題名 : サンタさんになったあの女性(ヒト)
いつだったか・・・
仲の良かった年上の女性がこんな話をしてくれた。
「私のおうちって『母子家庭』でね・・・」
夜の戸張が降りる頃・・・部屋に灯りをフッと付けた間無しに暗くなる話の予感・・・
外は雪でも降りそうなくらいに凍る様な気温。
煎れたばかりのお茶も冷めそうな寒い夜・・・
彼女は微笑を浮かべて話し始めた。
僕は「笑顔で話す暗い話」は嫌いではない・・・。
何故なら、彼女にとって暗い話を笑顔で話せるという事は『昔の話』だからである。だから、有る意味安心して聞く事が出来るのだ。
「いつもクリスマスになると悲しくなったんだ〜〜」
クリスマスになるまであと数週間・・・。
最近は青色のLEDの開発が進み、大きなモミの木や家のイルミネーションにたくさんの青い光が灯り始めている。
そんな街の風景が彼女の記憶を呼び起こしたのだろう。
「他の家の子の所には『サンタさん』が来てくれるのに、どうして家にはサンタさんが来てくれないんだろう・・・って・・・」
苦笑いにも似た彼女の表情に何と言っていいか・・・
気の利いた言葉が出てこない。
「お母さんと二人で暮らしてたから・・・私の家にはサンタさんは来ないんだって・・・小さいながらに思ったんだ〜〜。」
テーブルに置いてある少しぬるくなったお茶に手を伸ばすとそれを両手で包み込む様に持つ彼女・・・。
目を瞑ってそれを少し口に含んだ・・・。
「一度もサンタさんは来てくれなかったの?」
椅子に座り際、僕が聞く。
「うん・・・とっても悲しくって・・・「来て下さい」って何度も何度もお願いした・・・でもね〜〜〜来てくれなかったんだ・・・。」
そんな彼女の答に眼が熱くなる。
決して彼女のお母さんを責めるわけではないが、一度位は
サンタさんを連れてきてあげて欲しかった。
子供にとって、「サンタクロース」というのは、『夢の象徴』である。最も「存在する」と信じたいものの一つだろう。
「今年はサンタさん、来てくれたらいいね・・・。」
彼女の澄んだ眼を見て、少し悲しげにテーブルのお茶へ手を伸ばす。
しかし、彼女はコトッとテーブルにお茶を置くと今までの暗さを消し飛ばすかの様に満面の笑顔を向けてくれた。
「ふふふ・・・もういいんだ・・・」
「どうして?来て欲しいんでしょ・・・?サンタさん?」
「高校の終りの頃かな・・・?気が付いたの・・・。」
「気づいたって・・・?何に・・・?」
目を瞑って大きく息を吸う彼女の表情には笑顔が絶えない・・・。
彼女の出した答えは『単純』なものだった・・・。
『私がサンタさんになればいいんだって・・・ネ☆』
彼女が辛い中で出した・・・とっても優しく暖かい答・・・。
彼女は今でも、クリスマスになるとサンタクロースの赤い服に身を包み、大切な友人のおうちへと心のこもったプレゼントを配っている。
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我が親愛なるk.kさんへ
素晴らしいトナカイさんが隣に居てくれる事を信じて・・・
黒山 琴音(紅の氷 YasunoV)