途中、勘が働いてミンクに答えを言い放つ。

かすみ「まさか、あなた・・・自分の体の水分を浮かべていたの?」

ミンク「そうだが?まぁ他にも「コツ」が要るから、何も知らない魔法使いがマネしたら大変な事になるだろうけどな。」

風の魔女のかすみにはマネをする事は絶対にできない魔法・・・

いや、それ以前に「水属性」の魔法使いであっても「ミンクの空飛ぶ魔法」を使用すれば命の保証は無い。

かすみ「す、すごい・・わ・・・今解ったけど、本当に天才なんだね・・・ミンクって・・・」

頭では理解できても、実際に行動に移す事は出来ない魔法技術。

ミンクはまだ誰にも見せていないが「空飛ぶ魔法」以外にも「たくさんの見たことの無い魔法」を使用することが出来る。

しかし、驚いた表情のかすみに照れながら反論するミンク。

ミンク「て、天才って、生まれた時から空を飛べたワケじゃないぞ?この魔法は使える様になるまでに五年は掛かったからな・・・。」

かすみ「五、五年っ?普通の魔法なら一ヶ月で出来なかったら諦めるのに?」

ミンク「5歳くらいから練習仕始めて試行錯誤を繰り返した。最初は失敗ばかりで浮かびもしなかったけど・・・この周り「魔物」が出るからさ・・・素早く逃げる為に家にあった魔法書をヒントに編み出したんだ・・・。」

かすみ「そ、そうだったんだ・・・。」

ミンクの発言に驚きの連続のかすみ。

今までミンクの魔法を「才能」や「特殊な能力」の類と考えていたかすみだったが、人知れず「努力」で身に付けていた魔法であった事に驚きを隠せない。

普通、魔法を会得する為に要する時間は先程も言った様に一ヶ月。その月日を要しても覚える事が出来ない場合「才能がない」と判断を付けるのが一般的で

ある。それに対してミンクは五年もの月日を要して「誰もが使用する事が出来ない魔法」を会得している。

その全ては「努力」によって身に付けていた物だったのだ。

かすみは脱帽したかの様にペタンと地面にへたり込む。

ミンク「おい?どうしたんだ・・・?」

かすみ「あなた、すごい人だったんだね。びっくりしたのよ・・・。」

城内では男に対して「負けん気」の強かったかすみもミンクの人並み外れた努力の前に笑顔が零れる。

それに加えて「努力次第ではもっと強くなれる」という手本が目の前にいる事が、かすみには嬉しくて溜まらなかった。

ミンク「?へ、変な奴だな・・・そろそろ日が暮れ出すから家に戻るぞ?」

二人は先程通って来た道を戻り、家路を目指し始める。

かすみ「・・・・・・うふふ・・・」

ミンクの「本当の姿」を垣間見た様な気がして嬉しさのあまり山を駆けて下りていくかすみ。

ミンク「(?なんで上機嫌なんだ・・・?)」

理由の分からないミンクは首を傾げながらかすみの後を追いかけていった・・・。


・・・・・・・・


家に着き、食事を終えて日が完全に沈む。

家の外・・・ミンクは夜風に当たり、星空を見つめながら何かを考えている様だ。

ミンク「・・・・・・」

かすみ「どうしたの?ミンク。」

手に「紅茶の入ったマグカップ」を二つ持ってそれの一つをミンクに手渡す。

ミンクは両手でそれをしっかりと包み込む様に持つと大きく息を吐いてかすみに問いかける。

ミンク「なぁ、「人に好かれる」ってどういうことだと思う・・・?」

かすみ「えっ・・・?」

突然の質問に眉をしかめるかすみ。

ミンク「あぁ、俺の肉親が死ぬまで言い続けた事だ・・・。いまだに俺にはそれが解らない。」

落ち込む表情を初めてかすみに見せるミンク。

その表情を見て、ミンクの隣に座り口を開く。

かすみ「私もよく分からないけど・・・きっと「いい事を一杯すればいい」って事じゃないかしら・・・?」

ミンク「ああ、俺も最初はそう思ってた。だから悪い事をする奴を容赦なく退治したり・・・人が知らない所で魔物を追い払ったりもしたんだ。」

かすみ「・・・・・。」

ミンク「なのに俺は「人に嫌われる」。いい事を一杯しようと思ってみても・・・なんだか歯車が合わないって言うか・・・空回りって言うか・・・。」

かすみ「・・・そうだったの・・・。」

ミンクの落ち込む姿がとても小さく見える。

その姿は何かに悩む・・・力ない少年のようだ・・・。

心の古傷を思い返してミンクが両手で頭を抱えて目を瞑っている。

かすみはそっとミンクの肩に手を置くと優しい声色でミンクを元気付ける。

かすみ「ミンクは一生懸命だったんだね。人に好かれようとして・・・。」

かすみがそういうとミンクは諦めた様に星空を見つめながら、寝転がる。

ミンク「・・・結局は・・・一人で生きてた俺が「人に好かれる」って言うのは無理な話だったんだな。」

悲しげな笑顔で目を閉じるミンク。

だが、かすみはミンクの言葉に間髪入れずに、ミンクの答えに反論する。

かすみ「何言ってるのよ!五年も掛けて魔法を極めた人の言う言葉じゃないわ!!」

いきなり顔前から発せられたその声に驚いて目を開けるミンク。

するとかすみの顔が間近!!目の前にあった。

寝転がるミンクを覆う様に地面に手を付くかすみ。

ミンク「な、な・・・?」

かすみ「諦めたら、そこで終わりだよ?諦めちゃダメッ!」

優しい笑顔でミンクの鼻に人差し指を押し付けるかすみ。

女神の様に美しい彼女の笑顔に一瞬・・・ミンクの心が奪われる・・・。

ミンク「で、でも・・・俺はもう街へ降りる気は失せてしまったよ・・・大体可笑しな話だ・・・。あんたにこんな話をする気もなかったのに・・・。」

苦笑いをするミンクの顔は林檎の様にとても赤い。

かすみ「・・・・・・」

かすみはスッと立ち上がるとミンクに背を向けると数歩歩く。

星空を見上げて大きく息を吸い込んでいく。

かすみ「♪〜〜〜♪♪〜〜♪〜〜〜♪♪♪〜〜〜〜」

ミンク「!?」

急にかすみは美しい声を上げて唄を歌いだした。

その美しい歌声は、透き通るように美しく遠くまで響き渡る。

月の出ていない夜、星だけが美しく輝きを放ち・・・自然の山々に歌声が木霊して幻想的な雰囲気に包まれていく・・・。

家の灯りがかすみの姿を僅かに照らし出している。

スッとミンクの方を振り返るかすみのその姿は・・・本当に女神の様に見えた。

ミンク「・・・・・・」

口を少しあけて呆然とするミンク。

あまりに美しく、見たこともない情景に息を呑む・・・。

高揚する心は更に昂り、かすみに急速に惹かれていく。

かすみ「私が手伝ってあげる!!「人に好かれる」ようになる為に!!」

ミンク「な、何ッ?」

かすみ「歌も二人で歌えばもっと綺麗に聴こえる様に、私が手伝えばあなたの願いもきっと叶うわよ。」

屈託の無いその笑顔に何とも言えない気持ちがミンクに溢れ返っていく。

ミンクにとって、こんな事は初めてではないだろうか?

誰かに優しくして貰えるという事は・・・

人の言葉に心を救われるという事は・・・

嬉しさのあまり、目に涙を浮かべるという事は・・・。

今までの「自分の思い」を「誰か」に話した事も無かったが故、「凍えていた心」。

その心に暖かい風がそよいでいく。

服を貰った時に言いたかった言葉・・・今度はちゃんとかすみに聞こえる様に声を出す。

ミンク「ほ、本当に・・・ありがとう・・・かすみ・・・。」

かすみ「うふふ・・・初めて私の事「名前」で呼んでくれたね?ミンク・・・ありがとう。」

ミンク「ありがとう・・・かすみ・・・本当に・・・・ありがとう・・・。」

かすみ「ふふふ・・・もういいって、ミンク。」

初めて「ありがとう」という言葉を言えた人に心から感謝するミンク。

ミンクの心は今までに感じたことの無い感情に包まれていた。

・・・・・・

しかし、その安息の時すら無残に「人」は引き裂いていく・・・。

ミンク「!?」

目を大きく見開いて遠くに見える山を見つめる。

急にミンクの表情に「厳しさ」が出てきた事に驚くかすみはミンクに問いかける。

かすみ「ど、どうしたの?ミンクッ!?」

ミンク「俺が張った結界に入ってきた奴が・・・いや「奴ら」がいる・・・。」

その厳しい眼差しは何もかもを壊してしまいそうな目線。

ミンクは指を折り、侵入してきた人数を数える。

ミンク「十二人か・・・この数は「俺を殺しに来た連中」だな・・・。」

かすみ「こ、殺しにって!!ミンクは何も悪い事はしていないんでしょ?」

ミンクに慌てて問いかけるとミンクは当然といった表情でかすみに言い返す。

ミンク「「ライフダウト」っていう大会で優勝してから「名を上げたい」って連中がこの山に来るようになっちまった。」

かすみ「な!?そんな事で殺しになんて・・・。」

眉をしかめて木の杖をパッと宙に浮かべるミンク。それに飛び乗るとミンクはかすみに話しかける。

ミンク「危ないから家で待っててくれ。ちょっと行ってくるよ・・・・って、おいッ!?」

しかし、かすみはミンクがそういうのも聞かずにピョンッとミンクの杖に飛び乗る。

子供を宥める大人の様にミンクに言い放つかすみ。

かすみ「私も付いていくわ!ミンク一人に危ない事はさせないわよ。」

ミンク「・・・・ちっ・・・怪我しても知らないからな?」

そう言いつつも少し嬉しそうな表情のミンク・・・。

十二人の反応があった方角へと向かっていった。

「第6章 指令遂行」

星だけが光る闇の空を駆けていくミンクとかすみ。

十五分も飛んだところで銀色の鎧に身を包んだ剣士の部隊が見えてくる。

ミンク「あいつらが今回の侵入者か?随分上等な鎧を身に着けていやがる・・・。」

かすみ「・・・・?(あれ・・・?あの鎧・・・まさか!?)」

一気に急降下するミンク。

????「むっ!?」

銀色の鎧に身を包んだ剣士部隊の中で唯一「金色の鎧」を身に着けた剣士がミンクの気配に感づいて剣を鞘から抜き出す。

フワッと剣士達の前に降り立つと「気配」を感じていなかった銀色の鎧を着けた剣士達もサッと剣を抜き出した。

ミンク「なんだ?貴様たちは・・・?」

????「くくく・・・久しぶりだな?「イデアの魔人」ッ!!!」

ミンク「・・・・?」

夜目で金色の鎧を身に着けた剣士の顔が良く見えないミンクは目を凝らして顔を見てみる。

するとその剣士の顔は、ミンクにとって忘れることの出来ない顔であった・・・。

ミンク「き、貴様ッ!ウォルトか?」

かすみ「ウォ、ウォルトッ?どうしてあなたがここにッ・・・?」

ミンク「なっ?し、知り合いなのか??」

かすみに問いかけるミンクだが、その答えにニヤニヤと笑いながら剣を下ろしてウォルトが答える。

ウォルト「はっはっは、「イデアの魔人」を「風の魔女」が勧誘に行ったって聞いたものでね?もし、襲われでもしたらマズイと思って加勢に来たんだ。」

ミンク「ん?何?勧誘?風の魔女・・・?」

ウォルトの発言を理解できないミンクが眉をしかめてかすみの方を見る。

かすみは申し訳無さそうな表情で下を向いている。

ウォルト「しかし、貴様がその軍服を着ているという事は「軍隊入り」を承諾したという事だろう?はっはっは・・・私の杞憂だったようだな?」

ミンク「な、なんだ!?何故俺が軍隊になんか入らなきゃいけないんだ!?俺は、そんな承諾はした覚えは無いぞ!!??」

大きくウォルトに怒鳴り上げるミンクだが、そのミンクの答えに目を大きくして歓喜の表情を見せるウォルト。

ウォルトは左手で顔を覆いながら、嬉しそうに・・・とても嬉しそうにかすみに言い放つ。

ウォルト「今の「イデアの魔人」の発言・・・。「勧誘拒否」で「指令遂行」となるなぁ?イデア三銃士、風の魔女かすみ!!」

かすみ「ま、待ってよウォルトッ!!彼は・・・」

慌ててウォルトに反論しようとするがミンクは目を大きく見開いてかすみを見つめる。

その表情は「嘘だろ?」・・・そう言っている様に見える・・・表情を言葉に変えて・・・ミンクはかすみに問いかける。

ミンク「なぁ?どういう事だよ?「植物学者」だろう?かすみは!?軍隊って・・・?勧誘って聞いてもいないぞ!?それに「指令遂行」って」なんだよ!!!?」

かすみ「う・・ううぅ・・・」

ミンクの質問に答えることが出来ないかすみは手を強く握り締める。それを見て、嬉しそうな表情でウォルトが口を開いた。

それは、ミンクの心を大きく傷つける一言・・・。

ウォルト「貴様が「軍隊入りを拒否」したら、抹殺するように言われてたんだよなぁ?かすみぃ?」

ミンク「!!」

かすみ「う・・うぅぅ・・・」

両手を覆って泣き出してしまうかすみ・・・。しかし、涙を流しても治まらない現実にウォルトが剣を抜いて怒鳴り上げる。

ウォルト「かすみぃ!!リーシュ様の命令だろうが!?かすみが生きていた以上「イデアの魔人、抹殺」の任務はお前の物だ!!さっさと任務を遂行しろ!!」

ミンク「・・・・・・・」

ウォルトの罵声にミンクは黙り込んでかすみの反応を見ている。

かすみ「わ、私は・・・私は・・・・」

ガクガクと震えるかすみにウォルトが再度怒鳴り上げる。

ウォルト「貴様、リーシュ様の命令に背くのか?この事を知ったらリーシュ様は、さぞ御嘆きになられるだろうなぁ?」

かすみ「!!」

涙をポロポロと零しながらウォルトの言葉に息を呑むかすみ・・・。

スッと「星のピアス」を取り外すと悲しそうな表情で・・・それを杖へと変える。

ミンク「・・・・・・・・」

先程まで優しな目でかすみを見ていたミンクの目が凍る。

その眼差しは「敵」を見つめる目・・・。

とても・・・冷たい目・・・。

かすみ「ッ!!」

歯を食いしばり、ミンクに向かって杖を向けると大きな声で「魔法の名前」を言い放つ!!

かすみ「うわぁーーーーーッ!!ドラゴンゲイルーーーーッ!!!!」

ゴァーーーーッ・・・・ガリガリガリガリ・・・バキバキバキバキ・・・・・!!!!!!

地面を抉り、木々を薙ぎ倒しながらミンクに向かっていく風の竜。

牙を向き、爪を立ててミンクに襲い掛かる!

バシュッ!!!

かすみ「!!」

ウォルト「ふんッ!やはり逃げるか?イデアの魔人・・・。」

剣士1「おぉぉ・・・話に聞いていたが・・・」

剣士2「なんと禍々しい・・・。」

空に留まり続けるミンクの顔や表情は闇に包まれ見える事は無い。

星空に埋もれ、暗い闇空に人の姿形だけを映しだす。

その人の姿をした闇・・・僅かに光が入った瞳だけが・・・不気味に映し出される・・・。

かすみ「くっ!!」

汗を垂らしてミンクを見上げるかすみ。

しかし・・・かすみは空から零れる光の雫に体が止まる!

かすみ「ミ、ミンクッ・・・・。」

ポロポロと零れる光の雫は止まることが無い・・・。

不気味な闇から零れる・・・とても美しい光の雫・・・。

ウォルト「はっはっは!!滑稽だな!!魔人は涙を流すのか!?さぁ!何をしている?風の魔女よ!!力の差を見せ付けろ!リーシュ様への忠誠を見せるんだ!!リーシュ様への忠誠をなッ!!!」

かすみ「ぐぐぐぐぅ・・・・」

ミンクの涙にかすみも涙を流す・・・。軍に身を置き「絶対忠誠」を誓わされたかすみにとっては・・・最も過酷な指令・・・。

今、かすみはミンクを殺さなければ・・・ならない。

闇に隠れたミンクはかすみに思いもかけない言葉を書ける。

ミンク「ふんっ・・・その程度か?風の魔女・・・。」

かすみ「・!?・・・えっ?」

目を大きく見開くかすみ・・・。ミンクの冷たい声色、発言に心が震える。

ミンク「魔人の駆除に魔女が来た?だったら俺は貴様を殺そう。そしてその後のターゲットは・・・イデアだ・・・。」

かすみ「なっ!なんて事を言うのよッ!!」

ウォルト「くっくっく・・・とうとう本性を現したか?イデアの魔人よ・・・?」

ミンク「はっはっはっはっは・・・・あぁ、俺は全てを壊してやる・・・。全て壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、・・・・そのガラクタの上に俺は唯一人、立ち尽くそうッ!!!」

かすみ「や、止めなさいッ!!!」

かすみの杖から再度「風の竜」がミンクを襲う!しかし、それを驚くほどのスピードでかわすと、まるで気が狂ったように縦横無尽に飛びまわる。

かすみが気を失い、「空想のイデアの魔人」の夢を見た・・・あの光景と変わらない・・・。

ミンク「はーーーっはっはっはっは!!!!」

かすみ「く・・・ぐぐぐ・・・・・。」

かすみの目に怒りが満ちていく・・・。

一時でもミンクを「優しい魔法使いだった」と確信していたかすみにとって・・・その発言、行為は裏切りにも似た物に感じていた。

かすみ「イデア三銃士の名において!!「イデアの魔人」を抹殺しますッ!!」

先程迄とは打って変わり、厳しい表情を見せるかすみ・・・。

杖を力強く握り締めてミンクを追いかけていく。

ミンクは木々を縫う様に飛び、かすみを少しずつ引き離していく・・・。

ウォルト「ふん・・・高みの見物と洒落込もうか?」

その後をゆっくりとウォルト達はつけて行った。

・・・・・・・

騒がしく、魔法の音が響き渡るティモーレの山は今や「上級の魔法使い」の為に戦場と化している。

ド級の風の魔法を連発するかすみ。

それを笑いながら・・・かわし続けるミンク。

昼間、キノコを採りに来た崖へと差し掛かる。

ミンク「・・・・・・・」

かすみ「安全地帯に入ったわね?これ以上は私も追いかけられない・・・。」

グッと睨みを効かせるかすみだが、ミンクはポケットに手を入れ、笑いながら舞い降りる。

ミンク「別に逃げた訳じゃない・・・。ここで引導を渡そうと思っただけだよ・・・かすみ。」

にやりと笑うミンク。その構えに一分の隙も無い。

かすみ「降りてきたのなら・・・もう避けれないわよ・・・?」

かすみは杖を振り上げると普段はしない「魔法の詠唱」を始める・・・。

かすみの美しい詠声に風が集まっていく・・・。

ミンク「・・・・・古代魔法か・・・?」

かすみ「名も無い魔法に私が名前をつけたわ!!喰らいなさい!!「セイレーンの舞踏祭」ッ!!!」

かすみの大きな声をスイッチにして形の無かった風に妖精の姿が形成されていく。

無数の風の精霊がミンクに向かって縦横無尽に襲い掛かる!!

かすみ「あなたでも・・・これは避けれないわ!!!」

空気すらも切り裂く無数の妖精の風の羽。

確かに避けれない。

しかし、ミンクには謹製魔法「ゴッドキャスリング」がある。

避けるのでは無く、かすみと存在位置を交換してかすみ自身に攻撃が当たるであろう。

結局、ミンクは無傷。

妖精の羽に傷つくのはかすみだけ・・・。

命の炎を・・・揺らしながら・・・。
赤い血を散らして苦しみの表情に倒れていくのは・・・


迫ってくるセイレーン達を目の当たりにして、ミンクはニコッと笑ってかすみに言い放つ。

ミンク「かすみ、今まで・・・ありが・・・。」

かすみ「えっ!?」


!!!!!


セイレーンの攻撃が凄まじい音を立てる。

引き千切る・・・聞きたくも無い音を立てて・・・

ミンクの着ている軍服がみるみる引き裂かれ・・・

肉もろとも引き千切る・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・






赤く血に塗れて倒れたのはミンクだった。

かすみ「ど、どうして!?魔法を使えば相殺も出来たでしょう?な、なのに・・・何故・・・あッ!!!」

逃げながらもミンクは一度として「攻撃魔法」を使っていなかった事に気付くかすみ。

ミンクは赤い血を口から零しながら、かすみに話しかける。

ミンク「こ、こうしなきゃ・・・君・・が・・・咎められるんだろ・・・?」

かすみ「!!!」

ミンクの言葉に絶句するかすみ。

無傷の筈のかすみだが喉が渇き、心臓が壊れそうなほど締め付けられる。

その逆に・・・ミンクは目を閉じて笑顔を見せている。

傷つき、想像も出来ないほど痛みが体中に走る筈なのに・・・

ミンク「さぁ・・・止めを・・」

優しく微笑みかけるその表情はかすみと過ごした時のミンクの表情。

かすみ「・・・・・・・」

大魔法を使ったかすみの残り少ない魔力はこれで最後。

使えば当分魔法を使用することはできない・・・。

かすみ「う・・うぅぅ・・・」

かすみは涙を零しながら・・・ミンクの胸元に手を乗せる。

かすみ「ミンク・・・ごめんなさい・・・。」

ミンク「あぁ・・・さよなら・・・かすみ・・・。」

かすみの手の平に眩いばかりの光が集まっていく・・・。

これがかすみの使える最後の魔法・・・。

・・・・・・・

かすみ「ごめんなさい・・・ミンク・・・本当にごめんなさい・・・。」

ミンク「・・・・・・」

返事の無いミンク。しかし・・・

かすみ「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

何度も何度も謝るかすみの手にスッと手を乗せるミンク・・・。

ミンク「かすみ・・・」

かすみは止めの「風の魔法」を使ったのではなく・・・「回復魔法」を使用したのだ・・・。

かすみ「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

ミンクの体は十分とまではいかないまでも動けるようになるまでに回復する。

かすみはミンクに抱きつき、泣きながら謝っている・・・。

ミンク「かすみ・・・ありがとう・・・。」

二人は抱き合いながらお互いの気持ちを通じ合わせている。

まるで一つになったかの様に・・・。

しかし、ゆっくりと後をつけていたウォルト達がミンクとかすみに下卑た笑いを見せながら現れる。

ウォルト「はっはっは・・・魔人と魔女の恋物語か?馬鹿馬鹿しい・・・。」

かすみ「ウォ、ウォルトッ!!」

まるで「こうなる事」が解っていたような表情で剣を抜くウォルト。

かすみに向かって大きな声で怒鳴り上げる。

ウォルト「俺が「イデア三銃士」入りしてから貴様は気に食わなかった。女の癖に妙に腕が立つしなぁ?イデアの魔人・・・貴様も大概だッ!「ライフダウト」での恥辱!今ここで晴らしてやるッ!!」

ウォルト「さぁ!「風の魔女」が手を下せなかった「イデアの魔人」を我ら「イデア遊撃剣士部隊」が殺してやる!!「風の魔女」もリーシュ様の命に叛いた軍規違反人として抹殺しろッ!!!「正義」は我らにこそあるのだッ!!!」

剣士隊「ハイッ!!!」

一斉に剣を抜き取る剣士達。しかし、ミンクは睨みを効かして手を地面に掲げる。

すると地面に暗い闇が現れて、一本の杖が現れる。

金色に輝く美しいその杖はライフダウトでミンクが使用したもの。

パッと手に取るとまるでバトンでも振るかのように杖先をウォルトに掲げてこう言った。

ミンク「貴様が「正義」を語るなッ!!ボンクラがッ!!」

ウォルト「な、なんだと?貴様!?」

突然のミンクの発言に眉をしかめるウォルト。

ミンク「ライフダウトの時もそうだったが貴様の「目」は随分と濁っているじゃないか?「敵」を悪と決め付けて「正義の本質」を見ようともしないその目・・・。」

ウォルト「な、なんだと!?」

ミンク「かすみに出会って「正義」って言うものが少し解った様な気がする・・・。俺の手向けの華だ。受け取るがいいッ!!」

そういうとミンクは杖の先に水球を作り出して一気にそれを飛ばすッ!!

ウォルト「!」

剣士1「ぎゃっ!!」

ウォルトの避けた水球が後ろに控えていた剣士にぶち当たる!

それを皮切りに剣士たちが四方八方からミンク達へと襲い掛かってきた!!

ミンクはかすみから離れないように、庇いながら剣士の攻撃を避け続ける。

剣士2「でりゃーーーーッ!!!」

剣士3「たりゃーーーーッ!!!」

剣士7「うりゃーーーーッ!!!」

剣士12「せりゃーーーーッ!!!」

ミンク「クッ!!まだまだっ!!」

かつてあらゆる猛者を相手に楽勝で勝ち続けたミンクに顔色に陰りが見える。

かすみ「ミ、ミンクッ!?大丈夫なの??」

ミンク「な、なぜだ・・?いつもより戦いにくい・・・?」

ミンクのその表情にニヤリと笑いを見せるウォルト。

ウォルトにはミンクの「弱体化」の理由が見当付いたようだ。

ウォルト「はっはっは、パーティーを組んだことの無い「イデアの魔人」じゃ、今のかすみは「唯のお荷物」と言うことか!!」

ミンク「!!」

ウォルトのその言葉に汗を垂らして、かすみに手を伸ばそうとする・・・。

劣勢の理由が解り、一旦空へと逃げようと考えたのだ。

しかし、ウォルトの必殺技が二人の距離を遠ざける!!

ウォルト「させるかッ!「イデアの魔人」よッ!!「瞬裂斬」ーーッ!!!!」

かすみ「きゃ、きゃぁーーーーッ!!」

ウォルトの剣撃はかすみの腕をかすめただけだったが、体勢を崩して地面に倒れた後、首筋に剣を突きつけられる。

ミンク「か、かすみぃーーーッ!!」

目を大きく開けてかすみに声をかけるが・・・ウォルトの愉悦した表情に青ざめる。

ウォルト「くっくっく。顔色が悪いぞ?どうした?イデアの魔人?」

ミンク「き、貴様・・・かすみを離せッ!!」

ウォルト「くっくっく、離せといわれて離す馬鹿はおるまい?なぁ?かすみよ・・・?」

かすみ「う・・うぅぅ・・・・」

悔しそうな表情でウォルトを睨みつけるかすみ。

魔力さえあればウォルトに負けることが無いのに、こうまでいい様にされている事に悔しさが溢れ返ってくる。

ミンク「ぐ・・ぐぐぐ・・・」

ミンクは諦めたように杖を下ろすと、銀の鎧を身にまとう剣士達に取り囲まれる。

一人の剣士がミンクの左腕に「腕輪」を付けると急に強気になって素手でミンクを殴りつける!

ミンク「グワッ!?」

かすみ「ミンクッ!!私に構わないで攻撃して!!」

青ざめてミンクに大声を上げるがウォルトは笑ってかすみに言い放つ。

ウォルト「はっはっは、もう遅い!「魔封じの腕輪」はかすみも知っていよう?」

かすみ「な?魔封じの腕輪って・・・そんな物まで持ち出してきたの?ウォルト!?」

ミンク「くっ、(マジで魔法が使えん・・・。)」

魔力を消されて一般人とまったく変わらなくなってしまったミンク。

無常にも万策が尽きてしまった。

・・・・・

ドン!!

かすみ「くっ!!」

ウォルトはミンクの方へとかすみを突き飛ばすと二人、どちらにしようか?と笑いながら剣を振り続ける。

勿論、迷っているのは「殺す順番」である。

ウォルトは嬉しそうな笑みを零して二人に言い放つ。

ウォルト「嗚呼、この日をどれだけ待ち望んだか・・・。優勝確実と言われたライフダウトで破れ、後ろ指を指され恥辱に耐えた日々・・・。」

ミンク「・・・・・・・」

ウォルト「イデア三銃士の称号を親父から継いだものの、女の魔法使いに敵わず・・・悔しさに震えた日々・・・。」

かすみ「・・・・・・・」

ウォルト「それも、今日、この瞬間に終わる!!二人纏めて地獄に落ちるがいいッ!!」

ミンク「クソッ!!!」

ミンクが手を握り締めて叶わないと分かり切っている抵抗をしようとした瞬間!

間に割ってはいる一人の女の魔法使いがウォルトの剣を止める!

???「エッジアブソーバーッ!!!

掲げた右手に風が集まり、素手でウォルトの剣を止める!!

剣の衝撃は全て吸収されて、難なくウォルトの剣を握り締める。

レイナ「かすみ様!大丈夫ですか!?」

かすみ「レ、レイナッ!?どうしてここに!?」

ウォルト「ちっ!邪魔を・・・」

ミンク「?(誰だ?この女?)」

たった一人、レイナの事を知らないミンクがかすみに問いかける。

かすみ「(わ、私の部下よ。)」

レイナはこの現状に大声を上げて全員に怒鳴り上げる。

レイナ「こんな所で仲間同士が争っている場合ではありません!!イデアが、ドルロレとの戦争で戦火に落ちています!!」

かすみ「な、なんですって!?」

レイナ「私は三日前から寝ずに馬で来たのですが・・・今頃イデア城にも戦火が襲っている可能性もあります!どうか帰還の準備をして下さい!!」

かすみ「そ、そんな・・・イデアが戦場に・・・?」

ミンク「戦争・・・だと・・・?」

ウォルト「・・・・・・・」

レイナの突然の報告に息を呑むかすみとミンクだが、剣を握る男たちはニヤリと笑っている。

ウォルトはレイナの焦りに手で顔を覆って笑い出した・・・。

ウォルト「はーっはっはっは・・・そうだろうなぁ!今頃戦場だろうよ!」

レイナ「なっ!?ウォルト様っ?」

ズバンッ!!!

ウォルトは笑い声を上げて容赦なく剣をレイナに振付ける。かわす事も出来なかったレイナから赤い血が噴出していく!!

ウォルト「茶番は終わりだ!今やイデアで戦えるのは軍師リーシュと残りのイデア三銃士「ふっきい」のみ!!我らはイデアを捨て、新たなる国を作る一歩を踏み出すのだ!!」

かすみ「なっ!?どういう事!?」

かすみ達に向かってほくそ笑みながら口を開くウォルト。

ウォルトの言うことが理解できないミンク達。ウォルトは剣を大きく振り上げる。

ウォルト「冥土の土産に聞かせてやる。ドルロレの有力者とイデアの有力者が手を組んで「新たなる国」を創立するのだ!」

ミンク「!!」

ウォルト「大臣アーク、我が父レヴォルトは最早イデアの高官にあらず!最大軍事国家「アヴィディダ」を創立するためにイデアを捨てたのだ!!我も同じく、今やアヴィディダの民!!イデアに明日は無いと知り、あの世へ行けーーーッ!!!」

かすみ「きゃ、きゃぁーーーーッ!!!」

ミンク「クッ!!!」

ビシッ!!!

剣を振ろうと力強く大きく踏み込んだウォルトの足元からヒビ割れの様な音がする!!

崖は脆くなっていて・・・ウォルトの足元が砕けていったのだ!!

ウォルト「な?なにッ!?」

レイナ「キャァーーーーッ!!!」

剣士「ウォ、ウォルト様ーーッ!!!」

四人は地面の見えない、崖の下へと落ちていった。


「第7章 諦めきれない命」

暗く、とても暗い。

体はきしんで動きもしない。

凍える程に冷たい、とても冷たい感触が俺を襲う。

寒い・・・寒い・・・誰か暖めてくれ・・・。

ピキピキッピキ・・・・

指の先から凍っていくのが見える・・・。

ゆっくりと・・・ゆっくりと侵食していくかのように俺の体を黒い氷が凍らせていく・・・。

何も考えられない。

このまま黒く凍っていく・・・これは・・・俺の「死」なのか・・・?

頭の先から目を通り、凍っていく。

これが俺の「死」だというのなら・・・それも構わないかもしれない・・・


やり残した事は何も無い・・・


俺は・・・死んでも・・・構わない・・・。

ゆっくりと・・・目を閉じれば「何も無い世界」が広がっていく。


これが・・・「本当の死」なんだろう・・・。


フワッ・・・




暖かい風が俺の身を包む・・・。

何も考えることが出来なくなり、凍っていく俺の体に・・・暖かい風・・・?




誰だ?





俺に「暖かさ」を与えるのは・・・



・・・・・




・・・





何を言ってるんだ・・・俺は・・・



一人しかいないじゃないか・・・



一人・・・たった一人しかいない・・・




「暖かさ」を与えてくれたのは・・・




君しかいなかった・・・





そうだったね・・・




かすみ・・




・・・・・・

ミンク「ぐうぅッツ!!」

軋む体を奮起させると崖の段差で助かったのか?

未だ下の見えない崖が続いている。

偶々落ちた崖の段差はキノコがひしめいている。

これがクッション代わりになってくれたのだろう。

周りにはミンク以外の人間は誰もいない。

ミンク「は、はぁ・・・はぁ・・・」

体中傷だらけになり足の骨が折れて180度、反対を向いているのがわかる。

立つ事もできず痛みに堪えながら這いずり回りかすみを探す。

ミンク「か、かすみ・・・・」

肋骨が折れているのだろうか?大きな声を上げる事はできない。

しかし、崖の下から擦れるような声が聞こえてくる。

かすみ「・・・・クー・・」

ミンク「か、かすみ・・・・?」

僅かに聞こえるかすみの声に渾身の力で崖に向かうミンク。血を地面に引き伸ばしながら崖の下を見下ろすとレイナとかすみが崖から生えていた木に捕まっていたのだ。

レイナ「ぐぐぐ・・・」

ミンク「!なっ・・・?」

よく見てみるとレイナが左手で木を掴み、右手でかすみの左手を掴んでいる。

かすみはレイナが手を離すとあっという間に落ちてしまいそうになっていた。

レイナ「はぁ・・う・・・ぐぐうぐう・・・」

かすみ「う・・うぅ・・・」

ミンク「ま、待ってろ・・・。今行く・・・。」

かすみ「・・・・・」

腕に付けられた「魔封じの腕輪」と、木に掴まっている二人の顔にポタポタと落ちていくミンクの血にそれは叶わないと知るかすみ。

レイナ「か、かすみ様だけでも・・・ミンク様のいる所まで・・・」

懸命にかすみを押し上げようとするが女の細腕ではそれも叶わない。その上ウォルトに切りつけられたレイナの傷口が少しずつ、少しずつ広がっていく。

かすみ「レイナ・・・・。」

レイナの懸命な忠誠心に涙を流すかすみ。しかし、かすみはレイナに向かって優しく囁く。

かすみ「もう、いいわ・・・レイナ。」

レイナ「い、嫌です・・・。諦めたり・・・出来ません!「最後まで諦めない」がかすみ様の口癖だったじゃないですか!!」

涙を流して歯を食いしばるレイナ。

ミンク「そ、そうだかすみ・・・その子のいう通りだ・・・。」

かすみはミンクに出来る限り・・・出来る限り大きな声で言い放つ。

かすみ「ミンク・・・本当にごめんなさい。あなたには迷惑ばかり掛けたわね・・・。」

ミンク「な、なにを・・・」

気の失いそうになる激痛に耐えるミンク。

かすみ「一緒に「ミンクの夢」を叶えるって言うのは無理みたい・・・。ごめんね・・・ミンクは諦めないで!」


バッ!


レイナ「かすみ様ーーーーーッ!!!」

ミンク「バ、馬鹿野郎ッ!」

レイナの手を振りきり、吸い込まれるように遙か崖の下・・・闇の中へと消えていくかすみ・・・。

かすみの流す涙さえ無常にも闇に消えていく・・・。

レイナは落ちていくかすみに懸命に手を伸ばす。

レイナ「か、かすみ様ーーーッ!!って・・・エッ!?」

その瞬間、レイナの横を通り過ぎて勢いよく落ちていくミンク。

満身創痍、体を自由に動かす事も出来ないミンクが・・・かすみに向かって飛び降りた!

レイナ「そ、そんな!?ミンク様まで・・・そんなッ!!」

溢れる涙がポロポロと崖の下に落ちていく・・・。

落ちていく二人を見つめつつも・・・レイナは手を離すことは・・・できなかった。

・・・・・・

落ちていく・・・

ドコまでも落ちていくかすみ。

闇に包まれ、ただ落ちる事しか出来ないかすみ。

かすみ「い、嫌・・・」

目を瞑り、死への恐怖と不安がかすみを襲う。

魔力は尽き果て、頼るものも無いかすみは只々やがてやってくる「死」を受け入れなければならない。

闇の中へと吸い込まれ、いつになるかわからない「死」への恐怖に涙を流す。

ミンク「・・・・み・・・」

その時、聞こえるはずの無い人物の声が・・・かすみに耳に聞こえてくる!

かすみ「えっ!?」

それは幻聴かと思う程かすれそうな弱々しい声。しかしそれは「強い思いの込められた声」。

ミンク「か、かすみ・・・」

かすみ「ミ、ミンクッ!?どうして!?」

凄まじいスピードで落下しながら、かすみに抱きつくミンク。

ミンク「グァッ!」

最早、体中の傷や怪我が限界に来ている。少しのショックで気を失いそうになる。しかしミンクは決して気を失うわけにはいかない。

かすみ「あ・・・ああぁあ・・・」

最後の最後、たった一人で死んでいくと思っていたかすみはミンクの体に強く抱きついてくる。

ミンク「・・・・・ッ・・!」

ミンクはそれすら痛みに感じるのだが・・・かすみに笑って言い放つ。

ミンク「し、しっかり・・・掴まってろよ?」

かすみ「・・・・・・・」

涙を流してミンクの胸に顔を埋め、無言で頷くかすみ。

バリッ!!

何の音か判断も出来ないたった一瞬、思いもしていないかすみの顔に生暖かい「何か」が降り注ぐ!

かすみ「きゃぁッ!!」

ミンク「・・・・・・ッ!!」

かすみの顔に掛かった「何か」は目に激痛をもたらす。目を開ける事も出来ず、只、ミンクを強く抱きしめる・・・。

ミンク「りゃぁーーーーーーーッ!!!」

ガクンッ!!!

かすみ「?」

体に大きな重力が掛かる・・・。

宙でピタッと止まった様な感じなのだが・・・その重力を感じなくなった瞬間・・・又も落下した。

かすみ「きゃ?」

しかしすぐにドサッ!っと地面にぶつかる。その衝撃は抱き上げられ、落とされた程度の衝撃。

かすみ「うぅぅ・・・ミンク・・・何処?何処にいるの?」

目に激痛を伴うかすみは目を開ける事ができずに手探りでミンクを捜すが・・・ミンクの声は聞こえない・・・。

かすみ「ミンクッ・・・ミンクッ!!私・・・目を開けられないの!!お願い!返事をして!!ミンクッ!!ミンクッ!!」

まるで親の姿が見えずに泣きじゃくる子供のようにミンクを捜すかすみ・・・。

ミンク「大丈夫・・・すぐ・・・傍に行くから・・・。」

かすみ「ミ、ミンクッ!!無事だったのね!?」

ミンクの無事に歓喜の声を上げるかすみ・・・。

ズル・・ズル・・・ズル・・・・ズル・・・・

かすみ「?」

ミンクの声がした方で何かが引き摺られる様な音が聞こえる・・・。

ミンク「ちょっと・・・・待ってろよ・・・」

ズル・・・・・ズル・・・・・・ズル・・・・・

かすみ「な、なに・・・?」

ミンクの声の聞こえる場所から聞こえてくる、その引き摺られる様な音・・・。

かすみはそれを確認しようと目に掛かった生暖かいものを手で拭う。

拭っても拭っても相変わらず激痛が走る霞んだ目・・・朝日が昇ろうとしているのか・・・崖の隙間から時折日差しが差し込んできているのも助けて・・・おぼろげだが・・・その正体が見えてゆく・・・。

かすみ「!!!!!」

その正体に言葉を失うかすみ。

目に映るその光景にかすみは口に手を押し当てて・・・只々涙を溢れ返らせる。

ズル・・・・・ズル・・・・・・ズル・・・・・

ミンク「もう少しで・・・そっちに・・・行くからな・・・」

足が折れて180度、逆側を向き・・・腕輪を付けられていた左手が完全に引き千切れている・・・。

「魔封じの腕輪」を外すために崖の岩場で引きちぎったのである。

千切れた腕からは血が溢れ返り・・・這いずるミンクの動いた後が血で確認する事ができる・・・。

かすみ「ミ、ミンク・・・あなた・・・あなたは・・・」

かすみの顔に掛かった生暖かいものは「ミンクの血」であった。

それが目に入り、かすみは目を開ける事ができなかったのだが・・・ミンクの姿に涙が溢れて、目に入った血が洗い流されていく。

ミンクの体中は満身創痍・・・。もう・・・いつ死んでもおかしくは無い。

しかし、それでもミンクは気をしっかりと持ち・・・千切れて落ちた左手に向かって這いずっている

ミンク「早く、回復魔法を・・・」

やっとの思いで左手を手にしたミンクはゆっくりとそれを左腕に引っ付ける。

腕輪が外れたミンクは左腕を容易につけると今度は体中に回復魔法をかける・・・。

ミンク「・・・・ぶはぁーーーッ!!!」

九死に一生を得たミンクは足も元通りになり、立つ事もできるようになる。

慌ててかすみの方へと振り返る・・・。

ミンク「すまない・・・大丈夫か?」

かすみ「うぅぅ・・・・」

涙を流して倒れこんだままのかすみ・・・。

心配そうにミンクはかすみをスッと抱き上げる。

ミンク「目が痛いだろう?泥が目に入ったようだ・・・。魔法で水を出すから少し離れた場所へ行くぞ?」

かすみを抱き上げて血で汚れた場所を移動するミンク・・・。

ほんの20m程だが、まだまだ暗いため血はもう見えない位置にいる・・・。

かすみ「(あなた・・・そんなになりながらまだ私を気づかうの?)」

目をグッと閉じて塞ぐ様に涙を流すかすみ・・・。ミンクの行為にどうしても涙が止まらない。

ミンク「ほれ、ちょっと冷たいが洗うからな?」

かすみの顔にミンクの出した「水」が掛けられていく。服についた血も綺麗に洗い流してかすみに笑顔で話しかける。

ミンク「命、助かってよかったな。」

かすみ「な、なんで・・・こんな事・・・」

ミンク「諦めないのが・・・かすみの口癖なんだろ・・・?俺、かすみを・・・諦められなかった・・・。」

今までの惨劇をまるでなかった様に笑うミンク・・・。

ミンクはかすみの無事に笑顔で喜んでいる・・・。

かすみ「バ、バカでしょ?あなた・・・。」

ミンク「な、なんだよ?せっかく助けてやったのにバカって・・・?」

かすみ「・・・・・・・」

ミンク「お、おいッ?」

ミンクの胸元にそっと抱きつくかすみ・・・。小さなかすれた声でミンクに謝る。

かすみ「ごめんなさい・・・。私のせいなのに・・・本当にごめんなさい・・・。」

ミンク「謝ってばかりだな?今日のかすみは・・・。」

ポロポロと涙を流すかすみに目を伏せて強く抱きしめ返すミンク。

かけがえの無い思いを抱きながら・・・

二人は極自然に・・・

口付けを交わした・・・。

その口付けはとても、とても長く感じた一瞬の口付け・・・・


・・・・・・・


レイナ「ぎゃぁーーーーーー!!!」

ミンク「な、なんだッ!?」

突然の奇声に驚いて上を向くミンク。かすみも同じ様に上を向く!

なんと上空からレイナが落ちてきたのだ!!

ミンク「や、やばいッ!!」

駆ける様に空を翔けるミンクが間一髪、墜落直前のレイナを抱き上げる・・・。

かすみ「レ、レイナッ!あなたまでどうして!?」

レイナを抱き上げながら回復魔法をかけるミンク。

申し訳なさそうに泣きながらレイナは答える。

レイナ「腕が痺れて・・・落ちちゃいました・・・。」

ミンク「ははは・・・そりゃ生きた心地がしなかっただろう・・・。」

苦笑いしつつもレイナを地面に下ろそうとするミンクだが、かすみが思い立った様にレイナ、ミンクに大声を上げる。

かすみ「そうだわ!イデアが戦場になっているのよね?早く・・・早く帰還しないと!!」

焦るかすみの様子にミンクが腕を組んでレイナに問いかける。

ミンク「そうだ!イデアが戦場になったのって2日前らしいが・・・ここまで相当な時間が掛かったはずだろう?」

レイナ「えぇ!イデアに早く戻らないとッ!!ここから馬を走らせても又、2日間は掛かってしまいます・・・。」

ミンクは腕を組んで顎に手をやりながらチラッとかすみの方を向く。

かすみ「・・・・・・」

ミンク「・・・・・・」

かすみの眼差しは、いかにも「私をイデアに連れてって!」と言っている様に見える・・・。

レイナ「!! ・・・・・・」

レイナもかすみの表情に気が付くとかすみの真似をして同じ様な眼差しでミンクを見つめる・・・。

二人の眼差しに断る事など出来ないと感じたミンクは溜息をついて二人に切り出した。

ミンク「わ、わかったよ。乗りかかった船だ・・・。俺も出来る限りの協力はするよ・・・。」

レイナ「有難う御座います!ミンク様ッ!!」

かすみ「ありがとう!!ミンクッ!!」

ミンクは二人を抱きかかえて崖を浮かび上がっていく・・・。

樫の木の杖が無い為に素早く空を飛ぶ事は出来ないが崖を上がった所にそれは落ちていた。

スッとじめんに落ちる樫の木の杖に伸びている多量の赤い血・・・。


ミンク「・・・・・・・・・」

ウォルトの使役する剣士達の亡骸が先程までの悲惨さを思い返させる・・・。

かすみ「まさかウォルトがイデアを裏切るなんて・・・。」

レイナ「帰ったら真っ先にリーシュ様に報告ですね。かすみ様・・・。」

ミンク「・・・・・・(ウォルトの奴・・・あの高さで落ちたのでは・・・助かってはいないだろうな・・・。)」

樫の木の杖を拾い上げてイデアへと向かうミンク・・・。

ミンクは三人を乗せながらも鳥よりも早く、風よりも早く空を翔けてイデアに向かっていった。


第8章「終戦」


開戦4日目。

戦火の広がるイデア城下町・・・。

草原の街道はドルロレの兵士に攻め込まれている。

剣が弾ける音がしたと思いきや、魔法の轟音が響き渡る。ドルロレの兵士の眼差しは狂気に満ちあふれ、軍隊、一般人、関係なく傷つけて・・・殺していく。

力を持たない人々は狂気に逃げまどい、震え上がる。

侵攻してきたドルロレの敵兵は総数600人。それに対してイデアは1200人である。

現状から退ける事は出来る様にも思うがドルロレ兵の「増援部隊」が明日にはイデアに到着する予定だとの情報がリーシュには入っていた。

慌ただしいイデア城内の総司令本部。若い軍師が一人奮闘している。

リーシュ「クソッ!我らがイデア第三皇女「アカリア姫」が敵の手に落ちたのをキッカケにイデアの統率がガタ落ちになっている!!
アーク大臣、レヴォルト騎士長めッ!!イデア三銃士「ウォルト」も敵についてしまったと考えてもいい。「かすみ」は不在・・・。
イデア三銃士最後の一人「ふっきい」はドルロレに行ったきり連絡がない・・・。公爵貴族、剣聖クラージュ殿率いる騎士団は「漆黒の森」周辺の戦いで目一杯と来ている・・・。その他の重役に関しては震えているだけで役に立たない連中ばかりだ・・・。どれだけ考えても駒が・・・足りなさすぎる・・・。」

地図を片手に劣勢の戦況を打破しようを試行錯誤するリーシュだが、人材不足がここにきて祟った様だ。

なんどシュミレーションをしても思うような結果を得る事はできない。

リーシュ「病床に伏せる国王殿の代わりに第一王子、アルシェイド殿に和平の許しを得たが・・・書を持った兵士が一人も帰ってこない・・・。」

今日までに「和平の書」をドルロレに持って行った兵士は20人を超える。

しかし、その内の誰一人としてイデアに帰ってくる者はいなかった。

ドルロレの兵士達も「和平」の事等、お構いなしにどんどんイデアに攻め込んでくる。

そこへ鎧がもがれて、体中血まみれの騎士が息も絶えだえに現れる。

血まみれの騎士「ぐ、軍師殿・・・イ、イデア北西部の村「草原の斜陽」に・・・魔物の集団が・・・攻め込んで・・来ようとしています。た、対策の指示をお願い・・・します・・・。」

リーシュ「な、なんだと!?ド、ドルロレと戦争している最中に・・・魔物までがイデアを襲いに・・・」

血まみれの騎士は報告が終わると足を引きずりながら再度戦地へと赴いていく。

思いも掛けない報告にガクリと肩を落とすリーシュ。

遠くからは誰かの悲鳴が聞こえてくる・・・。いや、戦地はイデア城下町である為に・・・まだまだ城には程遠い・・・その誰かの悲鳴はリーシュの幻聴であろう。

リーシュは精神的に追い詰められていた。

リーシュ「こ、国王は病床に伏せって言葉を発する事も出来ない状態・・・。しかし、今思えば国王の病気も・・・アーク大臣の仕業だったと考えるのが妥当か・・・。」

力なくテラスに移動するリーシュ・・・。睨み付ける様な眼差しで涙を流す。

テラスから見えていた美しかった風景は無数の煙が上がり、民家が燃えているのが見える。

リーシュ「アーク大臣、レヴォルト騎士長・・・もとより疑わしい者達だったとは気付いていたが・・・私の判断ミスだった。もっと早く、奴らを失脚させるべきだったのだ・・・。」

考えてもどうしようもない後悔の念に押し潰されるリーシュ。テラスから大粒の涙を零して・・・懐から短刀を取り出した・・・。

ギラリ・・・

艶めかしく銀色に光る鋭刃・・・。

それは・・・逃げる為の物・・・

全てを捨てて・・・逃げる為の・・・

リーシュ「イデア・・・最早これまでか・・・。」

短刀を逆手に持ち替えたその時、遠くの空から聞こえる筈の無い声が聞こえる。

???「・・・様ーーッ!!」

リーシュ「?鳥のさえずりが人の声に聞こえるとは・・・私の心はここまで壊れてしまったか・・・?」

???「リーシュ様ーーッ!!」

いや!確かに人の声がする。その声は女性の美しい声・・・。リーシュの最も信頼する部下、かすみの声である。

リーシュ「!か、かすみッ!?かすみなのかッ!?」

テラスから短刀を落として辺りを見渡すリーシュ。空に浮かぶ雲の中央から人間が飛んでやってくるのを見つける!!

リーシュ「なッ!?かすみにレイナ!!それに・・・ま、まさかあれは!!イデアの魔人かッ!?」

思いも掛けない「増援」に興奮を隠せないリーシュ。テラスから力一杯かすみに手を振り、帰還を心から喜んでいる。

かすみ「ミンクッ!あのテラスに降りて!!」

ミンクに笑顔で指示を出すかすみ。しかし、ミンクは汗をダクダクに流して疲労困憊の様子だ・・・。

ミンク「ハァ・・・ハァ・・・・わ、わかった・・・。」

息は切れてヘトヘトの様子に目も当てられない。

ここまで女性とはいえ、二人も余分に乗せて17時間も不眠不休で飛んできたのだから当然と言えば当然であろう。

それでも横滑りをする様にテラスへと舞い降りる。かすみとレイナは上官リーシュに敬礼をして直立する。

ミンクは・・・無様に床に倒れ込んでいる。

リーシュ「よくぞ無事に戻ってきてくれた!二人とも!!それに「イデアの魔人招集任務」ご苦労だったね?かすみ。」

優しげな微笑みを見せるリーシュだが、かすみは厳しい表情でリーシュに問いかける。

かすみ「いえ、それよりもイデアの戦況をお教え下さい!リーシュ様ッ!」

レイナ「えぇッ!どうなっているんですか!?空の上から見ましたが町から沢山の煙が上がっていました!!」

リーシュ「あ、あぁ・・・私が居ながら申し訳ないが戦況は最悪だ・・・。」

リーシュは4日間のイデア対ドルロレの戦況、ドルロレへの「和平申し立て」そして先程入ってきた「草原の斜陽」の魔物襲撃をかすみに報告する。

・・・・・・・・

リーシュの報告にかすみは目を細めて地図を目にするとリーシュに案を提示する。

かすみ「レイナには「草原の斜陽」の魔物の討伐を命じて下さい。私はイデア城下町に侵攻したドルロレ兵を撤退させます!!」

厳しい眼差しのかすみは手をグッと握りしめて、リーシュに発言する。

リーシュ「あぁ、あとは「和平の書」をドルロレへ持って行く役だが・・・これ以上犠牲を出す訳にもいかない・・・私が・・・」

リーシュがかすみに言い放とうとした時、かすみが笑顔でそれに反論する。

かすみ「リーシュ様、「和平の書」を持って行くに当たって適任者がいます。誰よりも早く、魔物も盗賊もドルロレ兵とすらも戦闘を無視してドルロレ城に行ける人物が・・・。」

レイナ「あっ!そうか!!そうですね、かすみ様ッ!!」

リーシュ「!!!」

驚いた表情でイデアの魔人、ミンクを見つめるリーシュ・・・。少し眉をしかめた後、かすみに小声で問いかける。

リーシュ「か、かすみ・・・彼は信用に足る人物なのか?この状況下、確かに適任だとは思うが、そのままドルロレに手を貸されでもしたら・・・」

ミンクに今初めて会った為・・・信頼出来ない様子のリーシュだが、かすみは笑顔でリーシュに言い放つ。

かすみ「勿論ですッ!彼程!!彼程信頼できる人物はいません!!」

リーシュ「!」

レイナ「ふふふ・・・」

あまりに自身に溢れたかすみの答えに面を喰らうリーシュはミンクの方を再度見つめる。

舌を出して半分気を失いそうになっているが、リーシュは少しうつむき、目を閉じた後「和平の書」を懐から取り出した。

リーシュ「そうか、かすみがそこまで信頼できる人物だったか・・・。本当に良かった・・・。」

ゆっくりとミンクに歩いて近づくリーシュとかすみ。

かすみ「ミンク、お願い!この「和平の書」をドルロレの王様に渡してきて・・・。」

リーシュ「いきなりで本当にすまないとは思うが・・・最早、君しか頼れる人物はいないのだ、ミンク殿。」

ミンク「・・・・・・」

無茶ばっかり言うなよ・・・そんな表情のミンクは体中がガクガク震えている。

かすみ「あ、MPが切れかかっているのね?」

かすみは笑いながら「リュックサック」の中から「マナの水」を5本取り出すとミンクにそれを渡す。

ミンク「!!」

かすみに渡された「マナの水」の蓋を無造作に取り外すとそれを一気に飲み干す。

5本全部飲み干した所でミンクは眉をしかめてかすみに怒鳴り上げた!

ミンク「こんなもん持ってるなら最初っから出せ!!無いと思ったから飛んでる時もずっと我慢してたのにッ!!」

ミンクの大声にビクッとして涙を浮かべるかすみはミンクにまた誤り出す。

かすみ「ご、ごめんなさい・・・ミンク・・・。」

ミンク「・・・・ったく・・・もういいョ・・・。」

かすみの涙が苦手のミンクだが「マナの水」のお陰で魔力は完全に回復した様だ。

髪の毛を掻きながら表情を和らげるミンクはリーシュの方を向いて「和平の書」を手渡して貰う。

ミンク「最初に言っておく!この「和平の書」をドルロレに持って行き、イデアに帰ってきたら・・・俺は軍隊には戻らないからな?」

かすみ「!」

リーシュ「最初で最後の仕事という事か?ミンク殿?」

少し残念そうにミンクに問いかけるリーシュ。

テラスから杖をパッと浮かび上がらせてそれの上に立つミンク。背を向けながら話しかける。

ミンク「あぁ、俺は軍隊には入らないとかすみに言った。今回だけ、手を貸してやる。」

かすみ「ミ、ミンク・・・」

かすみの悲しげな声に振り向かないミンク。そのままゆっくりと上昇していく。

杖の向く方角をドルロレへと向けるとかすみの方を見下ろして・・・大きな声で言い放つ。

ミンク「こんな戦争!!さっさと終わらせようぜッ!!」

ニコッと笑った後、真剣な眼差しに変わったミンクは今まで以上に速く、ドルロレ城へと向かって飛んでいった。

かすみ「ミンク・・・そうね・・・終わらせようね・・・こんな戦争・・・。」

リーシュ「・・・・残念だ・・・あれ程の人材が・・・民間人だなんて・・・・」

リーシュは一足先に司令本部へと戻っていく。レイナ、かすみもそれぞれの「持ち場」へと急いで行った・・・。

・・・・・・・・・

イデア城からイデア城下町を通り抜け、最初に見えるのがイデア、「草原の斜陽」という小さな町である。ミンクは空を飛びながらその様子を見ていたが魔物と戦う一人の魔法使いの姿を見つける。

ドルロレの兵士にイデアの兵士もいるのだが、何故か全員眠っている。

その光景をみて、ニヤリと笑うミンク。

ミンク「へっ!レイナとかいう女の子・・・。無駄足だな。」

ミンクは安心したかの様に「草原の斜陽」を無視して飛んでいく。

その「草原の斜陽」にいるのは、過去、ミンクが出会った事のある魔法使い。

闇慈「ふぉっふぉっふぉ。ジジイだと思って甘く見ておるからそうなるんじゃ!!」

魔法の詠唱も全くなしで風の竜を一度に「八匹」も生み出す闇慈。

その風の竜は「風の魔女、かすみ」の出す竜よりも数倍大きく、より多い数の竜を出している。

闇慈「さぁ行けッ!オロチよ!!魔物相手ならば遠慮は要らんぞい!!みんな食い尽くしてしまえッ!!」

魔物一〜十五「ギョギョギョギョギョーーーーッ!!!!」

魔物十六〜三十「ギョギョギョギョギョーーーーッ!!!!」


魔力で形成された竜の筈だが、まるで生き物の様に次々と魔物を食べていく。

総勢三十匹のレベルの高い魔物が虚しい断末魔と共に、あっという間に姿も残さず消え去っていった。

すると闇慈は眠りこけている兵士達を無視し、慌ててサッサと何処かへ行こうとする。

闇慈「やれやれ、ワシなんかもう引退の年なのに・・・こんな所、軍隊の連中に見つかったら「スカウト」されてしまうでの・・・」

魔法の杖を歩く補助に使用する闇慈だが・・・意外に元気に森の中へと消えていった・・・。

ミンク「・・・・・・・」

高速で飛びながら、ドルロレ国境を越えようとしているミンクがボソッと呟く。

ミンク「俺の事を「民間最強」だとか言う奴がいたが・・・間違いなく「民間最強」はあのジジイだってーの・・・。」

世界は広い・・・。

以前、対峙した時の闇慈の実力に怯えた経験を思い返して、苦笑いをしながらまだまだ空を飛ぶ。


・・・・・・・・・・・・・


どのくらい、空を飛んだのだろうか?

すでにドルロレの国境は越えているのだが・・・城はまだ見えてこない。


ミンク「な、なんだありゃぁ!?」

左前方十キロメートルの距離で大きな「光の柱」を目撃するミンク!!

その「光の柱」はあまりに凄まじい発光量で、エネルギー含有量も並ではない!

エネルギー波に煽られて、空中で体勢を崩すミンク。

たまらずに「低空飛行」になる!

「光の柱」は次第に力を弱めていき、一分もしない内に何事もなかったように消えていった。

ミンク「ぐぐぐ・・・な、なんなんだ!?今の光は??」

あまりに不可解な「光の柱」に汗を垂らすミンク。

気になる気持ちを抑えてドルロレへと向かっていった。

・・・・・・・・

数十分もすると黒雲に包まれたドルロレ城が見えてくる。

ドルロレの城下町はイデアとは違って「戦火」に見舞われてはいない。

石畳の美しい町並みが広がり、民家も新興国のイデアよりも丈夫に造られている物が多い。

公園などの設備も行き届き、見るからに恵まれた国である。

しかし、何故かドルロレの国の人々は「生気」を失い、兵士や一般人を含めてみんなが倒れ込んでいる。

オドロオドロしい雰囲気に巻き込まれたその「呪われたように見える国」は「謎の黒い黒雲」に包まれていた。

ミンク「オ、オカシイ!町の人が全員倒れているなんて・・・こんな現象・・・普通じゃあり得ないだろう!?」

ミンクは青ざめて辺りを伺うがすぐさま、何が原因かを理解する。

黒く蠢く黒雲・・・それは黒雲ではない。


パリ・・・パリ・・パリパリ・・・・

ビリ・・ビリビリ・・・・ビリビリビリ・・・・


目の前の黒い物体から不快なノイズ音が聞こえてくる。

そのノイズ音は電力を帯び、雷雲と変わらないエネルギーを持っている。

その正体を「家にあった本」で読んだ事のあるミンクが言い当てる!!

ミンク「ス、スパークスぺクターだッ!!」

スパークスペクターとは電気エネルギーを蓄積できる「魔物や人間のエネルギー体」、つまり亡霊である。

一体の大きさは一メートル角ぐらいなのだが10000を超えるスパークスペクターが一斉に集まっている。

国一つを包み込む程のスパークスペクターの群れが電気エネルギーを放つ為に空中に集まっていたのだ。

自らの意志で動き回るスパークスペクターの運動エネルギーと蓄積する電気エネルギーが反応して「磁界エネルギー」までも発生させている。

これらのエネルギーが人間に影響を及ぼしているのであろう。

町の・・・いや、国中の人々が力なく倒れ込んでいた。

ミンクは眉をしかめてスパークスペクターを見つめているが「疑問」を感じているようだ。

ミンク「おかしい!こいつらは「意志」はあるが、ここまで集団では行動しない・・・。それにあれだけ集団で集まって電撃を出したらスパークスペクター自身が吹き飛んでしまう筈ッ!!」

目の前の異様な光景に打つ手を考えるミンクだが、スパークスペクターは待ってはくれない。

スパークスペクター達が充電しようとしているそのエネルギー量はドルロレ城はおろか、半径三キロメートルは消し飛ばしてしまう程のエネルギー!!

スパークスペクター「キシャーーーーーーーッ!!!!!」

あまりにも規模が大きく、最悪の状況にミンクは鼓動を激しくさせて、汗を垂らす。

しかし、スパークスペクターはまだエネルギーを蓄積させているらしく放射までには時間があるようだ。

ミンク「あ、あんなエネルギーが放射されたら・・・こ、この国は終わりだ・・・。ヤラれる前に・・・ヤッてやる!!!」


ミンクの手に大量の汗が滲み出てくるが、歯を食いしばり大きく深呼吸すると精神を集中させながら「魔法の詠唱」を始める。その詠唱は聞きなれない古代の言葉での詠唱・・・。

ミンク「リターラ(美しき)・シューケル・アス・ヴァティス(母なる地球に求める)・コアールダス・テーリュ(闇の力に浸食され)・アンク・シンフェスーヴァ・アリス(魔に呑まれつつある大地)・フォ・シューケル・クレス・ティアーダ・ヴァティス!!(母のその涙で浄化を求める!!)」

ミンクは両手を大地につけて、スパークスペクターが雷撃を放出する前に迎撃する。

ミンク「古代、水属性魔法ッ!!アーシーズッ!!ドロップッ!!!」

ミンクの魔法は大地に大きな水溜りを作っていく。その水溜りは国一面を覆うほどの水溜り・・・大地が脈打ち、悲しんでいるかの様にも感じる。溢れていく水はまるで大地の流す涙の様だ。その「大地の涙」は意思を持つかの様に高速で移動して一点に集中していく。ミンクのいる場所に、大地より溢れた水が集まってきたのだ!!

集まった「大地の涙」はあまりに巨大な水玉となり、ミンクの頭上でプカプカと浮かび続ける。その水玉の総量は100万リットルに相当する。

ミンク「頼む、後はやつらごと空へ飛ばしてくれーーーーーーッ!!」

ミンクが大声を上げて両手をスパークスペクターに向けて突き出すと「大地の涙」がスパークスペクターに向かって飛んでいく。

しかし、スパークスペクター達もエネルギーの充填が完了したようだ。ミンクの魔法などまったく気にせず、10000を超えるスパークスペクターが一斉に雷撃を放出する!!スパークスペクター達はミンクのいう通りそのエネルギーの為に消滅してしまうが雷撃が消えることは無い!!その威力は国一つを滅ぼすには十分の破壊力を秘めている。


ズバーンッ!!!

「大地の涙」に直撃する光の柱!!「大地の涙」はスパークスペクターの放った電撃を完全に吸収する。しかし、最悪の状態に陥ろうとしていた!!

ミンク「ぐ・・・ぐぐぐ・・・・ま、魔力が・・・足りない?」

ミンクの魔力不足のせいで、天へと上ろうとしていた「大地の涙」が地面へとゆっくり落ちてきたのだ!!

このままでは電気エネルギーを帯びた大洪水が発生してしまう!!

ミンク「く、くそっ!!何とかッ・・・ならないのかッ!?」

全身からダラダラと汗を流し、渾身の力を振り絞るミンク。あまりにもキツく堪らずに下を向く。

ミンク「!?」

その時、左のポケットが強く青色に輝いている事に目を留める!その青い光はミンクがかつて「闇慈」より譲り受けたサファイアから放たれている。

ミンク「ジ、ジジイ・・・有効に使えって・・・言ってたよな?」

ミンクは鬼気迫る表情で上げていた右手を左のポケットに突っ込み、サファイアを取り出すとそれを「電撃を帯びた大地の涙」へと勢い良く放り投げる。

「大地の涙」は「ミンクのサファイア」を内部へと受け入れると中央へと移動させていく。

サファイアを核としてどんどんエネルギーを増幅させていくと勢い良く天へと昇っていったのだ。

ミンク「・・・ハァ・・・なんだってんだ?ドルロレが魔物に襲われているって・・・?」

最悪の事態を退けた事で地面にへたり込むミンク。



真相が定かにならないまま、ミンクはヨタリと杖を宙に浮かべると目の前に見えつつあるドルロレ城の最上階、「国王の間」を目指していった。

・・・・・・

ミンク「!!」

杖に乗り、勢い良く城内に入り込むミンクだが思いも寄らなかった光景を目の当たりにする。

城内は兵士の死体で満ち溢れていたのだ。その死体には「動物の爪の後」や「食い千切られた後」がある。

人間同士の戦いで付いたものではない事が人目で理解できる。

城内を張り巡らせている赤い絨毯。赤いレンガの壁。赤い階段。しかしそれは赤い絨毯でも塗った物でもない・・・。

赤く見えるすべてが人間の・・・兵士達の血であった。

その現状はイデアよりもずっと悲惨なものである。

ミンクは杖の上から倒れている兵士全員に大声で問いかける。

ミンク「おいッ!お前らッ!!大丈夫か!?」

兵士全員「・・・・・・・」

倒れている者は誰一人、ミンクの問いに答えない。どれだけの時間がたっているのかは解らないがどうやらミンクがここに来る前は・・・絵にも描けない地獄だったらしい。

ミンクは歯を食いしばり「国王の間」へと急いだ。

赤い階段を飛んで上がり・・・赤い廊下を抜けていく。

二メートルはあろう大きな扉を勢い良くあけるとそこにはドルロレ国王の姿があった。

ミンク「し、縛られているだと??」

ドルロレ国王「ムググ・・フグググ・・・・・!!!」

猿轡をされ、玉座に縛りつけられている国王はミンクに気付くと足をバタバタとバタつかせる。

どうやら国王は生きているようだ。

ミンクは国王を縛っている縄を魔法で切り取り、猿轡を外す。

ドルロレ国王「す、すまぬ!!お主、名は?」

ミンク「俺はミンク!この状況はどういうことだ?イデアへ戦争を仕掛けたドルロレがイデアよりも悲惨な状況じゃないか!?」

怒鳴るように国王に問いただすとドルロレ国王は涙を流してこれまでの経緯をミンクに説明する。

ドルロレ国王「我がドルロレの高官「フラーク」の陰謀だ。「フラーク」は千を超える魔物を操り、我がドルロレ兵や罪の無い民を殺した。更にはイデアより拉致した姫君、アカリア姫までもが殺されるという事態に・・・アヴィディダという「軍事国家」を立ち上げて死に満ちたドルロレとイデアを吸収すると言っていたが・・・私が不甲斐ないばかりに・・・こんな事になってしまった・・・。」

ドルロレ国王の説明で少しずつ明らかになってくる。

イデアのアーク大臣、レヴォルト騎士長、ウォルトの裏切りによりイデアは窮地に陥っていたがドルロレも又、フラークの陰謀で窮地に陥っていた。

イデア、ドルロレの双方で謀反が起き、それぞれ真実を掴めないまま戦争に至ってしまったのだ。


ミンクは眉をしかめながら「和平の書」を懐から取り出すとドルロレ国王にイデアの現状を説明する。

ドルロレ国王はミンクから説明を受けると肩を大きく震わせ、涙を零しながら自身の不足を悔いる。

ドルロレ国王「ぐぐぐ・・・我らはイデアが侵攻してきたと聞いていたが・・・なんと浅はかだったのだ。」

ドルロレ国王は血が滲み出る程手を力強く握り締め、「テラス」へ移動していく。

スパークスペクターのエネルギーによって気を失っていた民衆が次々と起き上がっていくのが一望できるそのテラス。

民衆に聞こえるように国王は大きな声で国民に言い渡した。

ドルロレ国王「今を持って「イデア」との戦争を終結とする!民よ、我、ドルロレが国王レイヴェルトの声を聞け!!繰り返す!!今を持って「イデア」との戦争を終結とする!」

戦争を拒む強い意思を秘めた国王の声が国中に響き渡る・・・。

涙を流しながら響かせる国王の声は悲しみに溢れ、全ての国民に悲哀を伝えていく。

「誰もが望まなかった戦争」はドルロレ国王の和平の声で終わりを告げる。

これをもってイデア、ドルロレの戦争は終結、和平が成り立った。

ミンクの「最初で最後の任務」は成功に終わり、イデアへと舞い戻る。

戦争終結を知った各地からは戦火も急速に消えていった。


・・・・・・



たった四日間とはいえ「剣士」「魔法使い」更には「魔物」が多く乱入して繰り広げられた戦争は民衆や国に大きな打撃を与えた事は言うまでも無い。

死んでしまった者たちは生き返ることは無く、教会の墓地に無数の石碑が建てられる。

悲しみにくれるイデア、ドルロレの両国民。

それぞれがそれぞれの過ちを心に刻み、二度とこの様な事の無い様にと戦争が終結した即日「貴族高官制度」を廃止する。

「有能であり、心優しく信頼できる人物」を高官として、絶対なる正義を掲げる国家を制定する様にドルロレの国王は努めた。

「隣国、ティモーレ」を仲介役に「三国共通王宮警護団ACE’s」も緊急事項で創立されるがそれはこの一年後のことである。


第9章「別れ・・・」

戦争が終結して一ヶ月が経とうとしていた。

ドルロレとイデアの戦争の折、「両国で謀反を起こした高官や貴族」達はイデアやドルロレ、ティモーレの何処にも姿を見せることは無い。

どこに行ったか、全く行方が知れない状態になっていたのだ。

ウォルトの言っていた「アヴィディダ」という国家が創立されることも無く、また「魔物」も以前に比べて激減している。

ウォルト達が言っていたこととは裏腹に世界は「平和」になろうとしていた。

イデア城の復旧も終え、町も少しずつだが以前の活気を取り戻していた。

イデア城のテラスの上、星印が10個と大きな勲章の付いた軍服に身を包み、ミンクが「イデアの城下町」を眺めている。

ミンク「これでイデア城の周辺は復旧完了・・・。」

優しい笑顔を浮かべて肘を突いているミンクに後ろから声をかける魔法使いの女の子。

手に「クッキー」を持って笑顔でミンクに話しかけてきた。

魔法使いの女の子「あ、あの・・・ミンク様!良かったらこれ・・・食べて貰えませんか??」

恥ずかしそうに下を向きながらミンクにクッキーを差し出すとミンクは笑いながらクッキーを一枚取り上げる。

パクッと口にそれを頬張ると嬉しそうに魔法使いの女の子に歓声を上げる。

ミンク「はっはっは、美味しいよ!ありがとうね。(かすみの殺人的な料理とは大違いだ・・・。)」

たまにかすみが作ってくる「かすみのクッキー」と心の中で比較するが・・・あまりにもの違いに涙を零す。

魔法使いの女の子「そ、そんな!こちらこそ有難う御座います!食べて頂いて!!」

嬉しそうにテラスを駆け出していく魔法使いの女の子。

ミンクは軍に属するようになってから仲の良い人々が増えている。

それは「男女」問わず、剣士の男にも魔法使いの女にも言える事。

ミンク、どうやら「祖母の遺言、人に好かれよ」という「答え」を見つけ出したようだ。


昔、敵意を剥き出しにしていた民間の人間も今やミンクを「魔人」と呼ぶ者はいない。


ミンクは懐から「退任届」を取り出すとリーシュの部屋へと向かっていった。

ミンク「よし、リーシュにコイツを渡して、この城を離れるか・・・。ここでできる事は終わったしな・・・。」

イデアの復旧を機に城を後にするミンク。

ミンクは国を出て、他国の街へと移り住む覚悟を秘めていた。

数時間後、懸命に引き止めるリーシュを無視して「胸の勲章」と「退任状」を置いてきた。

更衣室で「そこそこ上質の魔法衣」に着替えて、誰にも別れを言うことなくイデアを去っていこうとする。

樫の杖をパッと宙に浮かべるミンクは城の「ある部屋の窓」を見つめ上げる。

胸に今までのかすみとの思い出が過ぎって行く。

万感の思いを込めて優しい笑顔を浮かべると、ミンクはかすみに何も言わず、イデアを離れる事に謝罪する。

ミンク「かすみ・・・ゴメンナ・・・。」

かすみ「何言ってるの?ミンク?」

ミンク「ぐぉ!?か、かすみッ!?なんで背後にッ??」

かすみの声に驚いて振り返るミンク。しかし、かすみのその姿に又も驚く。

ミンク「な、なんで「普通の服」を着てるんだッ?かすみッ!!軍服は!?」

かすみ「何よ!自分一人で軍隊勝手に辞めちゃってッ!リーシュ様には「ミンクが辞めたら私も辞める」って報告済みだったのよ?」

頬を膨らせて怒るかすみのその姿。それは白く美しい魔法衣である。

ミンク「かすみ・・・君は軍にいた方がいいよ・・・。俺の酔狂に付き合ったっていい事なんて何にも無い。」

かすみ「あなた一人じゃ「毎日のお米」にすら苦労しそうだから付いて行って上げる。ミンクは金銭感覚ゼロだもん!」

ピョンっとミンクの杖に飛び乗るかすみ、思いっきり抱きついて離れようとはしない・・・。

ミンクの背中に顔を埋めて一言呟くかすみ・・・。

かすみ「・・・・・・」

耳に聞こえないくらい小さな声がミンクの肌を通じていく・・・。

ミンク「・・・・・・・」

かすみの言葉が聞こえたのか?空に急上昇して、次の「自分を求める人たちの下」へと向かっていくミンクとかすみ。

ミンク「かすみ・・・ありがとう・・・。」

ミンクは困った様な表情をしてそういうが、心の中は温かさに満ちていた。


・・・・・・・・・・・・・・・

この後、ミンクとかすみは戦争で被害を受けた街の全てを巡り約2年間の間、諸国の復旧を救済・・・。

全ての街に活気が取り戻された事を確認した後、ミンクとかすみはささやかながら「結婚式」を行った。

リーシュ、レイナすら呼ばなかった「二人だけのささやかな結婚式」。

それは「軍との決別」を意味し、民間で生きていく二人の覚悟でもあったのだ。

結婚式から数日後、役所に会社創立の申請をミンクは提出しに行く。

会社の名前は「イデアツーリスト」。

闇に迷い、道に迷った人々に「光に包まれた道」を指し標し、助けられる様にとの願いを込められて名づけられたのだ。

この会社を創立したお陰で、数多の冒険を繰り返すことになる・・・。

また心優しい社員もたくさん増えていった・・・。



・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


第10章 「10年後」


青白い光に包まれ、おぞましい蜘蛛のいる不気味な部屋・・・。

溶解液を目前に控えてなお、かすみを見上げているミンク。

走馬灯がフッと消えて、優しいながらも満面の笑顔を浮かべて感謝する。

心の底から・・・

深く、深く・・・・感謝する・・・


ミンク「・・・へへへ・・・・・・」







『かすみと出会って10年たったが・・・本当にいろいろあった・・・』

『苦手だった料理・・・上手になったね・・・』

『君の作るものが今では一番の大好物だよ・・・』

『それにいつも俺の事を大事にしてくれたね・・・ありがとう・・・』

『君の笑顔が、いつも俺を優しい風に包んでくれた・・・』

『そんな顔しないでくれ、かすみ・・・』

『君に出会えたお陰で、俺は「人に好かれる為にどうすればいいのか」って・・・わかったんだ。』

『ババァに言われても理解できなかった・・・』

『時間が経っても理解できなかったのに・・・』

『行動に移しても全然ダメだったのに・・・』

『君が教えてくれたんだ・・・』

『「人に好かれる」って言う事は・・・つまり・・・』

『自分がまず「人を愛する」事だったんだね・・・』

『全ての人を愛する事ができて・・・』

『俺は初めて「人に好かれる」ことができた・・・』

『それは君が教えてくれた事・・・』

『君を愛して、君の愛するものを・・・俺も愛した・・・』

『本当に感謝してるよ・・・』

『俺の命はここで尽きるけど・・・』

『君に出会えて良かった・・・』

『最後に君を庇って死ねるなら・・・一番守りたい物を守って・・・死ねるなら本望だ・・・』

『・・・いや、違うかな?・・・俺は、君に出会った瞬間・・・君に全てを奪われたのかもしれない・・・』

『君の為なら・・・命すらも惜しくないと思うほどに・・・』

『・・・へへへ・・・・・・』

『どうだい?ババァ?俺にしちゃ最高の人生だっただろ?』

『何の色もなかった俺の人生に最高の彩を添えてくれたかすみに出会えたのは・・・あんたのお陰だ・・・ババァ・・・』

『本当に心から感謝してるよ・・・』

『あの世に行ったらこの世で出来なかった孝行をさせて貰うからな・・・』




・・・・・・・

ビチャーーーーーーッ!!!!!

地面すら溶かしてしまう溶解液がミンクを含め周囲一体に襲いかかる。

地面からは白い煙がモウモウとあがり、石すら溶かして全てを無に還していく。

かすみ「ミンクーッ!!イ、イヤ・・イヤァァーーーーーーッ!!!!ミンクーーッ!!!ミンクーーーッ!!」

あまりにも無慈悲な光景に涙を抑えきれないかすみは何度も、ミンクの名前を叫び続ける。

しかし、ミンクの声は聞こえてこない・・・。


かすみの心が絶望の中に落ちていこうとしたその時、

ミンクとは全く関係のない男の声が10メートル四方の青白い部屋に木霊する!!


????「ヤスノVッ!!ヤスノブレンドッ!!その2ッ!!」

かすみ「こ、この声はッ!!」

それは常日頃、ミンクが創立した会社、イデアツーリストに所属するあの男の叫び声!!

その剣士の正体は、イデアツーリストの青年、ヤスノVの物である。

ヤスノV「ヤスノブローーーックッ!!!」

青い鎧に青いマントを身に付けた剣士ヤスノVがミンクを庇うように青いマントで攻撃を防いでいたのだ!

ミンクは驚いたように大きな目を開けてヤスノVを見つめている!!

ヤスノV「こんな変な液体ッ!!お返しいたしますッ!!」

剣士、ヤスノVの青いマントは眩いばかりに青く輝き、マントに当たっていた溶解液を巨大クモに弾き返した!!

ビチャーーーッ!!!

巨大クモは無残にも自分の溶解液で溶けて死んでいった。

白い煙が立ち込めるその部屋・・・。

生き残ったミンクと剣士ヤスノVが含み笑いをしながら話を始める。

ミンク「あ、ありがとう・・・やすのぶくん・・・。ちょっと油断しちゃったよーーー・・・。」

ヤスノV「やだなぁ!剣を持って鎧を着けている時は「ヤスノV」って呼んで下さい!って言ってるじゃないですかー?」

親指を立て、芸能人でもないのに・・・歯をキラッと光らせるヤスノV。

勘の良い方であればもう気付いていらっしゃるであろうが「ヤスノV」の正体は過去、ミンクが助けた少年「やすのぶ」である。

イデアツーリストに偶然入社してきたのだが、正直実力はイマイチ・・・。

さらにどういう勘違いをしているのか理解できないが「正義の味方=変身必須」と思っているらしく「僅かな魔力の全てを変身に使用する」おかしな青年に成長してしまっていた。

魔力を封じるこの部屋では「魔力を使って戦わないヤスノV」は頼りになる存在になったようだ。

ヤスノVが活躍するという普段ありえないシチュエーションに苦笑いが止まらない。

ヤスノV「そうだ!かすみさんを助けないと・・・」

青白く光る部屋の奥にあった魔力封じの宝玉を叩き壊した後、ヤスノVはかすみの方を見上げると身軽にかすみの側へと飛び上がる。

ヤスノVの愛剣「ヤスノブレード」で蜘蛛の糸を丁寧に切り取るとミンクも後を追って飛び上がってきたようだ。

かすみ「ありがとう、やすのぶくん・・・本当に助かったわ・・・」

眉をしかめながらニコリと笑うかすみ。

ヤスノV「い、いえ・・・かすみさん・・・。」

ちなみにかすみもやすのぶの事をヤスノVとは呼ぼうとはしない。

悲しそうな顔をしながらもヤスノVはミンク、かすみににこやかに話しかける。

ヤスノV「魔力封じのトラップがあるこの場所はミンクさんやかすみさんには不向きな場所のようだし、後は俺に任せてくださいね!!」

首をコキコキと鳴らすとニヤリと笑いヤスノVは洞窟の奥の方へと走っていく。

洞窟の闇に消えるヤスノVを見送った後、ミンクがかすみの体を心配しながら話し掛ける・・・。

ミンク「あ、かすみ・・・大丈夫だったか・・・?」

バシッ!!!!

ミンク「ブッ!?」

かすみのビンタをモロに喰らい・・・顔を大きく逸らす。

バシッ・・・バキッ!!・・バキッ!!!

ミンク「ブッ!!ゴッ!!?」

かすみのビンタが「パンチ」に変わりミンクの顔面を襲う!

バキッ!!バキッ!!バキッ!!バキッ!!・・・バキッ!!!!

見事なまでのコンビネーションがミンクの顔面に決まるといい加減に頭にきたのか、大声を上げてかすみに怒鳴り上げる・・・。

ミンク「か、かすみッ!!いい加減にッ!!・・・」

かすみ「・・・・・・・」

かすみはミンクを睨みつけながらポロポロと涙を流している。

歯を食いしばりながらミンクの顔面に「回復魔法」をかけるとミンクの胸に顔を埋めて・・・かすれそうな声で言い放つ。

かすみ「「あの時」・・・あなたからずっと離れたくないって・・・言ったじゃない・・・。」

悲しみに溢れたそのかすみの言葉が・・・城を二人で飛び立つ時を思い返させる。

ミンク「かすみ・・・」

ギュッとかすみの震える肩を抱きしめる。

・・・・・・・

ヤスノV「ギャーーーーーーッ!!!」

かすみ「きゃーーーーーーッ!!!」

ドンッ!!!

ヤスノVの声に驚いてミンクを思いっきり突き飛ばすかすみ。

後頭部を思いっきり壁で打ち付ける!!

ミンク「いでッ!!!」

闇の奥から聞こえてくる声が大きくなるに連れて地響きのような物を感じていく・・・。

それは大勢の足音・・・

ヤスノV「ミンクさんッ!!かすみさんッ!!魔物だらけ!!こんなの洒落にならないですーーーッ!!」

泣きながら走るヤスノVの背後には100近い魔物が追いかけてきている。

自称正義の味方、ヤスノV・・・どうやら手も足も出なかったようだ・・・。

ミンク「はぁ、初めて助けてもらったと思ったら・・・また俺が助けてやらないとダメなのか・・・?」

眉をしかめて頭をボリボリと掻くミンク・・・。



かすみ「あ、あらあら・・・やすのぶくんを助けてあげないと・・・」



二人はそれぞれ、魔法の杖をスッと上げるとそれぞれの得意とする「風の魔法」「雷の魔法」を使用する。






『 『 『 『 『 ドバーーーーーン!!!! 』 』 』 』 』







ヤスノV「は・・・ハァハァ・・・た、助かった・・・。」

汗を垂らして背後の魔物達から逃れるヤスノVがミンクとかすみに駆け寄っていく。

かすみ「だ、大丈夫?やすのぶくん?」

ミンク「まったく・・・こんな調子じゃ何時まで経っても・・・」

笑顔でヤスノVを嗜めようとするが直感が働く!!


ヤスノVとはまったく違う「質の高い闘気」!!


ミンク「デリャァーーーーーッ!!」

かすみ「 !? 」

ヤスノV「 チッ・・・ 」


バシュッ!!!!


かすみ「 !? 」

ミンクの放ったサンダースピアを手のひらで掻き消す!!

ミンク達を見つめるヤスノVの目が、ゆっくりと・・・悪意で満ちていく・・・。

かすみ「ま、まさか・・・やすのぶくんの偽者!?」

?????「くっくっく・・・やるではないか??この「虚無の城」に潜入し、未だに生きているその実力・・・。
更には私の変化を見破り、躊躇無く攻撃する選眼能力・・・。
「客」と認識するに相応しい・・・。」

ヤスノVとは違い、重い声が二人に届いてくる。

それはヤスノVとはまったく別人の声・・・。

ミンク「あぁ・・・やすのぶくんは「お前ほど質の良い闘気」を持ち合わせちゃいないからな・・・?」

かすみ「くっ!!ミンクの魔法を掻き消すその実力!!あなたがまさか・・・?特級賞金首ッ!?」


そう、2人がこの城に潜入した目的は「リグレット」の討伐である!!


それは10年前、ドルロレで多く人間を殺した「魔物の王」の一人・・・。

凶々しく洗練されたその「闘気に魔力」は人外の者でも上位に当たる!!!


ミンク「貴様・・・やすのぶくんをどうした??」

?????「ははは・・・あのお間抜けな坊やならば、今頃『出口の無い迷路』を彷徨っているだろう・・・。」

かすみ「じゃ、私たちが今まで迷っていたのは・・・貴方の魔力のせいって事??」

?????「くっくっく、その通りだよ。魔法使いのお嬢さん。」

ヤスノVの姿をした「王」は下卑た笑みを見せ、青いマントをバッとひるがえして身を隠す・・・。

そして、再度二人の前に姿を現すと既に「違う姿」へと変わっていた


その姿は青いマントとは対照的に深紅に染まった赤い法衣を身にまとい、

腕には人間の骨で作ったブレスレットをはめている・・・。

慟哭を身に纏ったその姿は正に「凶々しき王」の名が相応しい。

リグレット「くくく・・・久々の客人だ・・・。
この「リグレット」が貴様ら二人の相手を勤めてやろうではないか?」

ミンク「おまえから来てくれたのは好都合だ・・・。」

臨戦態勢に杖を構える。

かすみ「この魔力・・・コイツが「特級賞金首 No.23 『深紅の鏡 リグレット』」・・・。」

リグレット「いかにも・・・貴様らの白骨で作るアクセサリーは私をより完璧な王へと変える・・・。
我が糧になれる事を喜び、あの世へと行くが良い!!!」

『 『 ゴァーーーーーーッ!!』 』


リグレットが腕を大きく振るい、一瞬で二人を目掛けて業火の魔法を放った・・・。



筈だった・・・。

リグレット「な、なにッ!?」

業火が通り過ぎた先、二人の姿はそこには無く・・・あるのはただ、無数の白い羽・・・。

リグレットは背後に気配を感じるが既に手遅れ・・・。

ksかすみ「 貴方を倒せば終わりなら「体力、魔力」の温存は必要なしね・・・? 」

上質の法衣を脱いだかすみの姿は打って変わり「動きやすい軽量の装備」。

そして腕には「ゴッドハンド」と呼ばれる近距離戦闘用のグローブを付けている!!


かつて魔力を失い、ミンクの足手まといとなったかすみは10年の間に「近距離戦闘のエキスパート」にまで

成長していたのだ!!


そして、彼女が放つその神速の拳は「拳闘王」が使うものとまったく同じ!!!

ミンク「いけッ!!かすみッ!!!」


ksかすみ「ミリオニック・サンダァーーーーーッ!!!」



『 『 『 メギィッ!! 』 』 』



リグレット「 ピギィッ!? 」

背中から腎臓を目掛けたかすみの「必殺ブロー」がリグレットを襲う!!

キドニーブローを喰らった魔族の王から情けない程、格好の悪い悲鳴が上がる!!
(キドニーブロー : 背中から腎臓を目掛けて放つパンチ。公式では『反則のパンチ』です(;´▽`) )


ミンク「あ・・あわわ・・・?か、かすみ・・・?」

ミンクがksかすみの「微妙に悪者な殴り方」に青ざめて恐る恐る手を伸ばす。

しかしksかすみの連撃は止まらない!!!更に、リグレットの顔面を『ミリオニック・サンダー』が襲い掛かる!!

ksかすみ「よッくもミンクや私に「冷や汗」を掻かせてくれたわね〜〜〜〜!?」

リグレット「お、おの・・れ・・」

しかし、リグレットの視力は最初の一撃で既に機能を失っていた・・・。

ぶれる様に見えるksかすみのミリオニック・サンダーはもう・・・避けられない・・・・

リグレット「ヒ・・・・ヒィィーーーーーッ」


『 『 『 『 『 『 『 ドガーーーーン!!!!! 』 』 』 』 』 』 』


ksかすみ「どうよ!?この威力ッ!?」

ビシッとファイティングポーズを取るksかすみの前・・・。

無残に壁に埋まり込んで「壁画」となるリグレット・・・。

リグレット「・・・・」

凄い戦いになりそうな予感を醸し出しつつも無残にリグレットはそのまま・・・

眠る様に息を引き取っていった・・・。

ミンク「・・・・・・・・」

出番という出番をすべてksかすみに持って行かれて突き出していた手をただ・・・

スッと握るしかできないミンクであった。

・・・・・・・・・・・・・

ksかすみ「大丈夫?ミンク・・・?」

指をクルッと数度回すと上質の法衣がかすみを包み込む・・・。

ミンク「あ、あぁ・・っていうか・・・全然戦ってないしね・・・?」

かすみ「もう足手纏いにはならないからね・・・・・ミンク・・・?」

かすみの前に立つミンクは苦笑いを浮かべてそっと・・・かすみの髪を撫でる。



ミンク「・・・(今回は・・・なんか『ピエロ』っぽかったなぁ・・・死ぬ覚悟までしたのに・・・)」


かすみ「えっ・・・?なんか言った・・?ミンク・・・?」



ミンク「い・・・いや・・・・・何でもないよ・・・」



笑顔で微笑むかすみはミンクにとって常に眩しい・・・。


一番大事な、守りたい者は自分と同じ危険な場所にあるが・・・

かすみは離れようともせず、常に「ミンクの傍に居続ける為」に努力を続ける・・・。

かすみ「さ・・・やすのぶくんを回収してこんな城・・・早く離れましょう?」

ミンク「あぁ・・そうだね・・・。」

二人はこれから先も、ずっと離れる事は無い・・・。


ミンクの手に入れたたくさんのもの・・・それは何よりも尊く、何よりも暖かいものであった。






      『 風の魔女とイデアの魔人 修正Ver』   著者 :  YasunoV