題名 : 水都ナーレへ行こう!!
ボクが住む村には何もなかった…
何もないと言ってもあるにはあるんだよ?
山から伸びるきれいな小川
うっそうと地平線まで延びている森
藁吹きの家が50数件
鳥や牛達が奏でるのどかな鳴き声
痩せた土地に目一杯の収穫を期待された二毛作の広大な畑
やっとの思いで収穫する作物を狙って草むらに隠れる…
悪戯程度の悪さしかしないリンゴの魔物、アッピー
野菜を持って逃げるアッピーを追いかける大人にそれを見て笑う子供達
想像できるだろうか、みんなは?
村民200人にも満たないボクの村、カリノリード。
何もない…何もないんだ、ボクにとっては…
希望も…
夢も…
未来もない…
そんな場所で生きる大人達を心の中で少しばかり軽蔑している…
足りない……
足りないんだよ………
何より足りないと思うのは…
「お色気むんむんのお姉さん」だ
やっぱり一番欲しいのは…それッ!!!
思春期真っ只中のボクには…
この村は退屈すぎる。
チャーチル「あっ!ナリアってば!また寝そべってる!!」
少しおっとりした間抜けな高い声。
土手に体を預けて物思いにふけるボクに幼なじみの女の子、チャーチルが声を掛けてきた。
チャーチル「ねぇ!先生の所に行こうよ!今日はドルロレの歴史を教えてくれるって言ってたんだよ?
ナリアは「ドルロレの首都、ナーレ」に興味があったでしょ?ねぇねぇ〜〜」
チャーチルの言うドルロレとは大陸において最大の軍事力を誇る軍事国家。
近年では戦争などは行わないが大陸中に生息する悪意ある魔物を駆除するため、
人間の先頭に立ち民間人の平和を守っている素晴らしい国だ。
その国の首都が清らかな水が豊富に、幸せの中…人々が住まう首都……ナーレ……
ボクが今いるこの村とは大違いの憧れに溢れる水の都…
ナリア「いいんだよ。ボクはドルロレの知識だけは先生よりも良く知っているからね?
それよりもいいのか?チャーチルは魔法を覚えてみんなの役に立つって言ってるのに
不良なボクと一緒にいて?」
と、言いながらスカートの中身をしっかりチェ〜〜ックッ!!
今日は白地に黄色い燕尾服を着たクマのプリントが施されている…
あぁ…やっぱり子供っぽいチャーチルはこの程度のものか…
ボクを全開にするには程遠いょ。
チャーチル「むぅ!今は私とナリアしかいないんだからいいでしょ!っていうか私はナリアの保護者みたいなものだからちゃんと
先生のところに連れて行く『ギム』があるのよ!」
ナリア「ふぅ、チャーチルが保護者ねぇ?ボクとは2ヶ月しか違わないのに保護者…?
どっちかっていうとボクのほうが保護者な感じがするんだけど?」
実際、ボクは14歳でチャーチルの年齢は15歳。
ほとんど同い年だけど、チャーチルは童顔な分だけ実年齢よりも幼く見える…
身長も140cm程度…見た目は12歳にも満たないようなかんじだ。
来ている服も白地ベースのブラウスにピンクのミニスカート…
パンツのセンスに関してはさっきも言ったとおり…
チョット前に誕生日を迎えてから、お姉さんぶっている。
迷惑なことこの上ないがそれも今日までの我慢だ。
チャーチル「なによッ!ナリアなんてこの間まで「オネショ」してたくせに!
布団の前で泣いてたくせに!」
ナリア「おま、お前何言ってんのッ!?それってすっっっごく昔のことだろうが?
もう10年ぐらい前の話だろ!!」
チャーチル「うるさいのよ!ちゃんとお姉さんの私の言うこと聞きなさいッ!
先生のところに行って勉強するのッ!!」
ナリア「何がお姉さんだよ!!クマのプリントパンツ履いてるような残念な子にお姉さんなんて言われたかないやッ!」
チャーチル「ななな…なんで私のスカートの中身を知ってるのよ!!この変態ィィッ!!」
ナリア「あぁ、もう!ボクは明日で誕生日なんだぞ?もうチャーチルと同い年だ!
それなのにお姉さんづらするなよッ!!」
チャーチル「ッ!!」
と、強い口調でチャーチルに怒鳴りあげると彼女は唇をかみ締めて涙を浮かべる。
ボクにとって退屈な全ての中で唯一「変化」をくれるチャーチルだが、最近はうまくいってない。
どうにもこうにもチャーチルは最近、口がうるさ過ぎて気が滅入って仕方がない。
チャーチル「ナリアのバカッ!!もう知らない!!」
と、やっとチャーチルの問答から解放されて安堵していると…
ナリア「 ッ!? 」
ビュンっ!!と風を切ってボクの目前に青い光がッ!?
チャーチル「ナリアの変態ッ!!バーカッ!!」
と、走りながらもボクに掌を向けて舌を出している。
ま、まさかアイツッ!!
ナリア「チャーチルっ!!今のは攻撃魔法「マジック・アロー」だろッ!!」
チャーチル「ふーんだ!!悔しかったら追いかけてきなさいよ!!魔法も使えない変態戦士くん☆」
と、彼女は走るスピードを上げて挑発を残していった。
ナリア「まったく…どうしてチャーチルはボクに構うんだ?放っておいてくれればいいのに…」
と、再度横になり空を見上げた…
何処までも続く青い空…
この空の向こうには憧れの水の都…ナーレがある…
うわさでしか聞いたことがないし、街の風景も旅人の描いた風景画でしか見たことがない。
村中の人間の中で先生を含め、たった2人しか行ったことがない。
そうだ…ボクが知りたいのは歴史じゃない…
自分の目で確かめて、その空気に触れたいんだ…
そしてできる事であれば…お色気むんむんのお姉さんにも触れてみたい…
ボクの憧れの全ては…
そうだ!水都、ナーレにあるんだ!!
……………
夜、ボクは結局先生の所へは行かずに自分の部屋に居た。
ガイチ「 兄ちゃん…寝ないの?」
8つ下の弟、ガイチが灯りを頼りに剣を磨くボクに話しかけるが眠たそうに目をこすり、身震いをする。
ナリア「あぁ、もうすぐ寝るつもりなんだけど母さんは寝てるのかい?」
ガイチ「 うん、さっき絵本を読んでくれてたけど母さんが先に寝ちゃった。で、父さんはお酒に酔って寝てる。」
ナリア「そうだったか。ガイチはおしっこにいきたいんだな?兄ちゃんが連れて行ってやろう。」
ガイチ「 ありがとう、兄ちゃん。」
と、暗闇の中トイレの前で待つこと数十秒…
ガイチがヨタヨタとボクのズボンに手を掛けて言った。
ガイチ「 ? 兄ちゃんどうして皮の鎧を身につけてるの?」
ナリア「あぁ、兄ちゃんも明日で15歳だろう?ちょっと気分を出そうと鎧を着たのさ。」
ガイチ「そっか〜…空想をおかずにしたコスプレじゃなくて良かった。兄ちゃん…誕生日おめでとう。」
ナリア「一言多いよ?まぁ…ありがとう。ガイチ…」
と、父さんと母さんの居る寝床へとガイチを連れて行き、ボクは自分の部屋へと戻った。
しかし、ボクの部屋は通過点でしかない。
さっきまで磨いていた「銅の剣」を腰に携え、行商人が売ってくれた「水薬、命の水」を10個。
旅の途中の食料としてパンを1斤とリンゴ3個が入っているリュックを背へと掛けた。
ナリア「ごめんね、父さん、母さん…それにガイチ。ボクはどうしても水都ナーレを自分の目で見てみたいんだ…」
ずっと前から練りに練ったプランを実行する時が来た。
15歳の誕生日になったら、「水都ナーレ」へ行くって…
何もない村で15年…想像しては「行けないのかな?」…「諦めないといけないのかな?」と思い続けた…
どうしても行ってみたかった憧れの土地。
この村からだと歩いていけば20日間近く掛かるとも言われるが、この衝動にはどうしても勝てなかった…
途中で連れ戻されることになるのだけは避けたい。
そんな思いでボクは書置きはおろか物音も残さずに家を出て行った…
月が煌々と光る深夜…ボクの一人旅が今始まる…
……………
村人「た、大変だ!!バーグさんとこのナリアが居なくなったらしいぞ!!」
バーグ「うわぁ!!ナリアッ!!ど、どこだ?どこに居る?」
ガイチ「あーーーん!!兄ちゃん!兄ちゃんが居なくなっちゃったょ〜〜〜」
チャーチル「お、おじさん?ナリアが居なくなったって本当?」
バーグ「ああ!昨日の夜までは確かに居たのに…今日は誕生日だから祝ってやろうと思っていたのに!!」
ガイチ「うわぁ〜〜〜ん!!コスプレって言ったから?コスプレって〜〜〜ッ!!?」
チャーチル「コ…ッ!? ド、ドコでそんな言葉覚えたの?ガイチッ!?」
村人「だ、大丈夫だバーグさん!村人総出で森や山を探してやる!!安心しろ!」
バーグ「す、すまねぇ!みんなッ!!」
チャーチル「……」
チャーチル「…(まさか…)」
……………
夜明けの朝日が東から昇る。
小鳥達のさえずりがようやく聞こえ始めたところでボクは急ぐ足取りを止めた。
平原を抜け、森の中に延びる道を歩くこと6時間程度。ここまでくれば村の人たちに追いつかれることもないだろう。
村へと延びていた小川のせせらぎなど聞こえることもない。
茂る草と林程度の木々…そして、細く延びる小道以外は何もない。
ボクは小道をそれて座りやすそうな場所を見つけてリュックから朝食のパンを取り出した。
ナリア「よし、焚き火の準備完了。」
パンは生で食べるよりも焼いた方が美味しい。これから水都ナーレに付くまでにはかなりの時間を要する。
焦っても仕方がないし、何より体力の温存は重要だ。
手持ちの食料は旅の途中で尽きる計算だけど、持ってきている地図の記憶では幸い川に差し掛かる。
魚を採って食料にすれば、十分にもつはずだ。
火打石で小さな火を灯せば暖も取れるし、路銀に2,500ドニアも持ってきている。
最悪の時は行商人に出会ったときに食料を売ってもらえば良いだけの話だから気楽な旅になるだろう。
と、安堵に息をついた瞬間!!
アッピー「gyuu〜〜〜〜〜ッ!!」
パンを焼く匂いに釣られて出てきたのか?りんごの魔物アッピーがボクに襲い掛かってきた!!
ナリア「 ! 」
アッピーにはたくさんの種類がいる。
大きな緑色のアッピーや金属の体を持つアッピー。
でも、ボクの目の前に現れたアッピーは
ナリア「赤いアッピー…一番弱いヤツか?」
三叉の槍でボクの焼くパンを奪おうと攻撃を仕掛けるがそれをサッと回避。
するとアッピーは焚き火の中に突っ込んで体中が火で包まれた。
焼いているパンを狙って自分が焼かれるなんてかなり間抜けなヤツだ。
アッピー「gyuっ!gyu〜〜〜〜ッ!!!」
アッピーの言葉はわからないが体に付いた火を懸命に払う。
だけどボクはその姿に同情する気はない。
弱いとはいえ、ボクに槍を向けた以上は他の人を襲うとも限らないからね。
この場で殺してしまうのが賢明な判断だろう。
と、ボクは腰に携えていた銅の剣を抜いてアッピーに狙いをすました。
その時だった…
野うさぎ「;=゚Д゚)コソッ」
草むらから恐る恐る顔を出す野うさぎがボクを見つめている。
ナリア「なんだ?野うさぎまでボクのパンを狙っているのか?」
アッピー「gyuッ?」
少しあきれ気味に剣を止めるとアッピーは隙を突いて立ち上がり、野うさぎに向かって突進!!
コイツ!野うさぎを襲うつもりか!?
と、思ったがアッピーは悲痛な表情で野うさぎの前に仁王立ち…?
ナリア「なんだ?コイツ、アッピーのクセに野うさぎをかばってる…?」
野うさぎ「 →(=。_。)ハァハァ 」
ナリア「えっ?野うさぎに矢が刺さってるのか?」
アッピー「gyuッ!gyuッ!!」
アッピーはブルブルと震えながら手に持つ槍でボクを追い払おうとしているが、
どうやらこのアッピーは野うさぎのためにボクのパンを奪おうとしたようだ。
ナリア「なんだかなぁ…そういう事だったのか。」
ボクは奪うヤツは嫌いだけれど、守ろうとするヤツはどうにも嫌いにはなれない。
魔物は本能のまま、欲のために力任せで奪うヤツはたくさん居る。
人間だって時と場合によっては…それ以上に奪うヤツがたくさん居る。
なのに非力な魔物がこうして一生懸命守ろうとする姿…
こういうシーン、ボクは一番弱いんだ。
ナリア「しょうがないなぁ。今、ボクの水薬を使ってやる。」
アッピー「?」
アッピーはボクに敵意がないと見ると槍を下ろし、状況を見つめている。
弱っている野うさぎから矢を抜き取り、回復薬の「命の水」を使った。
野うさぎ「 煤i=゚▽゚)!!」
水薬に込められた魔力が光を放ち、野うさぎの傷を一気に薄れさせていく。
うん!これでこの野うさぎはもう安心だ。
アッピー「gyu〜〜〜〜〜ッ!!」
野うさぎ「〜〜(=゚▽゚)つ」
野うさぎは元気になるやアッピーに向かって身をすり寄せると嬉しそうにこちらへ振り向いた。
その姿はお礼を言っているようにも見えて、ボクはとっても嬉しい気持ちで包まれる。
アッピー「gyuッ!!」
アッピーも嬉しそうにこちらに寄ってくるが、先ほどボクに向かって突き出してきた槍をそっと地面に置く。
このアッピーもまた、喜んでいるのだろう。
ナリア「あぁ、本当だったら斬っちゃおうって思ったんだぞ!今度から絶対に人を襲ったりしちゃダメだからな!」
アッピー「gyuッ!」
ボクの言葉を理解しているのか?していないのか?それはわからないが、二匹は仲良く森の奥へと消えていった。
ナリア「おい!アッピー!三叉の槍を忘れてるぞ?」
アッピー「gyu〜〜!」
ボクの言葉には反応しているようだが、アッピーは槍を取りには戻ってこない。
疑問に思いながら手を伸ばして槍を拾い上げようとするが、
ナリア「な、なんだ?」
アッピーの三叉の槍は真っ赤な光を放ちながら少しずつ縮小していく?
凝縮されきった三叉の槍はビー玉程度の大きさになり、林檎の形へと変貌を遂げる。
それは透明感がある美しい赤い石…
光を受けて輝きを増すこれは…?
ナリア「こ、これ、ルビーじゃないのか?一体なんで?」
???「それは君へのお礼だよ。」
ナリア「だ、誰だ?」
木の上から聞こえてくる若々しい男の声。
声の主は5mはあろう場所から飛び降りて華麗に…
???「ギャフッ!!」
顔面から着地した!!
ナリア「だ、大丈夫ですか?」
???「ふっ!君は私が着地に失敗したと思っているだろう?」
ナリア「 ? 」
???「そう思っているならッ…」
ナリア「は、はぁ?」
???「こ、声を掛けるより先に…」
ナリア「 ? 」
???「早く助けたまえッ!!顔面着地だぞ!!大丈夫なわけがないだろうがッ!!」
ナリア「な、何で逆切れッ!?」
急いで顔面着地の男性を助けおこすと驚くほど華麗に両方の鼻の穴から血が噴出していた。
???「パンの匂いに釣られて来たら…酷い目に合った!!ちくしょうッ!!パンのせいでッ!!」
ナリア「い、いや、あなたのせいですよね?どう考えても?」
???「えぇい!さっきからマジメな回答ばかりするヤツめッ!!真面目すぎて面白くもおかしくもないわッ!!」
ナリア「いや、正直ボクもなんで出くわすのが女性でないのか残念で…面白おかしい場面はあなたの鼻血だけですが…?」
???「うわ〜〜〜ッ!!鼻血いうな!!お前の水薬、オレに分けてくれ!!」
ナリア「ちょ、ちょっと!!勝手にボクの水薬をッ!!」
ボクの制止も聞かず、勝手にリュックから水薬を顔面に掛けて傷を治した不思議な男。
装備品はこれまた不思議で両手、両足から刃が突出している「刃の鎧」とも思えるような装備品。
魔法使いではないことだけは確かだけど…?何者だろう?
???「ハッハッハ!悪いなぁ?勝手に水薬貰っちゃって…私の名前は「アレム」っていうんだが、君は?」
ナリア「ナリアっていいます…あなたも「戦士」なんですか?」
アレム「あぁ〜〜…戦士だね。それも飛びっきりに強い戦士な。」
ナリア「はぁ…顔面着地の人なのにですか?」
アレム「グウッゥ!!なるほど、君は本音をオブラートに包むことができない世渡り下手なようだねッ!!」
少しばかり頬をヒクヒクと痙攣させながら苦笑いを見せるアレムという戦士?の人。
昔から父親に「変な男からは目をそらし、綺麗な女は凝視しろ」と言われているが、
ボクはそれを自分の格言にしている。
これは休憩時間を減らしてでも、この男を無視してナーレを目指した方がいいようだ。
アレム「おいおい?もう休憩は終わりかい?これから何処へ向かうんだ?」
ナリア「ドルロレの首都、ナーレです。じゃ、これで…ボクは旅路を急ぎますんで…」
アレム「はっはっは!山奥の田舎モノが都会を目指してナーレに向かう!か?やめとけ、やめとけ!無駄に死ぬだけだぞ?」
ムカッ!!初対面にもかかわらず!!これだけ酷いことを言う人は初めて見た!!
アレム「はっはっは!怒っているのか?今の言葉に含まれている善意が見抜けないようならそれこそ問題外!!
死に急ぐなよ?」
ナリア「ッ?どういう意味ですか?」
アレム「どういう意味も言った通りさ。水薬とパンをくれた礼に君へ3つの助言を送ろう。」
ナリア「えっ?パンのお礼って…?あぁ〜〜〜っ!!」
驚嘆した!!今の今まで手に持っていたパンがいつの間にか男の手中にある!?
まるで魔法のように手元からなくなった!!?
い、いったいどうして??もしかしてあなたはスリの人ですか??
アレム「君に送る言葉は3つ。1つ目は…真実と虚言に翻弄されるということ。」
ナリア「真実と…虚言?」
アレム「2つ目は君の甘さゆえ、命に危険が及ぶということ」
ナリア「?」
アレム「3つ目は…そうだな?信じない勇気が要る事もあるということだ。」
ナリア「信じないことが勇気…?だって?」
アレム「ま、これが君に贈る言葉だ。じゃ、私もそろそろ行くとしよう…」
一体どういう人だったんだろう?このアレムという人は…?
何者かもわからないまま、不思議な戦士はパンをかじりながらボクとは逆方向に歩いていった。
……………
地図を頼りに歩くこと更に7時間…森の中心部に到達している。日はまだまだ高い場所にあるが、おなかがペコペコで力が出ない。
食料はさっきの事件で食べずじまい。余分に食べて後で困ることだけは避けたかった。
今はとりあえず我慢して進むしかない。夜になる4時間後までは何も食べられないな、これは…
ナリア「銅の剣は刃こぼれしてないかな?」
ブルという豚の頭部を持った二足歩行する魔物が朝から数えて4回も襲ってきた…
その度に倒してきたが装備品に傷みが入ってないかが非常に気になる。
新品の装備品を身につけているが…それと同様ボク自身、実戦で戦った経験が少ない。
小さなことが命取りになる冒険はボクにとって大きなプレッシャーだった。
ナリア「すごいな、こんなに冒険って厳しいものだったんだ。」
1日にも満たない時点で僅かに零れる弱音…ダメだ!!ダメだ!!!こんな弱気じゃ…憧れのナーレになんか辿りつけるわけがない!!
例え辿り着けたとしても、綺麗なお姉さん達に『貧弱な坊やはチョットね〜〜〜』なんて言われかねないッ!!
ナリア「気合入れるぞッ!!何が何でもナーレに向かうんだ!!」
そうだ!!絶対に辿り着いて見せてやるんだ!!
………………
………
3日後…
ボクのリュックサックの中身は「空」になっていた…
食料はおろか体力回復に欠かせない水薬もゼロ…
出くわす魔物たちはとにかく倒したけど…魔物が持っているのは人間から奪い取ったのか…?
使いようのないドニアばかり…
村を出た時2,500ドニアしか持っていなかったボクは今、14,000ドニアも持っている…
2,500ドニアって…ボクの4年分の小遣いを一生懸命貯金していたものなんだぞ!?
14,000ドニアって言ったら近所のオッサンたちの噂では
ドルロレ、大人の歓楽街…シャレード通りとか言うところで豪遊できるって聞くぞ!?
(それも噂の域を出ないので実際に行くのも怖いが…)
それがたった数日で魔物から奪い取れるってっどんなバブルだッ!?
銅の剣は完全に刃こぼれを起こし、数回の戦闘にすら堪えられそうもない…
これで魔物にでも出くわしたら…
と、思っていた矢先だった…
ガサッ…
ナリア「 ッ!! 」
と、ボクの背後の草むらが音をならした…
ナリア「な?なんだょ!?ま、また魔物か…?コンチクショウッ!!」
ガサ…ガサッ…
ナリア「く、来るなら来いよッ!!
ボクはもうビッグアッピーだって簡単に倒せるようになった「ナリア様」だぞ!?
今更怖いものなんて何もないんだッ!!隠れてるのは…わかってるんだぞッ!!」
ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…
ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…
ナリア「 …………… 」
ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…
ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…
ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…
ナリア「うわぁ〜〜〜〜〜ッ!!もういいよッ!!ごめんなさいッ!!
謝りますからッ!!誠心誠意、一生懸命謝りますから!!!
あなたはアレですか!?
最近新種で出てきた梨っぽい形の魔物『ペアッピー』とかいうヒトキワ強いヤツですか!?」
ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…
ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…
ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…
ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…
ナリア「ぎゃぁ〜〜〜っ!!違うんですか!?違うんですねッ!?
じゃ、新キャラ萌えを防ぐべくッ!!ヤッパリ古株の方ですかッ!?
地味に二つの頭を持つ狼、黒おおかみッ!?
リアルな豚の頭部を引っさげた上に武器を持って二足歩行の再出演!!ブルータスの方ですね!?」
ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…
ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…
ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…
ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…
ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…
ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…
ガサ…ガサッ…ガサ…ガサッ…ガサ…ガサ…ガサ…ガサッ…
ナリア「はぁぁ〜〜〜もうヤダ〜〜〜ッ!!
来んなよ〜〜〜!!こっちに…来んなよ〜〜〜!!」
?????「うふふふふ…・」
ナリア「 ッ!! 」
村で再三に聞きなれた…少しおっとりした間抜けな高い声?
?????「アハハハハハハッ…!!バッカみたいッ!!!アハハハ〜〜〜ッ!!」
その声の持ち主が人差し指でボクを指差しながら現れた!!
チャーチル「なにやってんの、ナリア様ッ!?思いっきり怖がりすぎよッ…!?
情けないにも程があるわ!!村ではあんなに威張り散らしていたのに!!」
ナリア「チャーチルッ!?な、なんでキミがココにッ!?」
チャーチル「バカ…あんたの考えてることなんてお見通しよ?
そろそろベソをかいてる頃じゃないかと思って急いで来たかいがあったわ☆」
よ、よりにもよってッ!!一番会いたくないヤツに…っていうよりこんな場面を見られるなんてッ!!
と、チャーチルを見てみるが…
いつもは着ていない魔法使い用の「月光のローブ」を身に纏っている。
指には魔力を増幅させる「サファイアリング」を装着…
リュックサックも背負っているがボクが持ってきていた「命の水」ではなく
魔力回復用の「マナの水」が飛び出るほど持ってきている。
チャーチル「まったく!体中傷だらけじゃない?水薬を持ってこなかったの?」
ナリア「バ、バカいうなよ?持ってきたけど…フラグが立って使わざるを得なかったり…
変な剣士に使われたりで大変だったんだ!」
チャーチル「 ? 意味はよく解らないけど…使われちゃったの?」
ナリア「そ、そぅだよ!ボクの旅の準備は…万全だったんだ!!」
声が裏返って「う」が妙に小さくなる…
うん…とりあえず嘘は言ってないよな?ボクは…
チャーチル「さて、それじゃ…」
と、チャーチルはボクに歩み寄る。
ナリア「 !!! 」
その姿にボクは一番懸念していた思いをぶつけた。
ナリア「ボ、ボクを連れ戻しにきたのか!?ボクは…ボクは…」
チャーチル「違うわよ…私はアンタを止めに来たんじゃないわよ?
ナーレに行きたいんでしょ?
私ってばナリアのお姉さんみたいなものじゃない?
だから魔法でサポートしに来たのよ?」
ナリア「 ッ!? チャーチル…?」
チャーチル「まったく…こんなにボロボロになって…
しょうがないな〜〜…今、回復魔法キュアを掛けてあげるから待ってね?」
と、片目を瞑り…クスクスと笑いながらチャーチルは魔法の詠唱を始めた…
普段からお姉さんぶってムカついていたチャーチル…
心の中でこんな風に話のわかる女の子だったらどんなにいい事かと1日に多い時で14回ぐらい思ったこともある…
毎日…平均で8回ぐらい思っていたよ…
それが…
それが…
ボクの心の中で思い描いた空想のように「話のわかるイケテル女の子(当社比)」だったなんてッ!!
ナリア「 …………… 」
ごめんよ、チャーチル…
ボクは今までキミの事…少し誤解していたみたいだ…
4ヶ月前…キミの靴の中に蛙が目一杯入っていてメチャクチャ驚いたことがあっただろう?
実はアレ…ボクのいたずらだったんだ…
他にもアレだ…そう!!アレ!!
チャーチルにお気に入りのハンカチ借りていただろ!!
アレね…
村で捕まえたカマキリを包んでたらボロボロにされちゃった上に「変な黄色の液体」が染み込んでてさ…
結局、キチャナイからカマキリごと川に流しちゃったんだ…
( 口に出したら殺されると思うし…メチャクチャ怖いから心の底から声に出さずに )
謝るよ…
ナリア「 … 」
ただ一つ…
惜しむらくも残念なことは…
チャーチルがムチムチでバィ〜〜〜ンなナイスヴァディでないという事…
それさえ満たしていれば…ボクはもっとチャーチルに対して優しくなれると思うのに…
そう思うと…
ナリア「 ッ… 」
残念で……ならないッ!!
チャーチル「大地の奥に眠る母なる水の女神よ…遠き地より旅する者への愛を形取り…その恩恵をあらわとする行為と…」
ナリア「 … 」
チャーチル「その夢の如く力の端、痛みを知る者に緩和の光を…」
ナリア「 …………… 」
チャーチル「時折洩れるその心は時に慎ましく、時に大らかに…」
ナリア「 ねぇ?まだ?チャーチル…?全然…回復しないんだけど…?」
チャーチル「あぁ…その優しさは…その愛は深く、深く我らの心に届き…」
ナリア「チャーチル〜〜〜…遅いよ〜〜〜これじゃ「自然回復」の方が絶対に早いよ〜〜〜」
チャーチル「うっさいッ!!黙っててよ!!私は攻撃魔法の方が得意だって知ってるでしょうが!!
回復魔法は丁寧に詠唱しきらないとできないのッ!!痛いのぐらい我慢しなさいよ!!」
た、確かに回復魔法が苦手って知ってるよ?
でも、先生のところにマジメに通っている割には1年前からまったく上達してないんですかッ!?
ナリア「が、我慢できるぐらいだったら最初っから「回復魔法」なんて必要ないのですが…?」
チャーチル「もぉ〜〜〜〜ッ!!あんたのせいで詠唱、一から始めなきゃいけないじゃない!!
私の回復魔法は4分は掛かるんだからジッとしてて!!」
ナリア「よ、4分って…それで完全回復できるのか?」
チャーチル「い、今のナリアの傷の……は、8分の1ぐらいかな…?」
ナリア「 … 」
チャーチル「 … 」
完全回復まで30分以上ですか…?
これじゃ何時になったら旅を再開できるか解ったものじゃない…
チャーチル「大地の奥に眠る母なる水の女神よ…遠き地より旅する者への愛を形取り…その恩恵をあらわとする行為と…」
ボクの心境を他所にチャーチルはまた、一から詠唱を始める…
時折、詠唱途中で咬んで間違えたり…詠唱は完璧だったのに魔力が足りなかったりで…
結局、ボクの体が完全回復するまでに1時間以上の時間が掛かった…
……………
チャーチルが仲間に加わって更に2日が経った。
魔物たちの強さは先へ進むほど増していき、チャーチルの水薬もドンドン減っていった。
運良く旅の途中、「せきらく」という旅の行商人が新しい銅の剣と水薬、そして食料を売ってくれたのでリュックサックに
満杯になるほど調達したが…それでも魔物の強さの前に水薬の減りも増していく。
山を越え、谷を越え…休憩を取りながらの旅…今回、3度目の森に足を踏み入れる。
ナリア「ふぅ…結構来たかな?」
チャーチル「ハァ…ハァ…
ナ、ナーレまで…残り6割ってところかしら?」
ナリア「そうだね…地図じゃこの森は「迷いの森」って書いてるけど…ちゃんと道が記入されてないな?」
チャーチル「それだけ人間に足を踏み入れられていないところだってわかるわね…
迷わないように…気をつけないと…」
ナリア「それに加えて、魔物の強さもハンパ無く強くなってきてる…
最近、新種として認識され始めた「ホッピー」にまで出くわしたし…」
チャーチル「うん…でも、それよりも怖いのは『賞金首』よ?
こんなに街から離れた場所だと先生が言っていたけど…
国から懸賞金を掛けられた悪い魔物が現れかねない…
ひょっとしたらセカンド・クラス以上の賞金首も…」
ナリア「セカンド・クラス以上の…しょ…賞金首か…」
この世界に君臨する強い力を持つ魔物たち…
その中でも特に罪を犯したヤツは総称して賞金首と呼ばれている…
数知れない罪を犯した魔物…まずは「ノーマル」と分類される賞金首となる。
別格として「2級…40種」、「1級…30種」、「特級…30種」と
名前を連ねる100匹の魔物が存在し、中には魔道に落ちた人間も名前を連ねていることもあるとか…
言うなれば「世界の悪いヤツ、トップ100」みたいなものだ…
ナリア「いや…いくらなんでもそんなに強い魔物が
ナーレまで10日間程度の距離に居るわけがないよ。
存在がわかった時点で城からジェネラルマスター(GM)や
エースストライカー(AS)って呼ばれる管理局の人が殲滅にあたる筈だ…」
チャーチル「そ、そうだね…私たちの村にも『16ビット』って言うGMの人が訪ねてくれたことがあったけど
凄く頼りになりそうな人達だったし…心配ないか…」
と、不安げに曇っていたチャーチルの表情に笑顔が戻る…
困難な旅だと分かっていながらもボクのワガママに付き合ってくれたチャーチル…
ナーレまでもう少しで半分なんだ…
頑張って到着しなくっちゃ…
ドサッ…
ナリア「 ? 」
背後で何やら、大きな音が響く…?
ナリア「チャーチル?」
後ろを付いてきているチャーチルに振り返ると…
チャーチル「ハ、ハァ…ハァ…」
チャーチルが頬を赤く染めて地面に倒れていた!!!
ナリア「チャーチル〜〜〜ッ!?」
慌てて地面に横たわるチャーチルを両腕で抱き上げる…
その体はあまりにも熱く、熱を発していることが容易に感じ取れた!!
ナリア「す、凄い熱じゃないか?こんなに体調が悪いのに、なんで言ってくれなかったんだ!!」
チャーチル「何言ってるのよ…だ、大丈夫だよ?このくらいの熱…へっちゃら…」
カラカラと笑う彼女だが、それはボクに心配を掛けまいとしている気遣い…
少しでも早くナーレへと着きたい…と、焦るボクに…無理して一生懸命ペースを合わせてくれていたんだ…
チャーチル「ご…ごめんね…心配掛けて…でも、もう大丈夫だから…
ね?先を急ごう?」
ナリア「 ……… 」
チャーチル「 ナリア? 」
ナリア「ダメだよ…チャーチルは少しココで休んでいてくれ。
ボクは近くの川から水を汲んでくる。
回復するまではココから先へは進まないよ?」
チャーチル「 ナリア…いいの?ナーレまで先を急ぐじゃない… 」
ナリア「そうだよ?先を急ぐのにチャーチルがコレじゃ急げないし…
チャーチルの魔法は本当に頼りになるからさ…
だから早く熱を引かせて旅を続けようよ?」
と、獣道から少し離れた場所に寝袋を引いて飛び火に注意しつつ焚き火をおこす。
ナリア「じゃ、チャーチルはここで待ってて…すぐに戻るからね?」
チャーチル「ありがとう…ナリア。」
言って彼女はスゥッと目を閉じて眠りに入った。
さっき通った場所で水の音が聞こえていたから川までの距離はそうは遠くないはず…
あわよくば川辺に薬草でも生えてくれていれば良いんだけれど…
などと考えながら水音を探す。
すると遠くから水のはじける音が聞こえてきた。
ナリア「よし、あっちだな?」
歩くこと1分程度で川へと到着…
川の水は山から延びているために透き通っていて綺麗…
ボクはそれを皮の袋いっぱいにすくい取った。
ナリア「よし、水の調達完了…後は…」
と周囲をゆっくりと一望する。
日当たりの悪い岩場の下から薬草を発見!!
ユキノシタと言う薬草だけれど生のまま煎じて飲むと熱が引くと母親に教えてもらった記憶がある!!
これでチャーチルの熱も下がってくれるに違いない!!
と、その時…
ナリア「 ッ!! 」
????「 ………… 」
川の上流から…ドンブラコ…ドンブラコと…
????「 ………… 」
人間が流れてきたッ!!
何故に桃じゃなくて人間ッ!!
いや!桃が流れてきても困るけど!!
人間が流れてきてもかなり困るッ!!
ナリア「だ、大丈夫ですか!!?」
と、驚きながらも流れてきた人を救出!!
一生懸命、お腹を押すと口から…
????「ブ〜〜〜〜ッ!!」
噴水の様に水を噴出した!!
ナリア「よ、よし!これでもう大丈夫ですね!!」
????「う…う〜〜ん…何だ…ここは…ド、ドコだ…?」
混乱している男の人…
年のころは18歳ぐらいかな?ボクよりも少し年上という感じだけど…
不思議なことにこの男の人はコレだけ強い魔物がひしめく森の中で布の服一枚で溺れていた。
腕には蒼く光る高級そうなブレスレットがはめられているが…
どういう人なんだろう?
とりあえず混乱を治めるために現状の説明をしてあげよう…
ナリア「迷いの森って言うナーレへ続く森の中です。大丈夫ですか?川で溺れていたみたいですけど?」
????「お、溺れて…?オレは溺れていたって言うのか?」
と、慌てて周囲を見渡す男の人…
暫くボ〜っとした後、大きな溜息をつきながらボクに問いかけた。
????「で…キミは誰で…ボクは誰だろう…?」
ナリア「えっと…ボクはナリアであなたは………って…エエェッ!?」
????「そ〜か…キミはナリアくんで…ボクはテ、エエェッっていう名前なのか…」
ナリア「そ、そうじゃなくて!!あなた…自分の名前が分からないんですか?」
????「 …………… 」
ナリア「 …………… 」
????「 うん… 」
……………
とりあえず水を汲み、薬草をとった後チャーチルの待つ場所へと帰る。
当然名前も知らない男の人を置いてくる訳にもいかず、今一緒に3人で焚き火を囲んでいる。
チャーチルの熱は思いの他…早く下がってくれたが新たな問題に直面していた。
チャーチル「ねぇ…この人だれ?」
表情をゆがめて言う…
ナリア「それがね…記憶喪失みたいなんだ…」
????「うん…記憶喪失なんだよねぇ…」
悲しそうな男の人は手馴れた様子で焚き木をくべる…
チャーチル「記憶喪失って…自分の名前もわからなくなるっていう…アレ?」
ナリア「そうだよ…昔のことが思い出せなくなるっていうアレだよ…」
????「そうなんだよねぇ…オレも記憶喪失の人って初めてだよ…」
ナリア「本当にそうですよねぇ…ってアンタ自身でしょ!!記憶喪失の人はッ!!!」
????「 ッ!! そうやった!!俺が記憶喪失やってんやッ!!!」
チャーチル「 ? それってドコの方言よ?」
????「 ッ!? いや、今…何故か…とっさに口に出てきて…
何故か分かるかな?ナリアくん…?」
ナリア「いや…多分アナタの癖だったんじゃないですか?チャーチルはどう思う?」
????「チャーチルちゃんはどう思うのだろう?」
チャーチル「 …………知らないわよ……それと「ちゃん付け」すんなッ!! 」
と、少し不機嫌そうに上目使いで記憶喪失の人を見るチャーチル…
ボクの鎧の端を掴みながら小声で言った。
チャーチル「 (ねぇ!なんであんなのを連れてきたのよ!) 」
ナリア「 (な、なんでって言われても溺れていて気を失っている人を放っては来れないだろ?) 」
チャーチル「 (でも…ちょっと怪しいよ?雰囲気もさ…貧乏くさい顔って言うか…頼りなさ気な風格って言うか…) 」
ナリア「 (そんな酷いことを言うなよ?いくらなんでも可哀想じゃないか?) 」
チャーチル「 (うぅ〜〜〜…生理的に受け付けないよ〜〜〜ああいうヤツ…) 」
サラリ、さらりと毒を吐く彼女…だが、彼女の言うことも分からないでもない。
これだけ魔物のいる森でブレスレット以外は無装備なんて自殺以外には考えられない。
この男の人を見て記憶喪失になる前のイメージを膨らませたら…
生活に困っているけど「誰かの形見のブレスレット」だけは手放すことができず川に身投げをした…
そんな感じだもんな…
????「あの〜〜ちなみにお二人はこれから何処かへ行かれるのですか?」
チャーチル「アンタには関係ないでしょッ!!」
ナリア「ちょっと!チャーチルッ!!あ…え、えーと…ナーレに向かう途中で旅をしているんですよ。」
????「なんだって!!ナーレへ観光か!?
だったらオレに依頼してくれよ!!安心、安全がモットーなんだ!!」
チャーチル「 ? 」
ナリア「 い、依頼? 」
????「そうだ!旅する人が困った時の正義の味方!!オレの名前はそう!!
…………オレの………名前は……」
意気揚々と喋っていた記憶喪失の人だったが、自己紹介で名前を言おうとした瞬間……再度、自信無さ気に首をひねった…
チャーチル「 アンタの名前はなによ? 」
ナリア「 お、思い出しましたか? 」
????「 いや… 思い出せない……」
と、眉間にしわを寄せながら…う〜ん!う〜〜ん!と腕を巻く。
チャーチル「 (ナリア……この人、本当は今ので記憶を取り戻したんじゃないの?) 」
ナリア「 (むぅ?そうは見えないけどなぁ?) 」
????「オレは…観光会社の社員……」
ナリア「 か、観光会社の社員? 」
????「 そうだったような〜〜〜???……そうでないような〜〜〜??? 」
チャーチル「もう!!いい加減にしてよ!!私たちはナーレに行くのよ!!アンタの記憶なんてドッチでもいいのよ!」
ナリア「おい!それは言いすぎだぞ!!」
チャーチル「だってナリアはムカつかないの?ただでさえ私のせいで遅れ気味の旅になっちゃってるのに!!
これ以上無駄な時間は過ごさせたくないもの!!」
ナリア「 チャーチル? 」
チャーチル「記憶喪失は可哀想と思うけど…こんな森でそんな結果になったなら!あなたにも問題があったはずよ?」
????「うっ!面目ない…だけどね…ナーレに向かうなら俺が案内するよ?さっきからこの風景は見たことがあるし
ナーレまでの道程は記憶に残ってるんだ!!」
ナリア「ほ、本当ですか!?」
????「あぁ!それだけは自信がある!ナーレに着いたら記憶も戻るかもしれないしね。
旅の同行を許しちゃ貰えないだろうか?チャーチル?」
チャーチル「しょうがないわね………ってか「呼び捨て」にすんなッ!!」
と、笑いながら握手を求める記憶喪失の男の人に妙に突っかかるチャーチル。
ナリア「名前が無いと不便ですのでアナタの事は『ナナシ』さんって呼んでいいですか? 」
ナナシ「あぁ!ナナシか!いい名前だね…ありがとう!」
チャーチル「とりあえずナーレまで頑張ってよ?迷ったりしたら承知しないからッ!!」
不機嫌ながらも和解成立。
うん!しかしナナシとは我ながら絶妙なネーミングセンスだ!!
ペットを飼ったらこの名前にしようと考えておいたカイがあったって言うもんだ。
こうしてボクは3人目の仲間、ナナシを加えて旅を再開した。
……………
強くなる魔物のレベル…
ナナシさんを加えてから3人になったため警戒してか?
魔物に出くわす頻度が減っている様にも感じる…
それでも時折現れる強くなった魔物たちはボクたちに致命傷に近い傷を与えることが多くなってきた…
それはボクたちにひしひしと絶望を与えていく。
森の茂りはボクたちから太陽の光を奪う…
心を絶望という闇へと誘っていく。
チャーチル「ハァ…ハァ…」
ナリア「本当に強い…やっとナーレまで残り5割なんだろ?こ、これじゃ…ボクたちは生きて辿り着けるか…」
うっ…
また、弱音を零してしまいそうになった…
チャーチルが支えてくれている…
ボクの望みを叶えようとしてくれているのに…
弱音なんて吐いていいはずは無いのに…
ナナシ「んッ…トゥトゥ………トゥトゥトゥッ…トゥトゥ〜〜〜」
チャーチル「ナリア…頑張ろうね…私が…ついてるから…」
ナリア「あ、ありがとう…で、でも…」
チャーチル「でもじゃないわよ!!魔物たちは凄く強いけど…私たちなら…」
悲痛な表情のチャーチルと見詰め合う…
そんな最中、耳へと届く不快なノイズ…
ナナシ「んッ…トゥトゥ〜〜〜………オッか〜〜〜を〜〜〜こえ〜〜てぇ〜〜ゆ〜〜こョぉお〜〜〜」
ナリア「ってか!!うるっさいんだよ〜〜〜ッ!!ナナシさんッ!!!さっきっから何、鼻歌歌ってんの!?
鼻歌からマジ歌になんで変わってんのッ!?そんなに歌ってたら嫌でも魔物に狙われるだろうがッ!!!」
ナナシ「えっ?いやいや〜〜コレには理由が大有りなんだよ?ナリアくん?」
チャーチル「何が理由よ!?さっきっから戦闘に参加してるかしてないか分からない戦いっぷりのクセにッ!!」
ナナシ「そ、それは誤解だよ?歌を歌うのは臆病な気性の魔物を近づけないためさ?
それでも近寄ってきて襲う魔物は大体悪いヤツで…いいヤツはボクらの姿を確認したら襲わないで逃げちゃうんだ。」
ナリア「エッ?ま、魔物って…歌を歌って近づくヤツだけが悪いヤツなんですか?」
ナナシ「うん、大体そうだよ〜?だから意外と魔物に襲われずに済んでると思うんだけど…本当にごめんね?
オレ、無装備やん?戦ったらヤラれてまうし…」
と、申し訳なさそうに頭を下げる…
知らなかった…そんなことで魔物を退けることができるなんて…
チャーチル「 ………ッ 」
ナナシさんの助言を知らなかったことが気に障ったのか?
チャーチルが又もナナシさんを睨み付けている。
ナナシ「よしよ〜〜〜し!!この辺まで来たら魔物も近寄れない!
日当たりが悪いけど妖精の加護がある「胎動の木」や「命の木」が生えている。
ここだったら大抵の魔物は近づけないよ。」
ナリア「よ、よかった!そろそろ休憩したいと思ってたんです!!」
と、汗を拭いながらナナシさんが手を振るところまで移動!
澄んだ触りがとても気持ちのいい空間。
薄っすらと清らかな光を放つ木々に囲まれた場所に焚き木を集めるナナシさんだが、
その様子は手馴れたようで、サッササッサと休憩の準備を進めていく。
改めて見てみると…まるで結界にでも守られているような安心感がある場所だ。
ナナシ「どうしたんだい?チャーチルさん…?コッチにおいでよ?」
チャーチル「わ、わかってるわよ!!別に「さん付け」じゃなくってもいいわよッ!!アンタの方が年上のクセにッ!!」
と、不機嫌メガパー(1,000,000%)の表情で焚き木に魔法で火を点ける。
なんだかなぁ?チャーチルってこんなにもツンケンしてる女の子だったかな?
少しギスギスした雰囲気だと思っているのはボクだけかもしれないが、
疲れた体を癒すために焚き火の前に全員が腰を据えたところでナナシさんが口を開いた。
ナナシ「さて!ようやくここまで来れたね?ここから先は少しずつ魔物も弱くなっていくよ。」
ナリア「 エッ!? 」
チャーチル「 !! 」
思いがけないナナシさんの言葉でボクの心がとてつもなく軽くなる!!
ボクの表情にナナシさんはポーっとした表情で首を傾げていた!!
ナナシさんにとっては当たり前のことでも、ボクにとっては死活問題の情報!!
問わずにはいられない!!
ナリア「こ、ここから弱くなるってどういう事ですか!?
ボクの村から50%の位置なのに…ナーレまでもっと強い魔物が出てくるんじゃないんですか!?」
ナナシ「アハハ……確かに自分の村から遠く離れるほど強いヤツが現れるような気になるよね?
でもね?ボクたちは「たくさんの人間がいる場所」に向かってるんだ。
当然、魔物たちもそんな環境の場所にたくさん集まるわけが無い。
それも強い魔物なら尚更さ?」
チャーチル「 …………… 」
ナリア「 ! 」
そ、そうか!!言われてみればその通りだ!!
ボクの村の周辺には強い魔物なんて全然居なかった…
国の首都であるナーレの周辺が強い魔物であふれているはずも無い…
ナナシ「ナーレは国家の首都だからね?近隣はアッピーと野うさぎぐらいしか出てこない平和な土地なんだよ?」
ナリア「す、すごいや…ナーレはやっぱりボクの思い描いたとおりの場所だったんだ…」
チャーチル「 ナリア… 」
ナナシ「 ナリアくん…? キミにとって、ナーレってどういう所だったんだろう?」
ナリア「そりゃ…人が幸せに暮らしていける最高の場所です!
新しいものがたくさんあふれていて夢にあふれた美しい巨大都市…」
チャーチル「 ……… 」
ナリア「ボクは人間が魔物の強さに負けない『発展』に触れたいんです!!
ボクの村は…ずっと魔物の強さの前に発展できずにいた…
大人ですら村を出て…帰ってこられないような所で…
それが悔しくて…堪らなかったんですよ!!」
初めて零した自身の思い…
退屈に身を投じるしかなかった毎日…
なんの風景も変わらない場所で15年間生きてきた…
ボクの想い…
ナリア「ボクは…ボクは村のみんなに「知って欲しかった」んだ!!
新しいものを…もっともっと知って欲しかったんだ!!
保守的に生きるのが悪いなんていう気はない…
それでも、発展する場所を一度でもいいからみんなに見せたかったんですッ!!」
それを聞くとチャーチルはつまらなそうな表情でボソッと小声で言った。
チャーチル「 私はてっきり「綺麗なおねえちゃん」に会いに行きたいとか思っているかと…」
と、ボクの想いを上辺で茶化す…
ナリア「あっ…そ、それもあるけどねッ…でも、今言ったことは…ボクの本心だよ…」
ナナシ「ははは…キミの想いがオレにもすごく伝わったよ。
オレもキミの夢を応援したな〜〜」
と、満面の笑顔でナナシさんはボクの夢を理解で包んでくれた。
残り5割の場所に来て、これから先は魔物のレベルが低くなる一方!!
リュックサックの中の水薬はまだ6割も残っている。
行商人に出会えるチャンスもこれからもっと増えて行くなら…
ナリア「い、行ける!!ボクはナーレに…行けるぞッ!!」
ナナシ「ハッハッハ!!当然!!『自称、正義の味方』が着いているからね!!」
ナリア「ブッ!!じ、自信満々に「自称」ですか?」
ナナシ「あぁ!胸を張ってッ!!「自称」だよ!!」
チャーチル「 ………… 」
…………………
……………
久々に眠れた…
ナナシさんが仲間になってくれて本当に良かった…
おまけに結界に守られた安心感…
久々の深い睡眠…
ボクは…夢を見た…
これは…
これはいつのことだろう…?
………………………………………………
チャーチル「見て見て!!ほらナリアッ!!」
ナリア「うわ…真っ白な法衣だな?もしかして…」
チャーチル「そうなの!今年の誕生日プレゼントにママに買ってもらったんだ!
ずっと欲しかったデザイナー・ミースモデルの『月光のローブ』だよ!
すっごくオネダリしたんだ〜」
ナリア「うわっ…それはおばさんもお気の毒に…
確か去年の13歳の誕生日にはサファイアリングをねだってなかったか?」
チャーチル「えへへ…誕生日には魔法使い用のアイテムや装備品を買ってもらう約束してるって知ってるでしょ?」
ナリア「?そうだったっけ?じゃ、来年の誕生日は何を貰うんだ?」
チャーチル「えへへ…それは内緒よ〜〜」
………………………………………………
そうだ…
確かにそんな会話をチャーチルとしたよな…
あの頃に買ってもらった装備品を身につけて助けに来てくれたんだな…
しかし…
そう思うと…
………………
…………
ふと、眠気から醒めると森の木々の合間から星空がチラリとうかがえる。
昼ですら薄ら暗かったのに夜に星の光と言えど…煌々と届くのは不思議な気分だ。
チャーチル「ナリア…」
焚き火の光で影がゆれながら、ボクに声が届く。
チャーチルはまだ眠ってなかった様子でボクの寝袋の隣へそっと身を寄せた。
ナリア「どうしたんだい、チャーチル…?明日も早いから眠らないと…」
チャーチル「ナリア、少し…話しておきたいことがあるの…」
ナリア「 ? 」
深刻そうな表情…
こんなチャーチルは初めて見た気がする。
彼女はボクの手をとり、ナナシさんから遠ざけるように草むらの中へとボクを誘っていった。
…………
中編へ続く(*´▽`)