題名:走れ!イデアツーリストのヤスノV
アリッサ「やめて!!おねがいよ・・・それを持って行かれたら妹が・・・」
悲痛な叫び声も空しく、赤い影が3つ・・・アリッサから遠退いて行く。
「あ、ああ・・・、どうしよう・・あれを持って行かれてしまったら妹の命が・・・」
大粒の涙を浮かべ、力無くへたり込むアリッサ。
しかし、その時一つの希望が頭をよぎる。
「そ、そうだわ!!イデアツーリストなら・・・、イデアツーリストの人に頼めば・・・」
そういうとアリッサは身支度も早々に家を飛び出して行った。
第1話 ヤスノV、登場 (アリッサ編)
イデアの中心部、草原の街道は田舎町ながらもたくさんの建物が立ち並ぶ。
病院、教会、銀行等、イデアの国民にとっては無くてはならない施設ばかりだ。
その銀行の隣の細道を抜けた所にイデアツーリストは存在する。
やすのぶ「はぁ・・・一人で店番なんて退屈でしょうがないや・・・」
明らかに殺風景な店の中にはやすのぶ以外の人は居ない。
店番を任されているやすのぶは肘をつきながら虚ろとしていた。
「だいたい、こんな田舎でツーリストなんてナンセンスだょ・・・」
一人ボソボソと文句を言っていると遠くから大きな足音が近づいてきた。
それは虚ろとしていたやすのぶにもはっきり聞こえる大きい足音だった。
「これは・・・お客かな?」
やすのぶの勘は当たりイデアツーリストのドアが景気良く開く・・・。
アリッサ「すいません、ここ・・・イデ・・アツーリストですよ・・ね??」
やすのぶ「えぇ・・・イデアツーリストです・・・って・・・」
よく見るとそのお客と思しき女の子は何処かで転んだらしく泥まみれになっていた。
息を切らせ、ブロンドの髪の毛もバサバサに跳ね返りおおよそ観光客でないことがやすのぶにはわかった。
やすのぶ「ひょっとして、観光ではなくて・・・「何でも屋、イデアツーリスト」に用事ですか?」
イデアツーリストは貧窮を極めていてツーリストだけでは経営が成り立っていない。
観光会社を経営しつつも何でも仕事をする・・・何でも屋稼業もしているのだ・・・。
やすのぶは息を切らせているアリッサにお茶とタオルをもってカウンターに座った。
アリッサ「えぇ・・・緊急の依頼で来たわ!!社長を呼んでもらえるかしら・・。」
軽く会釈をしてタオルで顔の泥を拭うアリッサ。
やすのぶ「実は今、おれ・・いや私以外の社員は居りませんで・・・」
敬語に慣れていないやすのぶは接客もいまいち・・・・。
アリッサは出されているお茶を一気に飲み干しやすのぶに激しく言い放った。
アリッサ「ちょっと!!緊急の用事で来たのにあなた以外居ないの!!?」
やすのぶ「あ・・あの、私で宜しかったら御用件をお伺いしますが・・」
顔に飛んでくるアリッサのつばを手で防ぎながらやすのぶは申し訳なさそうにする。
明らかに不満そうな顔をしたアリッサはしょうがないといった顔でやすのぶに依頼を切り出した。
アリッサ「牛乳をアッピーに盗まれたから取り戻して欲しいの・・・。」
アッピー・・・それは『人間に頭を囓られ、不味いの一言で捨てられた』リンゴのお化けである。
強さは一般の子供と同等位であるが基本的に『悪戯』程度の悪さしかしない。
寂しがり屋な所があると考えれるのだが・・・憎めない『あんちきしょう』である。
かばんからブラシを取り出しバサバサの髪を整えるアリッサ。
それを聞くと、やすのぶは笑顔で奥の部屋へ入っていった。
契約書でも持ってくるのだろうか?髪をブラッシングしながら待っていたアリッサは
戻ってきたやすのぶの手に牛乳があることに気付いた。
アリッサ「???何これ?一般商店の牛乳??」
やすのぶ「これ持って、さっさと帰れョ・・・」
笑顔で応対しているがやすのぶの顔は引きつっていた・・・。
アリッサ「ちょっと!!あたしが言ってるのは・・・」
やすのぶ「あんたオツム大丈夫ですか!?牛乳なんて安くで売ってるだろが!!
大体いくらで依頼するつもりだったんだ??」
アリッサ「15,000ドニアよ・・・」
しらっとした態度で髪を磨ぐアリッサ。
15,000ドニアといえばかなりの大金・・・やすのぶであれば「2〜3ヶ月」は食事に困る事のない金額である。
それを聞くとやすのぶは後ろを向いて頭を両手で抱えながら叫んだ。
やすのぶ「か・・か・・・、金持ちの道楽か〜〜〜〜〜!!!!!!」
アリッサ「えぇ〜〜〜〜〜???」
やすのぶ「俺が泥にまみれながらアッピー追いかけている時に!!!・・ほくそ笑みながら俺を・・・・」
やすのぶはしゃがみ込みながら半分泣いている・・・
アリッサ「ちょっと・・・あたしがそんなに金持ちに見える!?それに取り返して欲しいのは一般商店の牛乳じゃないわょ・・・」
アリッサは腕をブンブン振り回して訴えかけるが、やすのぶは「馬鹿にされている」と思いこみ
まったく聞く耳を持っていない。
やすのぶ「ええねん!!うちはどうせ貧乏やねん!!!」
なぜかどこかの方言で答えるやすのぶにいい加減に頭に来たのか?アリッサは大声でやすのぶに怒鳴った。
アリッサ「妹の命が掛かってるのよ!!!いい加減にして!!!!」
やすのぶ「!!!!?????」
大きく目を開きびっくりしたやすのぶはようやく我に返った・・・。
冷たいお茶を入れなおしてアリッサに再度、依頼内容を聞くやすのぶ。
アリッサ「アッピーに取られた牛乳は、うちの牧場の「も〜ツァルトの牛乳」よ
アッピーに5本取られたから取り返して欲しいの。」
やすのぶ「あの・・・「も〜ツァルト」って・・・・?」
アリッサ「うちの牛の名前よ。」
やすのぶ「あぁ・・・なるほど・・。で、妹さんの命って・・・?」
ひとつの疑問が解け、もうひとつの疑問をおそるおそる聞くやすのぶ。
アリッサ「実は1週間前にも〜ツァルトが死んじゃったのよ・・・そのショックで
妹は何にも食べてくれなくなったの・・。」
やすのぶ「あぁ・・・それはそれは・・・・」
アリッサ「唯一、口にしてくれているのがも〜ツァルトの牛乳だったのに
アッピーに取られてしまって・・・。このままじゃマリーが死んじゃうわ!!」
両手で顔を覆い泣き始めるアリッサ。
その姿を見てそっと肩をたたくやすのぶ。
やすのぶ「わかったよ・・・その依頼、引き受けさせてもらうョ」
アリッサ「えっ?でも・・今あなたしかいないって・・・」
やすのぶ「大丈夫!おれに任せてくれよ・・ナッ?」
笑顔でアリッサを元気付けようとするやすのぶ。だがイデアツーリストとしては
やすのぶが居なくなっては話にならない。一人も居なくなってしまうからだ。
しかし脳天気なやすのぶはそんなことは忘れてしまっていた・・・。
やすのぶ「どうした、早く行こうぜ?緊急だろ?牛乳は鮮度が命だしナ。」
アリッサ「ありがとう、やすのぶさん。」
やすのぶ「いや、ここからは変身するからヤスノVって呼んでもらうぜ・・・。」
アリッサ「へ・・変身???」
言うことに理解できず困惑するアリッサ。だが次の瞬間その意味がわかった。
やすのぶの付けていたブレスレットが光だしその姿を「戦士」に変えたのだ。
アリッサ「えッ!!え〜〜〜ッ??」
ヤスノV「どうだ?かっこいいだろ??俺の戦士装備だ。」
アリッサ「変身は確かにすごいけど・・・その装備・・・。」
ヤスノVが付けている装備はすべて一般の武器屋に売っている装備品だった。
それも極めて低級の戦士の物・・・。
剣は何の細工も施されていない「銅の剣」。
服も普通の「皮の服」っぽい・・・・。
唯一、マトモそうなのは・・・背中に羽織った「古びた青いマント」のみである・・・。
ヤスノV「さぁ、行こうぜ!アリッサ!!」
アリッサ「え・・、えぇ・・・」
少しの不安を感じながらヤスノVを、牛乳を取ったアッピーの居そうな森へ案内する。
アリッサの少しの不安は・・・アッピーと戦うヤスノVの姿を見て大きな不安に変わった。
ヤスノV「この!!この!!!倒れろ!!!アッピィィー!!!!」
アッピー「Gyuu!! gyuu!!!!」
アッピーすら一撃で倒せていない・・・。
アッピー「Gyuu!! gyuu!!!!」
ヤスノV「ぐっ・・・・やるな?アッピー!?」
ヤスノV「これで倒れろ!!!アッピィィーーッ!!!!!!」
アッピー「Gyuu〜〜〜〜〜〜ッ!! 」
アリッサ「(あぁぁ・・・・なんて事なの・・・?)」
汗をにじませてヤスノVを見守るアリッサ・・・。
低レベルな攻防を終え、ようやく牛乳を1本取り戻したヤスノVの姿がそこにあった。
アリッサ「あ、あの・・・大丈夫??なの???」
ヤスノV「へっ??何が???」
アリッサ「いや・・・だから・・戦い・・・」
ヤスノV「はっはっは、こんなの日常茶飯事さ!!!」
アリッサ「・・・・・・・・」
日常からこんな低レベルな戦いをしているらしい・・・。
いや、もしかしたらヤスノVは遊んでいただけかもしれない・・・。
そうアリッサは信じる事にした・・・。
何にしても、この調子なら何とかミッションはクリアできそうだ。
アリッサ「の、残り2匹が牛乳を4本持ってるのかしら・・・?」
ヤスノV「この近辺は間違いなさそうなんだけど・・・・」
ガサガサッ!!!!
後ろで何かが動く音がした。
二人が振り向くとアッピー2匹が大慌てで逃げようとしている。
ヤスノV「よしッ!!!見つけたゼ!!」
アリッサ「えぇ、急ぎましょう!!!」
二人はアッピーを森の奥へと追い込んだ。
ヤスノV「へへへ、これで逃げ場はないぞ!」
得意そうに笑うヤスノV。しかしアッピー2匹も笑っている・・・。
アリッサ「な、なんでこの子達が笑うの?」
ヤスノV「元々だろ・・・笑ってんのは・・・?」
その瞬間、背後のもう一つの影に先に気付いたのはアリッサだった。
アリッサ「きゃあ〜〜〜〜っツ!!!!!」
ヤスノV「どうしたアリッサ!!って、うわ〜〜〜〜〜ッ!!!」
背後に居たのはアッピーの2倍はあろう緑色のアッピーだった。
ビッグアッピーである。その手にはモーツァルトの牛乳が4本持たれていた。
アリッサ「大きい!!!すごい!!大きい!!!!」
初めて間近で見るビッグアッピーに恐るるもアリッサは興奮していた。
アリッサ「ヤスノV!!ビッグアッピーが牛乳を持っているわ・・・・」
振り向いたアリッサはその時、ヤスノVの体の震えに気が付いた。
ヤスノV「は・・・はは・は・・・」
アリッサ「ちょ、ちょっ・・・と・・・??」
ヤスノV「初めてだゼェ〜〜〜・・・こんな大物に出会うのはァ〜〜〜・・・・」
アリッサ「え〜〜〜〜〜〜〜??????」
ヤスノV「体の震えが・・・止まらねぇ・・・・」
アリッサ「ちょっと!!?ビッグアッピーってあたしの家の2階からでも見れるときあるよ!!!!??????」
アリッサの興奮はいきなり絶望に変わった。
ヤスノV「馬鹿!!間近で見るのとは訳が違うんだ!!俺だって安全な遠くからだったら見たことぐらいあるわぃ!!」
自慢にもならないことを自慢げに言うヤスノV・・・
アリッサ「ちょっと、んじゃさっきのは・・やっぱり・・・・」
アッピーとの戦いはヤスノVにとって「イッパイイッパイ」だったらしい・・・。
アッピーを追い詰めたはずが・・・逆に追い詰められていた。
ヤスノV「いくぜ!!ビッグアッピー!!!」
ビッグアッピーに勇敢に立ち向かうヤスノV。
しかし、ヤスノVの攻撃は空を切り、なかなか攻撃を当てることができない。
標的は大きくなっているがアッピーよりもすばやく、ヤスノVは翻弄されていた。
ヤスノV「ちきしょう!思っていたよりも・・ずっと速く・・・強い・・・!」
汗を拭い、眉をしかめるヤスノV・・・。
間合いを詰めようにも森の木が邪魔をし・・・ビッグアッピーは地形を利用して
すばやく飛び跳ねる・・・。
ビッグアッピー「GYUGYUUU・・・GYU!!」
余裕の顔つきでヤスノVに対して笑いを見せる・・・。
ヤスノV「(何とかして・・・動きを止めないと・・・・。)」
苦心するヤスノV・・・、苦し紛れにビッグアッピーの後ろを指差して叫びだした・・・。
ヤスノV「あぁ!?あれは何だ!!?」
ビッグアッピー「GYU!!??」
ヤスノVに釣られて後ろを振り向くビッグアッピー・・・。
ヤスノV「(ふっ・・・・今だァァ〜〜〜〜ッ!!!)」
姑息な手段で目を黄色く光らせて剣を振るうヤスノV・・・。
アリッサ「(あぁ・・・こ、この人、本当に・・・大丈夫なのかしら・・・・?)」
不安げに見ているアリッサの予感は的中する・・・。
ドガンッ!!!!
ビッグアッピーは後ろを振り向いたままで、ヤスノVに蹴りを喰らわせたのだ・・・。
ヤスノV「ぐぼぉぉ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!????」
ぐちゃ・・・・。
なまめかしく・・・ヤスノVが地面に倒れこむ音がする・・・・。
アリッサ「ぶっ・・・ぐ・・・・ぐぅぅ・・・・」
それを見ていたアリッサは・・・急速に悲しげな表情になっていく・・・。
追い詰めていたはずのアッピー・・・。
近所でもよくみるアッピー・・・。
子供もよく石を投げつけるアッピー・・・。
一般商店のおっさんがストレス解消にぶっ飛ばしていたアッピー・・・。
そのアッピーに今、金で雇った戦士を連れていながらも逆に追い詰められているのだ。
ヤスノV「く、くそぅ!!こうなったらしかたない、アリッサだけでも先に逃げ・・・。」
ヤスノVがアリッサに退却の指示を出そうとした。が、その時ヤスノVを見つめながら
涙を流していることに気付いた。
ヤスノV「(アリッサが泣いてる・・俺のために・・・??いや!妹のマリーの命が掛かっているんだ!!
俺がここであきらめたら・・・)」
そう思うとヤスノVは体を震わせながらも立ち上がり・・・剣をかっこよく?構えてこう言った。
ヤスノV「心配するな!こいつは俺がぶっ飛ばしてやる!!」
さわやかな笑顔のヤスノV。だがアリッサはこう思っていた。
アリッサ「(あぁ・・私はハズレを選んだんだわ・・・。この人は「イデアツーリスト
のハズレ」だったんだわ・・・)」
ビッグアッピーに致命傷を与えられずに体力だけが削られていく・・・。
業を煮やしたヤスノVは剣を空高く持ち上げた。
ヤスノV「いくぞ!ビッグアッピー!!ヤスノブレードから繰り出す俺の必殺技をくらえ!!」
アリッサ「えっ?必殺技???(あの剣の名前、ヤスノブレードっていうんだ?)」
ビッグアッピー「GYU??」
必殺技・・・それはヒーローには必要不可欠なものであるがこのヘッポコヒーローのヤスノVに
いったいどれほどの必殺技があるというのか・・・?
ヤスノVの剣に少しずつ・・・JP(闘気)が込められていく・・・。
ビッグアッピー「GYU?GYUUU!??」
一歩、二歩と後退りをするビッグアッピー・・・。
ヤスノV「食らえ!!ヤスノブーム!!!」
ビッグアッピーはヤスノVの気迫を恐れて、後ろを向いて逃げ出した。
ヤスノVがヤスノブレードを一気に振り下ろす。
ザシュッ!!!!
大きな斬撃が聞こえた瞬間・・・10mは離れていたビッグアッピーが倒れ、牛乳を地面に落とした。
アリッサ「エッ??まさか・・・」
ヤスノV「へへへ・・・・」
ヤスノVはアリッサの方を向いて笑っている。
アリッサ「まさか・・・衝撃波か何かを・・・?」
ビッグアッピーに向かって歩き出すヤスノV・・・。
しかし、よく見るとヤスノVはブレードを持っていない。
ヤスノV「ヤ、ヤスノブレードが「すっぽ抜けた」けど・・・結果オーライということで・・・」
アリッサ「なにが「ということで・・・」だ・・・。」
どうやら技が失敗して剣が飛んでいっただけらしい・・・。
ヘッポコにも程があるヤスノVであった・・・。
ヤスノV「(く・・随分ダメージを喰らってしまったか?)」
目眩を感じながらも、ビッグアッピーから剣を抜くヤスノV。
しかしその瞬間、満身創痍のヤスノVも倒れこんだ。
アリッサ「ちょ、ちょっと!!」
アッピー2匹「Gyu〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
その隙を見計らったかのように残りの2匹のアッピーがヤスノVに襲い掛かった。
ヤスノVは気絶しているようだ。
アリッサ「ヤスノVィ〜〜〜〜!!!!」
ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバッ!!!!!!!!!!!!!!
意味不明の斬撃が一瞬で無数に聞こえる・・・。
アリッサの心配は他所に地面に倒れこんだのは2匹のアッピーだった。
アリッサ「エッ??」
2匹のアッピーは一瞬にして剣でバラバラになったが・・・誰が斬ったかアリッサにはわからなかった。
傷だらけながらも・・・ヤスノVが立ち上がっている。
ヤスノV「あぁ・・・し、心配かけたね・・・もう・・・大丈夫だよ。」
ヤスノVの持っている剣にはアッピーを斬った後が確かに残っていたが・・・
ヤスノVが斬ったとは信じられなかった。
アリッサ「・・・・・・。」
ヤスノV「こ、これで牛乳5本だ・・・急いでマリーちゃんに届けてあげよう。」
アリッサ「・・・え、えぇ・・そうね・・・」
多少の疑問は残ったが妹も心配なため、急いで家路を辿った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
町外れの牧場、アリッサの家は大型の牧場である。
牛はもちろんの事、養鶏、養豚もしている・・・。
牛舎の隣には薄いピンクで色塗られた建物があり、そこが宿舎となっているようだ・・・。
その宿舎の2階にアリッサの妹が、椅子に力なく座っていた。
歳は8〜9歳といったところか?
アリッサ「マリー、起きて大丈夫なの?」
マリー「お姉ちゃん・・・」
やすのぶ「こんばんは、マリーちゃん。」
マリー「・・・・・」
最近の子供は挨拶もまともにできないらしい・・・
アリッサ「マリー、これ、も〜ツァルトの・・・」
マリー「いらない!!!」
牛乳を差し出したアリッサの手を弾く。
バシっ!!!!
ガチャ〜〜〜〜〜ンッ!!!!!!!
アリッサ「あぁ!?」
やすのぶ「なっ、なんでやねん!?」
なんとアリッサとやすのぶが、せっかく取ってきたのにも関わらず・・・牛乳は床一面に広がってしまった。
アリッサ「マリー・・・?」
涙目になりながら、マリーの方を向くアリッサ。
マリー「あたし、もう・・・死にたい・・も〜ツァルトいないもん・・」
アリッサ「!!」
マリーの言葉を聞くとアリッサは・・・何も言わず床にこぼれた牛乳を拭いていく。
やすのぶ「・・・・・・」
アリッサの顔は見えなかったが、床に溢れきった牛乳の上に大粒の雫が2滴、3滴と
落ちて行くのをやすのぶは見逃さない・・・。
マリー「もうお姉ちゃんも知らない人も出てってよ!!!」
マリーは二人を怒鳴りつけるが、やすのぶはゆっくりとマリーに近づいて行く。
やすのぶ「この牛乳はね・・・魔物に盗まれたのをアリッサが命がけで取り戻してきたものなんだよ・・・」
マリー「えっ…?」
事情を知らず大きく目を開け、やすのぶの目を見つめるマリー。
やすのぶ「うちの会社へ来た時も・・・泥にまみれていて・・・君の為に一生懸命だった・・・」
マリー「・・・・・・」
やすのぶ「マリーは、本当にも〜ツァルトが大好きなんだね。」
やすのぶの言葉を聞いて息を大きく吸い・・・目を瞑りながら思いっきり怒鳴りつける・・・。
マリー「当然よ!!大事な・・・大事な家族だったんだから!!!」
両手を強く握り締め・・・怒鳴った後、床を見つめるマリー・・・。
心底、「も〜ツァルトの死」が悲しかった事がわかる・・・。
すると、やすのぶは悲しそうにアリッサのほうを向きながら・・・マリーに答える・・・。
やすのぶ「そうだね・・・大事な・・かけがえの無い・・・家族だもんね・・・。」
マリー「・・・・・・・・・」
マリー「・・・・・・・・・!!!!」
マリーが「やすのぶの言葉の意味」に気づく・・・。
床に溢れた牛乳を拭き終え、俯いているアリッサ・・・。その、あまりに力なく俯く姉の姿に
肩が少しずつ・・・震えていく・・・。
やすのぶ「・・・・・・・・」
そっとマリーの肩にやすのぶが手をのせる・・・。
やすのぶ「もう・・・わかるよね・・・アリッサの今の気持ちが・・・」
マリー「・・・・・・・・」
やすのぶ「アリッサにとって、マリーも「大切な家族」なんだよ?」
マリー「・・う・・ううぅ・・・・・・・」
やすのぶの目を見れず、下を向くマリー。しかしすぐにアリッサの方を向いたマリーの目は
ウサギのような赤い目になっていた。
マリー「・・・・ご・ごめんなざい・・・お・おねぇぢ・ゃん・っひっっく・・ううぅ・・・」
アリッサ「マリー、いいの・・・いいのよ・・・」
美しい姉妹愛を見れたやすのぶは自分の兄のことを思い出していた。
大切なたった一人の兄のことを・・・
やすのぶ「・・・・・・・・・。」
・・・・・・・・・・・・
アリッサ「本当にありがとう。やすのぶさん・・・」
やすのぶ「へへへ、どういたしまして。」
アリッサの家の前、15,000ドニアを持ってホクホク顔のやすのぶ。
アリッサ「でも、あなたに依頼して本当に良かったわ。」
やすのぶ「頼り甲斐があったからか??」
アリッサ「アッピー相手にあれだけ苦戦してくれたから・・・」
やすのぶ「ど、どう言う意味やねんッ!!!」
悔しそうにアリッサに「どこかの方言」で怒鳴りつけるやすのぶ・・・しかしアリッサはしらっと言った。
アリッサ「あなたの社長だったら2分も掛からなかったはずよ・・・この依頼・・・」
やすのぶ「・・・ぐぐっ・・・・・・」
ぐうの音もでないやすのぶ。しかし続けてアリッサはこう言った。
アリッサ「あの牛乳をあれだけ苦労して取り戻したからこそマリーの心は癒されたと思うし、
あなたじゃなかったらマリーはまだ「も〜ツァルトの牛乳」しか飲めなかったと思
うの。」
屈託の無い笑顔でやすのぶに笑いかけるアリッサ。
やすのぶ「そっか・・・まぁ、そういうことなら・・・いいかな・・・?」
弱さを肯定して良くないに決まっているがやすのぶは納得していた。
アリッサ「でも・・・最後はすごかったね、アッピー2匹。」
ヤスノV「???なんの話??」
アリッサ「えっ??だから・・・」
ヤスノV「・・・??」
記憶が飛んでいるのかやすのぶにいくらその時の話をしても通じることは無かった。
アリッサ「・・・・まぁ、いっか・・・・・・」
疑問が最後まで残っていたアリッサだったが疲れていたのか、
しつこく聞くことはしなかった。
ミッション開始は昼前だったがすっかり夕暮れになり、月が夜空に顔を出している。
アリッサ「これ、持って帰って・・・」
苦労して取り戻したモーツァルトの牛乳。1本こぼれて残った4本の内、2本が袋に入っていた。
やすのぶ「いいのか?最後の牛乳だろ?」
アリッサ「2本有れば私達は十分よ。それにもう、必要ないしね。」
会社に来た時とは打って変わって、うれしそうな笑い顔。
そう、やすのぶにとって・・・ヤスノVにとって、この笑顔を見る時が一番の幸せを感じる瞬間・・・。
やすのぶ「ありがとう、アリッサ!!!」
うれしそうに笑いながら会社を目指して・・・帰るやすのぶ。
しかし、会社には一人残って待っている、ネクタイにスーツ姿の男の影があった。
???「ふ〜〜〜〜・・・・」
タバコの煙が部屋に広がっていく・・・。
デスクにゆったりと座り、タバコを口にくわえているが、
灰皿には15本のタバコの吸殻が山を作っている・・・。
部屋は少し霞がかかり・・・連続してタバコを吸っている事がわかる・・・。
その表情は・・・少し不機嫌そうである・・・。
おけな「遅い・・・っていうか・・・・何やってるんだ?やすのぶくんは・・・?」
タバコを吸い、少し不機嫌そうな表情の男、「おけな」はイデアツーリストの社長である。
普段は物腰が低く、とても優しい人格の持ち主である・・・。
武器、鎧などの装備は普段は一切着けず、常にスーツ姿で「観光の営業活動」に精を出している・・・。
会計処理、経費の計算など会社運営のすべてを一人でこなしているのだ(逆にそれが悩みでもある)・・・。
イデアでも能力の高い「戦士」であるらしいがその「戦闘着姿」を見たものは数少ない・・・。
「戦闘」と「素性」に関しての情報は一切が「謎」の人物である・・・。
バタバタバタバタ・・・・。
おけな「・・・・・・・帰ってきたか・・・・。」
タバコの火をくわえて腕を組み、目を閉じている社長、おけな・・・。
バン!
景気よく「イデアツーリスト」のドアが開く・・・。
やすのぶ「ただいま!!おけなさん!!!」
おけな「よぉ、やすのぶ君・・・」
大切なことをすっかり忘れて、にこにこ笑っているやすのぶ・・・。
当然思いっきり怒られた事は言うまでも無い。
精一杯今日あった出来事を言い訳にしているやすのぶがそこにいた。
シュボ・・・・
再度、タバコに火をつける・・・。
おけな「・・・んで、牛乳取り戻すのに半日も掛かった訳かい?」
やすのぶ「・・・すんません。」
たばこを吸いながら呆れた目でやすのぶを見る。
すぐさま、やすのぶを指差してこう言った・・・。
おけな「やすのぶ君、報酬を出せ!!没収だァ〜〜ッ!!!!」
やすのぶ「・・・・・・うぅぅ・・・」
本来報酬は担当社員に5割入るシステムだったがやすのぶは今回、報酬が無いらしい。
当然である。
やすのぶ「どうぞ・・・これで全部です、お代官様。」
社長席のデスクの上に牛乳2本と14,500ドニアが置かれる。
おけな「・・・・・・」
やすのぶ「・・・ピ〜〜〜ピ〜・・・・・・」
白々しくも・・・社長に目を背けて口笛を吹くやすのぶ・・・。
おけな「やすのぶくん・・・。」
やすのぶ「・・・は・・・はい・・・」
おけな「・・・・・・」
やすのぶ「・・・・・・・・・」
おけな「ジャンプしてみろ・・・」
やすのぶ「・・・・・・・・・」
ジャリン・・・ジャリン・・・・・・
おけな「そんだけポケットに「ドニア」入れててバレないと思ったのか・・・?」
やすのぶ「で、ですよねぇ・・・・・・」
小学生が高校生にかつあげされているような光景だった。
一発殴られて素直に残りのお金を差し出すやすのぶ。
おけな「・・しかし、まぁ・・・良い仕事をしたな、やすのぶくん」
やすのぶ「・・・む、無報酬でしたけどね・・・・・うぅぅ・・・」
おけな「はっはっは・・・この牛乳は報酬でやるから、また明日から頑張ろうぜ、ナッ!!」
慰めに笑いながら牛乳を渡されるやすのぶ。
二人は牛乳の蓋を開け一気に飲み干した。
おけな「おぉ!!こ、これは「も〜ツァルトの牛乳」じゃないか!!?」
牛乳を飲み干した社長おけなが驚いてやすのぶに聞く。
やすのぶ「ぷはぁ・・そうですけど、これマジでうまいですね!!!」
おけな「そりゃそうさ、これは王宮御用達の高級牛乳だ!」
やすのぶ「えっ・・・?」
おけな「普通に買ったら2,000ドニアはするゾ。」
・・ゴトッ・・・・・・
床の上に空の牛乳瓶を落とし呆然とするやすのぶ。
やすのぶ「パ、パンが3斤も買えるんですか??」
おけな「あぁ、やすのぶくんだったら10日は食事に困らないな・・・」
それを聞くと慌ててやすのぶはトイレに駆け込もうとした。
おけな「どうしたんだ?やすのぶくん??」
やすのぶ「今吐き出せば、間に合うかもしれない!!!」
おけな「・・・間にあわね〜よ・・・・・・」
社長おけなの冷静な突っ込みがやすのぶの心を深くエグった・・・。
やすのぶ「(ToT) ・・・・・・・」
やすのぶ「(TдT)うえぇぇぇ〜〜〜〜〜〜・・・」
余談であるがアリッサの牧場は後に「も〜ゼの牛乳」で再度、一旗上げる事になる。
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報告書
氏名 : やすのぶ
ヒーロー名 : ヤスノV
今回の報酬 : 牛乳1本
月賦 : 10,000ドニア(予定)
遂行可能ミッションレベル : E(最低ランク)
査定評価
イデアツーリスト内ランク 最下位
勤務期間 1週間 (継続契約中)
査定員 百絵
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一人、寂しくアパートに帰ったやすのぶ・・・。
部屋に明かりをつけて・・・プラスチックケースの中に敷き詰められた木屑に
霧吹きで水を吹きかけている・・・。
やすのぶ「はぁ〜〜〜・・・今日は散々だったなぁ・・・」
霧吹きをプラケースの横に置き、ため息をつきながらキッチンに向かう。
なべに水と塩を入れて火をつける・・・。
やすのぶの住んでいるアパートは四畳一間。
小さなキッチンが付いているだけで、トイレと風呂は共同である。
沸した塩水に、僅かばかりの米を入れて「お粥」を作ろうとしているようだ・・・。
やすのぶは悲しいほど・・・貧乏である・・・。
やすのぶ「ふぅ〜〜・・・でも、今日は始めての「ミッション」だったんだよなぁ・・・。」
キッチンを離れて、机に向かうやすのぶ・・・。
その小さな机の上に置いている写真立てには、行方不明のやすのぶの兄と・・・
憧れの「青いマントの男」が写っていた・・・・。
写真を見つめて昔を思い出し・・・そして、今日のミッションの手応えにフッと笑みをこぼす・・・。
やすのぶ「見ててくれよ・・・今日からが俺の「始まり」なんだ・・・。」
写真の二人に語りかけるやすのぶ・・・。
そう、ヤスノVのミッションは・・・まだまだ始まったばかりなのだ・・・。
題名:走れ!イデアツーリストのヤスノV
第1話 ヤスノV、登場 (アリッサ編) 〜〜〜END〜〜〜
紅の氷 イデア YasunoV著