題名 : 水都ナーレへ行こう!! 中編(´▽`)

…………



数分ほど歩いたか?焚き火からはかなり離れた場所…

ようやく彼女はその足取りを止めた。


ナリア「どうしたんだ?雰囲気からして…大事な話みたいだけど?」


チャーチル「うん…これから先の話を少ししたかったの…」



はて?これから先の話とは…?


ナナシさんが仲間に加わってくれたおかげで難なくナーレへ着けそうな勢いなのにチャーチルのこの表情…?


ボクの目を見ようとはせずにシドロモドロな態度を見せる。





少し寂しげと言うか…?





少し不安げと言うか…?






なんと言うか…






女の子らしいって…いうか?





本当にこんなチャーチルは初めて見る…




彼女の弱々しくも表現しにくい姿に少し目を閉じて原因を探ろうとした時だった…




チャーチル「ナリアッ!!」


ナリア「 ッ!!? チャーチルッ!!ど、どうしたんだよ?急にッ!?」




ビックリした…




稚拙な表現だがコレが一番正しい表現だろう…



彼女はボクの名前を呼びかけると共に胸元に飛び込んで抱きついてきたのだ!!



こ、これっていったいどういうことだ!?




ゴ、ゴキブリ!?



この近くでチャーチルの嫌いなゴキブリでも出たか?



あ、いや!それともボクの胸囲の測定?



ボクの胸囲なんて…こんな時になんで計る必要があるんだ??



こ、混乱する!!こ、こんなことは初めてだし何よりチャーチルがボクにこれだけ接近してくるなんて?



抱き付かれる理由が見当たらないぞ!?



チャーチル「今回の旅は二人旅になると思ってたけど…この分じゃきっともう二人になるのは無理だろうから…」



ナリア「ぇっ…?な、何…?ボ、ボク…い…ぃってるぃみがょく分からなぃんだけど…?」


彼女の態度がボクの平静を極度に崩していく。


チャーチルには思春期真っ只中なエッチな青年と思われているかもしれないけど…


実はボクって結構ナイーブなんだよ??こんな風に女の子に抱きつかれたら…ど、どうしていいか…


チャーチル「ナリア、私ね…あなたの事が大好きなの…だから今回のあなたの旅にも…付いてこようと…」


ナリア「 チャーチル… そ、そんな急に… 」



チャーチル「でも…正直に言うと不安だったの…ナーレに着いたらナリアは村には帰らなくなるんじゃないかって…」


ナリア「チャーチル…?」




震える彼女の声…同時に大きな心音までもがボクの体に振動として伝わってくる…

彼女は今、精一杯…心の声をボクに伝えているのだろう…



ど、どうしよう…この状況でチャーチルに『一緒に村に帰って!』なんて言われたら…


承諾はおろか…快諾してしまいかねないッ!!



ど、どうしようッ!?どうしようッ!!?




チャーチル「私はナーレなんて行けなくて良かった…

      でも、あなたが行きたいって言うなら着いていくよ…どこだって…着いていくよ…

      でも…ナリアはこの先…私のそばにずっと居てくれないのかも知れないと思うと…
      
      一緒にいるのは嫌だって思われているかもしれないって思うと…
      
      怖いの…」


ナリア「 …………… 」



その声はボクの心に深く突き刺さり…思わず空を見上げてしまう…

星空が見える美しい場所で…初めて聞いた彼女の想い…



彼女はボクの事をこれだけ思ってくれていたのにもかかわらず、ボクは彼女の事をこれの数分の1でも考えていただろうか?

命に危険が及ぶような旅について来てくれたチャーチル…





顔を真っ赤にして…体を震わせて…思いを告げる彼女に…



その精一杯の想いに応えるべく…



彼女の視線をボクへと向けさせた…



ナリア「チャーチル…変な心配は要らないよ?だって…ボクはチャーチルの事が大事なんだから…」


チャーチル「ッ…ナリア?」


ナリア「ナーレへ着いたって暫く見物したらすぐに帰るさ?村のみんなに心配を掛け通すのは悪いからね?」


チャーチル「ナリア…あ、ありがとう…」


ボクの言葉に安堵の顔を見せると嬉しそうに息をつく…


彼女はボクの顔を見つめながら…



チャーチル「 ……… 」



ナリア「 ッ!? 」








ゆっくりと…瞳を閉じたッ!?








ナリア「 なッ…!? 」






チャーチル「 …………… 」











こ、これってもしかしてアレか!?






レ、レモンの味やらさくらんぼの味がするという噂の…?







実際にはどんな味がするかは…






やってみての「お楽しミステリー」ッ!!

(※ お楽しみ と ミステリーの複合単語です(´▽`)マチガイデハアリマセン。)








経験したことのないキ、キスを要求しているのかッ!?



ナリア「 ……… 」


突然のシチュエーションに汗がほとばしる…







し、してもいいのか!?


本当にしてもいいのかッ!!?



ちょ、い…いくらなんでも…やった瞬間に「なに勘違いしてんのよッ!!この変態ッ!」とか言われたら…


オレはもう再起不能になっちゃうよ?



「ツンデレ」は後で「デレ」が来るからいいけど…

「デレツン」は…後には哀しさしか残らないから極度に精神を破壊するんだよ!?



ナリア「 クッ!! 」


い、今まで何度も強敵と戦ってきたボクだろう?


な、なのになんで足が震えるんだよ?

や、やばいッ!!と、止まれ!!オレの両腕の震えよッ!!人生15年生きてきて…


女の子とキスをする初めてのチャンスなんだぞッ!?それをむざむざ不意には…


チャーチル「 ッ……… 」


ナリア「 ッ!! 」



ボクの体を掴むチャーチルの力が少し強まったッ!!!


ま、間違いない!!これはOKの合図の筈だ!!オレは今…求められているッ!!!




それを実感した時…















ボクの心の中で天使と悪魔が同時に助言をくれた…
















『行け!!ナリアッ!!』と…






ナリア「 チャーチル… 」


チャーチル「 ナリア… 」




僅かに震えるお互いの吐息…




ゆっくりとボクたちは唇と唇を…









近づけ…


ナナシ「あぶな〜〜〜〜〜いッ!!!!」


チャーチル「 ッ!! 」


ナリア「 な、こ…この声…?ナナシさんッ!?」



大声を上げると共に突進してきたナナシさん!!

驚くほどのスピードで間合いを詰めると!!


あろう事か雰囲気のいいボク達の合間に蹴りを入れながら突撃してきた!!!



ナナシ「 貴様の好きにはさせんぞ!! 」


ナリア「な…なな…なにを急に全てをブチ壊してくれてるんですかッ!!!

    あなたには関係ないじゃないですか?むしろ好きにさせてくださいよ?
    
    人生初ですよ?人生初だったんですよ!?」


チャーチル「そうよ!ナナシッ!!邪魔するなんて酷いわよ!!邪魔するなんてッ!!!」


ナナシさん、突然の参上にチャーチルと共に罵声を浴びせる。


ナナシ「 ……… 」


ナリア「 ッ?ナナシさん…? 」

振り向き様に流す視線…それは明らかに殺気が込められている。

今まで接してきたナナシさんとは明らかに違うクールな表情?


な、なんだ?一体…何がナナシさんをこんなに…?




ナナシ「やかましいッ!!キサマ…問答無用だァァ!!」


と、何故かナナシさんがチャーチルに向かってコブシを振り上げての突進!?


そ、そんな…?い、一体何がどうなってるんだ!?


ナナシ「キサマ…やっぱり…」


チャーチル「もう!!うるさいのよ!!」


と、チャーチルは得意の攻撃魔法「マジック・アロー」の連発でナナシさんを攻撃!!



しかし、その直線的な軌道を読み切っているかの如く、見事なフットワークを駆使して回避!?


チャーチル「 ッ!!」



そしてナナシさんは大振りのパンチを繰り出したッ!?



チャーチル「きゃぁ!!」


うわぁぁ!!と、止める間も無く、コブシがチャーチルの頬にヒット!!


ナリア「だ、大丈夫か、チャーチルッ!!? ナナシさんッ!な、なんでそんなひどい事をするんだよ!!」


チャーチル「い…いやぁ〜〜〜!!」


ナナシ「待て!逃がさんぞ!!」


ナリア「い、いい加減にしろッ!!!ナナシ〜〜〜!」


ナナシの殺気ある攻撃に逃げるチャーチル…ボクもその後を追って腰に携えていた銅の剣を抜き取った…


大好きなチャーチルを目掛けて暴力を振るわれた…

沸々と湧き上がった怒りは…最早ボクも止めることは出来ず…




懸命に二人を追いかけ…


ナイトアッピー「GYU!!」


なんでイキナリ魔物が出現するんだぁ〜〜〜〜!?

しかも剣を持って人間を襲うかなり強めのアッピー…

コ、コイツは今のボク1人じゃ結構骨が折られるヤツだ!!


ナイトアッピー「GYU〜〜!!」


ナリア「ふ、ふざけるなよ!!お前の相手なんかしてられないんだよ!!」


ナイトアッピー「GYU〜〜!! GYU〜〜!! GYU〜〜!!」



と、走り去る二人に構うことすらできない攻防に焦燥感が溢れかえる!!



ナイトアッピーの攻撃は執拗で気を抜けば致命傷を受けてしまう様な一撃の連撃…




怒りに任せた攻撃ではナイトアッピーを瞬殺できず、とうとう二人を見失ってしまった…


ナリア「くそっ!!完全に二人を見失ったじゃないかッ!!」


ナイトアッピー「GYU〜〜!! GYU〜〜!! GYU〜〜!!」



ボクの意向などお構い無し…

ナイトアッピーの悦に入った表情…

ム、ムカついて仕方がない!!


ナリア「くそっ!調子に乗るな!!こぉのリンゴお化けめ〜〜!!」

怒りが頂点に達し…ボクの理性のタガが外れる…

銅の剣を大きく振りかぶり、ナイトアッピー目掛けて懇親の力を込めた!!



その瞬間…


ナリア「 !? 」

ナイトアッピー「 ? 」


地をかける光がボクらを通り過ぎ…



ナリア「 !! 」

ナイトアッピー「 !!? 」


鼓膜も震える轟音が駆け抜け…



ナリア「ア…アアァァ…?」

ナイトアッピー「 Gyu Gyu Gyu Gyu Gyu Gyu Gyu Gyu Gyu!?」 


地面を揺らす振動がボク達に恐怖を届けた!!!



ナリア「な、なんだこれッ!?なんなんだ?この地震はァ!?」

ナイトアッピー「 Gyu〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」 


ナイトアッピーはその超常現象の恐怖に負け、涙を流しながら森の奥へと逃げていく…


しかし、今の光の発生源は二人が消えていった方向だぞ!?


い、一体何があったんだ?



チャーチルは…?チャーチルは無事なんだろうな!?



ナリア「くそっ!!い…一体なんなんだよ?」


ナナシが仲間になってから初めての大きな出来事…


地図にすら道は記されず「迷いの森」と存在だけが記載される危険な空間…


敵の強さもハンパないこの場所はボクの経験の無さに容赦なくプレッシャーを掛けてくる。



ナリア「ちくしょう!!チャーチル…ボクが…ボクが絶対に…」



全力で光の元へと駆ける中…木の陰から一つの人影がボクの前に現れた…



ナリア「チャーチルッ!?チャーチルなのか?」



一抹の不安が無意識に影へと声をかける。

現れたのは…
















ナナシ「やぁ…ナリアくん?そんなに急いで何処へ行くんだい?」


ナリア「ナナシッ!?」


血をうっすらと頬に滲めつつ…不敵な笑顔を見せるナナシ…


その表情(カオ)は昼間見せていた善人面とは反転したものだった。



ナナシ「ごめんね〜〜〜雰囲気の良いトコロを壊しちゃって…

    でもさ?コレで良かったんだょ?キミにはちょうど良い試練だったとは思わないか?」

ナリア「し、試練だと?」


ナナシ「そうさ?この森の名は「迷いの森」…

    それは『英雄を目指す人間が心の弱さの前に夢を迷う』と言うことにあるのさ…」


ナリア「ゆ、夢を…迷うだと?」



ナナシ「そうさ?キミはさっきチャーチルの言葉に迷っただろう?

    ナーレに行きたいと言う君の心はチャーチルの前で揺らいだんじゃないのかい?
    
    彼女が懇願したら村へ帰ろうとはしなかったか?」


ナリア「 ッ!! 」



ナナシ「ははは…図星だね?それがキミの『迷い』…

    言ったじゃないか?ボクは君の夢を応援したいって…

    ボクは観光会社の社員だからね?キミの夢の的確な案内人(ナビゲータ)であるべきなのさ。」


ナリア「な、何を言って…?何を言ってるんだ!!

    例え迷っても…迷ったとしても…こんなやり方がアンタの正義だって言うのか?」


ナナシ「はっはっはっはっは…

    記憶を失っても、信念まで失ったつもりはないよ?

    そうさ!オレは『正義の味方』さ!!キミの夢を応援する『正義の味方』だよッ!!」




ナリア「こ、この野郎…ふざけるんじゃないぞ?そんなモノが正義であって…

    正義であっていいはずが…ないだろうがァ〜〜〜〜!!!」




彼の言う正義はボクの理解するものとは大きく掛け離れている…

嫌悪感から逝き過ぎた怒り…

脳が拒絶してむせ返る吐き気…



こ、こんな狂ったヤツを…

ボクは仲間にしていたなんて…

ボクがボク自身を許せないッ!!



こんなことならチャーチルの言うとおり…放っておけば…


ッ!!


自己嫌悪の中、脳裏に走った大事な存在…


その行方にボクは震えながら眼前の『正義』に問いかけた。


ナリア「さ、さっきの大きな光は…ま、まさか…キサマの仕業か!?チャーチルは?チャーチルをどうした!?」



震えながらのボクの問いかけに『正義』は歪んだ笑顔(かお)で宣告した…





















ナナシ「吹き飛ばした…」









ナリア「 ッ… 」



溢れかえる幾つもの感情はボクの思考と理性を高速で破壊…




気付く間も無く…ボクの体はナナシに向かって突進していた…



ナリア「 !!!!!!ナナシ〜〜ッ!!!!!! 」


ナナシ「暴れても無駄だ!!オレの正義が理解できないなら…この技で地獄に落ちろッ!!」


ナリア「 うわぁ〜〜〜〜〜ッ!!!」


素手のナナシは愉悦に滲んだカオのまま…両腕を大きく広げてマナ(魔力)を蓄積させていく…


毒々しい紫色のエネルギーが一気に膨張して…さっき見た壮絶な光と同系がボクに襲いかかろうとしている!!

きっとこの技を喰らったら…ボクの命はないのだろう…それでも、たとえ命を落としたとしても…

ボクはチャーチルを殺したコイツだけは…コイツだけは絶対に許すことができないッ!!

ボクの振るう銅の剣の切っ先がナナシに届く寸前…

大きな威力が放出された…



ナナシ「ソウル・デスパィア〜〜〜〜ッ…!!!」


ナリア「ッ!!」





悲鳴を上げる間も無く紫の光に…ボクの視界を奪われる…


ボクの体が…紫の光で包み込まれ…無音と共に吹き飛ばされていく…


たった一矢すら報いることができず…ボクの全てが『正義』の前に消されてしまう?







何も見えない絶望の淵…悔しさと哀しさで諦めかけた時だった…







チャーチル「こっちよ!!ナリアッ!!」



ナリア「!!」


力強い掌握がボクの手首に伝わる…暖かい…とても暖かい…


チャーチル「瞬間移動魔法!!クイック・ロードッ!!!」





……………






………


一瞬の出来事で驚きから抜け出せずにいる…


振動から遠く離れた安全な場所…迷いの森の中ということは同じだがボクの傍には息を切らせた彼女が居てくれる…



ナリア「チャーチル!!無事だったんだね?チャーチルッ!!」



チャーチル「当然よッ!この程度で私が負けるはずがないじゃない?」


笑顔を見せる彼女は完全な無傷…

着ているローブに汚れの一つもない…


チャーチル「でも、やっぱり悪人だったわね…ナナシのヤツ…」

ナリア「ごめんよ、チャーチル…君のいうとおりにしていれば…こんな事にはならなかったのに…」


そうだ…彼女の助言は的確だった。素性も知れない男を仲間に引き入れて…結果、大惨事になるところだった。

これでもし、チャーチルの身に何かあったらと思うと村のみんなにも顔向けもできない…


ナリア「うっ!?」

チャーチル「どうしたの、ナリア?まさかナナシのヤツにやられた傷が痛むの?」


痛みにうずくまるボクに駆け寄ってきてくれたチャーチルは患部に手を当ててボクの瞳をじっと見つめる…

その表情は先ほど二人きりだった時と同様に…優しさで溢れていた…




チャーチル「詠唱にかなり時間が掛かっちゃうけど…我慢してね?

      今、ヘタに動いたらナナシに見つかっちゃうかも知れないしね?」


ナリア「チャーチル…本当に迷惑ばかり掛けてごめんよ…さっきナナシに殴られてキミも痛い思いをしているのに…

    回復の水薬も焚き火の場所に置いてきて…魔力の回復も間々ならないって言うの…に…」



あ…あれ?



チャーチル「なに言ってるのよ?あなたが傷ついたなら私はいくらでも魔法を使うわ?」






な、なんだ…?こ…この…







チャーチル「すぐに回復してあげるからね?」



















この違和感は…?






チャーチル「ナリア?」





そもそも瞬間移動の魔法なんて…かなりの高等な魔法使いでなければ…できない魔法なんじゃないのか?



そんな大魔法を使ったばかりなのに…回復アイテムも無い状況で…?



チャーチルがボクに魔法を掛ける?





チャーチル「どうしたの?ナリア?不思議そうな顔をして?」



ナリア「い、いや…ナナシが襲って来たらどうしようって…」


チャーチル「大丈夫だよ…私が…ナリアを守ってあげるから…安心して…ね?」


ナリア「チャーチル…」




と、先ほど逃したシチュエーションがデジャビュの様に…眼前に…



チャーチル「 ………………… 」



しかし、ボクの心に先ほどまでの「ときめき」は無い…



むしろ…不自然な事が…いや…見落としそうになっていたことが妙に気がかりになっていった…





それも…1つや2つの疑問じゃない…




な…なんだって言うんだ…?





この罪悪感を孕んだ違和感は…?



ナリア「 ッ!! 」



チャーチル「 ッ? ナリア? 」



目を閉じて…その時を待っていたチャーチルを無視して…瞬時に間合いを開ける。




ボクが…ボクの心に問いかけてくるコレは…

完全に『真実』と『虚言』を二分する分岐点だ…



どうしても彼女への違和感が解けないと…根付いたコレを拭い去ることはできない…



チャーチル「ど、どうしたって言うの?ナリア??」



ボクは…心から信じながら…チャーチルに問いかけるしかなかった。



ナリア「ボクね…さっきチャーチルに寝ている所を起こされただろう?

    あの時にね…夢を見ていたんだ…」


チャーチル「 ゆ、夢? 」


突然の問いかけで疑問に満ちた表情のチャーチル…


あぁ…その表情が『真実』であってくれるなら…どれだけ嬉しいことだろう…



ナリア「チャーチル…キミはボクに合流した時…たくさんの魔力回復の水薬『マナの水』を持っていたね?」


チャーチル「 ? と、当然じゃない?魔法使いの私がマナの水を持ってなかったら…あっという間に死んじゃうわ!!」


ナリア「そうだね…魔法使いにとってマナは死活問題だ…でも、チャーチルは回復魔法が苦手じゃないか?

    なんで『体力回復の水薬、命の水』を一つも持ってこなかったんだ?
    
    魔物に襲われて傷ついた時、瞬時に回復できる水薬は必要なはずだ…」


チャーチル「そ、そんなの魔物から逃げながらだって回復魔法を使えるじゃない?

      私は詠唱を暗記してるのよ?
      
      私にとって『命の水』なんて旅の重りにしかならない無駄なものよ!!」

賢明な答え…でもチャーチルの挙動は少し不審…

大好きな女の子に、まだこんな質問を続けなければならないボク…

な、なんて嫌な気持ちになるんだろう


ナリア「そうか…じゃ、2つ目の質問だよ?

    さっきナナシに襲われたよね?ボクは途中で見失ったけど…
    
    あの時はダメージを受けなかったのかい?」



チャーチル「な、何言ってるのよ?私がナナシに顔を殴られたところは見たでしょう!?

      あの後だって何度か殴られて…大変だったんだから!!
      
      挙句にあんな「大技」を使われて…もうちょっとで死ぬところだったんだから!!」






ナリア「 ………… 」






最悪だ…

心の中で膨らんでいた不安が完全にボクの心を包み込んでいく…





ナリア「それじゃあ…なんでキミは今…無傷なんだよ?」



チャーチル「 えっ? 」




ナリア「だっておかしいだろう?回復魔法が苦手なキミが…殴られたはずの頬が綺麗じゃないか…

    たった数分にも満たない時間でどうして『完全回復』できるんだよ!?」



チャーチル「そ、それは簡単よ?だって私…月光のローブの内ポケットの中に…

      旅の途中、あぁ…「せきらく」って行商人だったっけ?
      
      あの人から買った「命の水」を1本だけ入れていたのよ!!」



1人きりの時には1つとして体力回復の水薬を持っていなかったチャーチルが…

旅の途中で「月光のローブ」の内ポケットに?


必死の表情に…必死の言い訳…


違和感が猜疑心に変わり…完全に疑問へと変わっている…


ナリア「 …………… 」



これでボクからチャーチルへの質問は最後になる…

彼女はいったい…なんと答えるのだろうか?


最後の問いかけに…どう答えてくれるんだろうか?



ナリア「チャーチル…キミが今…着けている指輪は…」



チャーチル「サ、サファイアリングの事?これはナリアも知ってるでしょ?

      ママに13歳の誕生日に買ってもらったものよ?」


ナリア「そうだね…ボクもその話をしていたときの事を夢に見たんだ…

    今来ている…月光のローブは…」



チャーチル「バカね!!これは去年の誕生日に買ってもらったものでしょう!!

      一体、何を聞きたいって言うのよ、ナリアは!?」



ナリア「そうだね…知ってる…『知っている』よ…

    ボクはその事を全部…知識(し)っていたんだ…」






チャーチル「ナリア…?」






歯を食いしばった…






ボクはこれから大好きな女の子を前に…目一杯疑った質問を投げかける…






これにすぐ答えてくれないのならば…




きっと…





きっとボクは……












チャーチル「何よ!さっきから私の事を疑って!!

      言いなさいよ!!聞きたいことがあるなら何でも答えてあげるわ!!
      
      『あなたと私の思い出に答えられないことなんて何も無い』のよ!!!」






ナリア「それじゃ…聞くよ?チャーチル…」








チャーチル「 何?聞いてみてよ? 」






自信満々の表情でボクの口元を見守る彼女…





ボクは問いかけた…































ナリア「『今年の誕生日には何を貰ったんだい』?」
































チャーチル「 えっ? 」









瞬き…

吹雪を受けた様に凍る彼女の表情(かお)はボクを絶望に落とすには十分だった…






















チャーチル「えっ?そ、それは…え…えと…あ…あのね?

      ママに頼んでた…あ、アレだよアレ!!魔法使い用の…え、えっと…
      
      な、なんだっけ?あ、アレだよ…あの…ミースモデルの…」




完全に混乱に陥るチャーチル…


その姿はあまりにも滑稽でいて…バカらしくて…ボクの心を打ち砕く。


ボクが彼女に掛けた質問…


それは…



ボクは知らなくて…彼女だけが知っていなければいけないこと…



知っていて当然ですぐに答えられる事なのだ…



それなのに…今、彼女は…汗を垂らしながら自分の体を触り続け、答えを探そうとしている…



タネの推測ができたボクには、この「まがいもの」の動作はあまりにも滑稽だ…



コイツはボクの知っているチャーチルのことだけは完全に再現させている…


何が目的でこんな悪趣味な事をしていたのか分からないが…


きっと魔法か何かでボクの記憶からチャーチルという存在を演じていたのだろう…





チャーチル「あ、アレはね…実は旅の途中で落としちゃって…?

      だから私は…哀しくって…ほ、本当よ?
      
      アレがあったら…もっとナリアの役に立てたのに…」



いまだにバレていないと思っていてか、演じるのをやめない「まがいもの」…


それでも…ボクは気付いてしまった…




旅の最初…アレムと言う戦士に掛けられた…あの言葉…



アレム「1つ目は…真実と虚言に翻弄されるということ。


    2つ目は君の甘さゆえ、命に危険が及ぶということ。


    3つ目は…信じない勇気が要る事もあるということだ。」




見事に「真実と虚言」に翻弄された…


そして甘さゆえ…「まがいもの」を最後まで信じ…更に今、この場で対峙している…


チャーチル「ね、ねぇ?し…信じてよ…ナリア?」






最後の助言…




それは…信じない勇気…





ボクはずっと信じていた…ずっと…信じていたかったんだ…




でもそれは……




チャーチル「私は…私はあなたの事が…大好きなんだよ?」



信じちゃいけないこと…






そうだ…









ボクは…最初から…









一人だったんだ…



















ボクは…


チャーチルと…旅をしてはいなかったんだ…


チャーチル「 …………… 」


信じない決意を抱いたボクの瞳に映るのは…あまりに悪辣な虚偽…



幼い頃からずっと一緒で…何度も何度も肌を触れ合わせて遊んだチャーチルが…



目じりを落とし…歪んだ笑顔で言った…





チャーチル「はぁ…ヤッちゃったナァ〜〜〜〜ッ!!」


ナリア「 ッ!! 」




無造作に脱ぐ『月光のローブ』…

不躾に外した『サファイアリング』…

その二つを地面へと叩き付ける様に投げ飛ばす…!


それは音も立てず、瞬時に紫の煙へと変貌…

チャーチル「まったくもうッ!!あと少しでヤレルと思ったのに!!」

有価値から無価値への還元…

全てを投げ捨てての吐露…

ボクの記憶に描かれ続けている純真な存在の彼女…

それが目の前でグチャグチャに弄ばれ、反転された容姿に堕とされる…


チャーチル「何よ?ナリアだって本当はシタイと思ってたんでしょ?

      あんた顔はいいから「もう少し先までヤラセテあげてもいいかな?」
      
      って思ってたのに?」





下卑た言葉を口にして…着ている服の胸元のボタンを引きちぎった…


胸元を覗ける様に服を着こなすチャーチル?


ボクの中には存在しない彼女…



それでもチャーチルの顔をした「まがいもの」は…淫らにして楽しそうに一歩、ボクに近寄った。



????「まぁ、本物でも偽者でも気持ち良ければいいでしょ?

     私のキスは「絶望と希望の狭間に揺れる若者の魂」を抜き取り…
     
     体の中に閉じ込めることで力に変えることができるのよ。」


ナリア「な、なんだと?た、魂を抜き取るだって?そ、それじゃ魔物の類なのか?キサマはッ!!」


????「うふふ…出会った頃のナリアは色々と足りなかったからイタダケなかったのよ?
     
     でも今ならイイ具合に成熟してる…
     
     私の中にイれてあげるわ?ねぇ?ナリア…」


ナリア「それじゃッ…さっき大技を使ったナナシは!?」



????「当然ワタシよ?魔法を放出した瞬間にチャーチルの姿になってナリアを助けてあげたのよ。

     あ!そうそう!ワタシを襲ってきたナナシは、あの魔法で普通に吹き飛ばしちゃったけどね〜……」


と、チャーチルの顔をしたソレは…

さも可笑しそうにケタケタと笑いながら…

紫色の光をうっすらと掌へと留める!!


歴然な力の差…蛇に睨まれた蛙とは、正にこの事だ…







ナリア「あの1発目の光ッ…?ほ、本物のナナシは…やられたって言うのか!?」


????「うふふふ…あんなオトコの事なんて知らないわよ?

     運が良ければ骨ぐらいは残ってるかもしれないけどね☆
     
     でもアナタにはそんな酷い事はしないから安心して…
     
     私の愛で包み込んであげる…」




そう言って…紫色の光を無数の糸に変えると体へと纏っていく…

幼虫がサナギになるように…

その姿を包み込むと…サナギとなった中央から軋む音と共に亀裂が!?

チャーチルからいったいどんな姿へと変貌するんだ?









????「サナギを破って蝶は舞う…ッ!!」



ナリア「 …ッ!? 」





そ、その姿に絶句!!!



ナリア「う…あぁぁ…」





サナギを破って露わにしたその姿は!!

長身210cmはあろう体型にして…筋肉隆々!!!


にもかかわらず、さっきまでのチャーチルの服装とまったく同じ!!


人相は顎が割れ、隈取りに髭が頬までダンディーに生えている!!

ポマードで極めたオールバックで髪型だけが紳士的!!


僅かに覗かせていた胸元はもっさりした胸毛が溢れている!!


魔法使いというより「土方の兄貴」と言わざるをえない風貌!!



にもかかわらず!!にもかかわらず!!!



『お姉さま言葉ッ!?』




やべぇ!!!ヤヴェよッ!!!




『コイツ!!真性だよ!!』



ボ、ボクの「危険感知警報機」が最大出力でサイレンを鳴らしてるよッ!!!




ナリア「お、おあえ…おま…うぇ……おまえっ!!オトコだよなァッ!!!」




????「うふふ…ここを1人で通る若者は大抵が男でしょ?

     気付いたらこんな言葉遣いと性格になっちゃったのよ?」







ナリア「う、うわぁ〜〜〜〜ッ!!!」


ボクは全力で…チャーチルだった真の変態から背を向けて逃走した…





よかった!!偽者でも…1回だけならキスしてあげても良かったかな?なんてちょっと思ったけどッ!!!



ほ、本当にしないでよかったァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!








グラス「うふふ……バカね、ナリア?わざわざ私がここまで誘ってあげた理由が分からないのかしら?

    ここは私のテリトリー…迷いの森よ?

    2級賞金首(セカンド・クラス)No.40 「誘惑の吸魂魔 グラス」がヌイてあげるわ…
    
    81人目の魂をね…」






………………










………









さ、最悪だ!!今日は人生で一番最悪の日だ!!






ボクの今日の運勢を細木○子あたりに見てもらったら『あなた、死ぬわ…』とか言われそうな勢いで最悪だ!!





なんだってボクの旅には女ッ気が全然無いんだ!!




ボクはこのお話の主人公だろう?

だったらカワイイ女の子とか綺麗なお姉さまがサポートの一つや二つッ!!

いや!むしろエッチなサービスの一つぐらいあったって罰は当たらないだろッ!?



それがなんだよ?アレは!?



オカマッ!?オカマは無いだろう!?



しかもそれが賞金首だって!?


外の世界に目を向けるのはッ!!もっと考えてからのほうが良かったのかッ!?




と…後悔の念に駆られながら懸命に端々から生える草をかき分け、獣道を駆け抜ける!!



こ、ここを抜ければ確か焚き火をしていた場所へいけるはず!!!




ナリア「よ、よし!!抜けたぞッ!?って…?」




しかし…

ボクは荷物を取りにきたのに…元居た場所には荷物はおろか、回復アイテムの1つも無かった…



ナリア「そ、そんな?ボクのアイテムが??」


????「お困りのようですね、ナリアさん?」



ナリア「あ、あなたは!?せきらくさんですか?」



ふと、当然のようにそこに現れたのは以前、偶然通りかかった行商人せきらくさん。


せきらく「あらら?置き引きにでも遭われましたか?この辺は盗賊じみた魔物が多く生息していますからね。

     お困りのようでしたら私が又、命の水を売って差しあげますが?」



と、せきらくさんは親切にも…ボクに命の水を渡してくれる!



ナリア「あっはっは!あなたにまた逢えるなんて本当にラッキーですよ!これって50ドニアでしたっけ?」


せきらく「えぇ!よろしければ3本までなら売って差し上げますよ?」


と、その言葉に甘えて彼に150ドニアを手渡した…






ナリア「いや、ありがとうございます。本当に助かりましたよ〜〜」






せきらく「そうですか?喜んでいただいて何よりです。ささ…体も傷ついているようです。

     ぐぐ〜〜〜っと、一本イッて下さい。」




彼のその言葉に誘われて…ボクは命の水の栓を抜いて…




ナリア「いっただきま〜〜〜す!!」





その薬を…




















3本とも…おもっくそ!!せきらくさんの顔面に投げつけた!!



ナリア「飲むわけないだろぉが〜〜〜〜ッ!!!この「まがいもの」めッ!!」



せきらく「ギャワ〜〜〜〜〜ッ!!?」



ナリア「ふざけるなよ!!数日前に反対方向に歩いていったせきらくさんがッ!!

    こんな場所に居るわけが無いだろうが〜〜〜〜!」





グラス「ちぃっ!!策士ね?あなた策士ねッ!?

    騙されたふりをして演技するなんてッ!!私を騙すなんて酷いオトコッ!!!」



と、せきらくさんの姿が紫の煙に包まれると210cmの筋肉オカマがヨヨヨヨ…とハンカチを噛み締めながら泣き崩れる…


あいつもしかしてッ!脳みそまで筋肉で出来てるんじゃないのか!?


いくらボクでもあんな手に引っかかるわけが無いって言うんだ!!!



ナリア「逃げ切ってやる!!ボクはッ!!絶対に逃げ切ってやる〜〜〜〜ッ!!」


グラス「あぁあ…いずこへェェ〜〜〜〜ッ!!!」



逃走するボクに手を伸ばすグラスを当然無視して、再度全速力で駆け抜けた!!




だけど困ったぞッ!!荷物の中に地図が入っていたのに!!


い、いや!!よく考えたら、地図にボクが今居る「迷いの森」の道は記されてはいない…




どう進めば森を抜けられるか…まったく分からないよ?



でも…ここで足取りを緩めるわけには絶対にいかない。

あんなヤツの餌食になる気はないっていうんだ!!



ナリア「くそっ!とにかく獣道に沿って走るしかない。そうすれば、きっと森を抜けられるに…出られるに違いない!!」



一心不乱にただ走るしかなかった…

それが凄く哀しかった…


何もかもが信じられなくなって…

ただ目に映る道を懸命に走るという選択肢しか選べない自分…

それが悔しくて仕方が無かった…


あんなバカな「まがいもの」だけど…ボクに向かって放った魔力は尋常なレベルじゃない…

1:1で戦いを挑んでも勝てる気が全然しなかったんだ…



何処かから襲われないかと神経を巡らせれば…風の音ですら恐怖を感じる。

ガサッっと…

ナリア「 ッ!? 」

耳に聞こえた物音に草陰からグラスが襲ってくるのでは?と怯え…


野うさぎ「≡゚▽゚)? 」

その正体は何者でもない…ただの野うさぎだったり…





また、影の奥にきらりと動く光に恐怖を感じ…

ナリア「 ウゥッ!? 」


アッピー「 gyu? 」


アッピーと確認できれば僅かな安堵に生を感じる…


ナリア「 い、いやだ!!こ、こんな状況…何も考えられないよ!!! 」


グラスの脅威、迷いの森の威圧感に…ボクの精神状態はドンドン追い込まれていった…



そんな時!!


ナリア「あ?あぁ!!」

登りの獣道の向こうに木々が消えているのが見える!!!


ナリア「や、やった!!これで!!これで完全に逃げ切れたぞ!!迷いの森を抜けられる!!」


心に差し込む希望はボクに大きな力を与え、走る速度に勢いを増させた!!


ナリア「あ、あとちょっとだ!!」


木々からの開放!!その風景がドンドン視界に大きくなる!!

望みを心に昂らせて…ボクは森から脱出を…

ナリア「うぎぃッ!!?」

出来たと思った瞬間だった!!


????「 …………… 」






何者かに首を後ろから掴まれて…






ナリア「う、うわぁ〜〜〜〜ッ!?」


目一杯…走ってきた道の方へと投げ飛ばされたのだ!!


????「 …………… 」



地面に激突する瞬間…受身の一つも取れずに衝撃が体中に走る。

下り坂で転がる体は止まらず…その擦れる痛みはボクを再度、絶望に陥れる…


地面の土に爪を立てながら見据えた先には…


ナナシ「 …………… 」


飄々とナナシが風を受けて、たそがれていた…


ナナシ「 …………… 」


ナリア「くっ!!くそっ!!ボクを迷いの森から出さないつもりか!?

    でもな!もうボクは誰にも騙されないぞ!!」


ナナシ「 ……… 」


怒声を上げるボクにナナシがゆっくりと顔を向ける。


その雰囲気は昼間に見たものでもなく、また先ほどグラスが化けていた時のものとも少し違って見えた…


何故だ!?ボクには今まで一緒に接してきたナナシとは思えない!!


ナナシ「知ってるかい?この森がどうして「迷いの森」と呼ばれるかを?」


と、ボクに声を掛けながら歩み寄る。


ナリア「 な、何?さっきお前が言っていたじゃないか!!

    『英雄を目指す人間が心の弱さに夢を迷う』って…? 」



んっ?いや、待てよ?でも、この質問は…?ナナシの姿をしたグラスだったよな?

と、とぼけているのか?

ナナシ「確かにそれもあるよ?でもね…理由はそれだけじゃないんだ。

    コッチに来てごらん?」

ナリア「う…うぅ?」

と、ナナシは寂しそうな笑顔を見せながら…満身創痍のボクの腕を優しく持ち上げる。


ゆっくりと登り坂を登り切るとその向こうを見せてくれた。



ナリア「うっ!!うわあっ!!」



その景色に絶句!!

登り切った先には道はなく…断崖絶壁!!



遙か下方に見える地面は墜落すれば命の一つもあったものじゃない!!



地平線まで伸びる木々はまだまだ迷いの森が続いているのだと簡単に一望できた…



ナナシ「この「迷いの森」は殆ど人が訪れない…だから道なんて出来てもすぐに草で覆われてしまうんだ…

    それでも人はこの森を抜けようと足を踏み入れ…道を作っていく…
    
    その後に続いて人はその道の上を歩いていくんだけど…前に道を作った人が正しい道を作ったかわからないだろ?
    
    この道の様に断崖へと続く物もあるんだ…」


ナリア「じゃ、この道は…」


ナナシ「先にこの道を作った人は…この崖から墜ちたという事だよ…

    迷いの森に巡る道…それが正しいか間違いかもわからない…
    
    場合によっては魔物が作ったものかも知れない…
    
    だから誰もその道を記せないんだ…
    
    それが「迷いの森」の正体だよ…」



と、寂しそうに崖の底を見つめながら目を閉じる…


ナナシ「キミは何故、この道を走っていたんだ?

    月や星の明かりですら…たまにしか零れてくれない様なこんな夜に?」


と、不思議そうな表情を見せるナナシだが…

ナリア「えっ?それはナナシが一番よく理解して…?」

その質問にボクの表情も疑問で溢れる。



それでもナナシは言葉を止めずにボクに言った…



ナナシ「キミはこの道の先に何を見たんだろう?」


ナリア「ボ、ボクは…」


ナナシ「覚えていてほしいんだ…「迷いの森」には『逃げ道』は一つもないんだよ…」



ナリア「 ッ!! 」



優しく語り掛けるその声はボクの心に深く突き刺さる…




ただ何もいえず…ボクは唇を噛み締めるしかなかった…






そんな静寂の中、草陰から一つの影が…?





後ナナシ「だ、大丈夫か?ナリアっ?って…きさま!何者だ!?」




前ナナシ「何者?そういう貴様こそ…オレのカッコして何者なんだ?」


ナリア「うっ!!ナ、ナナシが二人いるだと?」


困惑の光景にボクの体が二人から遠ざかる!


確実に1人は本物で!!1人はグラスだろ?これは!?


後ナナシ「そうか!貴様、やっぱり魔物だったんだな?チャーチルの姿の次はオレか!?」


前ナナシ「 …………… 」


ボクに断崖からの風景を見せたナナシの顔が少しずつ冷静な表情へと変化していく!!



正直ボクも鏡を見ている様で…どちらが本物か全くわからない!!


片方のナナシはボクの知っている雰囲気のナナシで…


片方のナナシはボクの知っている雰囲気のナナシじゃない!!



ボクの記憶から人物を模倣するグラスの能力…


それがバレていると知っているグラスなら冷静でクールな表情の一つも見せるだろう…

でも、このクールなナナシは…あまりにも雰囲気が違いすぎる!!

これだけ雰囲気を変えるなんて…本当に本物?


後で現れたナナシも今までの状況を何も理解していないなら…十分本物と…?


後ナナシ「貴様!正義の名の下に倒してやる!!」



前ナナシ「お前が正義だと?ふざけるなっ!!人の真似なんかしてっ!!」


だ、ダメだよ!!もう混乱してて脳が回転してくれないよ!!


と、2人の姿を見守りながら慌てている時だった…





アッピー「 gyu? 」


野うさぎ「 (=゚▽゚)? 」



草葉の陰から、アッピーと野うさぎが現れた!!


前ナナシ「 へぇ…こんな所にアッピーと野うさぎなんて珍しい… 」


後ナナシ「そうだ、ナリア!オレが本物だって証明してやるよ!!知ってるだろう?魔物と戦わずに済む方法さ!!」


前ナナシ「 …? 」


ナリア「 !! 」


そうだ、迷いの森に入ってからの行動で彼が教えてくれた事!!

戦いにおいて…自身だけでなく、「 罪のない魔物を退ける優しい方法 」を彼は知っていた。


アッピーを見て…すぐにソレを実践する彼なら…本物かも知れない!!



後ナナシ「んッ…トゥトゥ〜〜〜………オッか〜〜〜を〜〜〜こえ〜〜てぇ〜〜ゆ〜〜こョぉお〜〜〜」

あの時と同じ唄をボクの前で披露してくれた!!


すると!!


アッピー「gyu〜〜〜?」

野うさぎ「 (=゚▽゚) ?」


アッピーと野うさぎは歌うナナシを見つめて…?



後ナナシ「まぁ〜〜〜す…みぃ〜〜のそらはぁ〜〜〜」



アッピー「gyu〜gyu〜gyu〜〜 gyu〜!!〜」

野うさぎ「 ヾ(^▽^=≡=^▽^)シ 」



ナリア「ア、アッピーが楽しそうに歌い出してッ!野うさぎが踊り出した!?」



想像していた光景とは全く違う物にボクの理解が及ばない…


唄を歌うナナシを見つめていたクールなナナシは、ゆっくりとアッピー達に近寄ると…


前ナナシ「おいで…怖くないよ?」


アッピー「gyu〜〜〜!!」

野うさぎ「 ⌒ ⌒(=゚▽゚)つ」


ナリア「そ、そんな!?アッピー達の方から抱きついてきただって!?」




後ナナシ「そ、そんな?なんでだ?なんで逃げないんだよ!?」


前ナナシ「アッピーと野うさぎの1対で行動している場合は限りなく珍しい…

     人にも危害を一切加えることなく、ナーレでも『幸福の象徴』として扱われているんだ。

     ただ優しく微笑むだけでも近寄ってきてくれるって…知らなかったのか?」


後ナナシ「うっ!!うぅぅ…!!」


す、すごい!!動物と魔物…そして人間が共に手を取るこの光景!!


これで見えた…どちらが本物のナナシさんで…醜悪なグラスかが…



これでボクは安心して声を掛ける事ができる…


ナリア「よかった、あなたが本物のナナシさんなんですね…」

と、笑って近寄ろうとしたが…

彼の口から出てきた言葉は…再度ボクを混乱させる物だった…


前ナナシ「 いや?オレはナナシなんて人じゃないぞ? 」


ナリア「 えぇっ!? 」


後ナナシ「 !? 」


ボクはおろか後から現れたナナシも驚きの表情を露わにする!!



後ナナシ「な…何を言っている!?キサマが…キサマがナナシでなければ…誰がナナシだというんだ!!」


ナリア「 ッ!!じゃ、お前はやっぱりグラスッ!! 」

後ナナシ「はぁうぁ〜〜〜ッ!!策士ッ!この策士どもめッ!!2度もワタシを騙すなんて!陥れるなんてェッ!!」


と、後ナナシが思わず吐いたその言葉…


同時に紫色の煙に包まれ…オカマが地に崩れる姿に真実が1つ見える!


し、しかしそれじゃ…



????「ふんっ!オレのマネなんかするからそういう事になるんだ!!」



ナリア「そ、それじゃ…それじゃぁ…」



グラス「アンタは一体ッ!!何者なのよ!?」


????「何者…だと?」

アッピー「gyu〜〜〜?」

野うさぎ「 (=゚▽゚) ?」


ボクとオカマの疑問をその身に受けると、淡い笑みを見せながらフワリと身を翻す!!

その姿は自称とはいえ…「正義の味方」と断言していた人物のソレを感じさせる…



????「ある時は観光会社の社員!!」



アッピー「gyu!」

ナリア「 !! 」




????「又、ある時は部長専用のパシリ!!」



ナリア「 …………… 」

野うさぎ「 (=゚▽゚) 」




なんか格好悪い…





????「しかして!その実態はァ〜〜〜ッ!!」







グラス「な、何者なのッ!?」


























緊張の一瞬…グラスの問いに大声で自称、正義の味方は答えた!!!



























????「 !!!!!!キサマに名乗る名など無いッ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!! 」

アッピー「gyu〜〜〜!!」

野うさぎ「 (=゚▽゚)b 」


ナリア&グラス「 !!?えぇぇ〜〜〜〜〜〜ッ!!? 」



ナリア「ちょ?そ…そこまで引っ張っておいて!?」


グラス「何よ!!なんで名前を教えてくれないのよ!?」


????「やかましい〜〜〜〜〜ッ!!!」


と、名称、匿名希望の男はグラスの顔面に渾身の蹴りを喰らわせ…210cmの体格を吹き飛ばす!!


グラス「グフォォ〜〜〜〜ッ!?」


アッピー「gyu〜gyu〜gyu〜〜 gyu〜!!」

野うさぎ「 ヾ(^▽^=≡=^▽^)シ 」


ナリア「な、なんだ?この人は!?」


問答無用の攻撃!!その思い切りの良さは相手を微塵も気遣っていない殺意がこもった一撃!!


グラス「な、何よ!?魔物にでも優しさを込めていたあなたが…ここまで殺意を込めて…

    ワ、ワタシがオカマだから?オカマだからっていう事なの!?ソレが理由ねッ!!」



両方の鼻の穴から血を勢いよく噴出しつつ、怒鳴り上げるグラス…


それを見つめ…蔑んだ目を向けながら匿名希望の男は言う…



????「お前、勘違いしていないか?

     オレはお前が「オカマだから」とか
     
     「魔物だから」という理由でぶっ飛ばしたんじゃないぞ?」


グラス「えっ!?そ、それじゃ一体…?」

アッピー「 gyu 」

野うさぎ「 (=゚▽゚) 」

ナリア「 ……………ゴクッ… 」

生唾を飲み、言葉を待つボク…

彼がグラスを問答無用で蹴り飛ばした理由…













それは…





















????「お前が「気持ち悪い」から…ぶっ飛ばしたんだ…」

ナリア「あぁ…なるほど…」

アッピー「 gyu! 」

野うさぎ「 (=゚▽゚)。_。) 」

と、爽やかな笑顔を見せつつ…同意で頷くアッピーと野うさぎをグラスから遠ざける素振りを見せる!!

なんだかこの光景は「教育に悪い人から子供を遠ざける母親」を見ているようだ…

うん!確かにボクもその意見に関しては何も異論はありません…


グラス「キィィィ〜〜〜〜〜〜ッ!!ア、アンタ達…本当に死にたいようねェ〜〜〜ッ!!」

????「 ッ!? 」

匿名希望の男の言葉に興奮したグラスが立ち上がりざま…同時に魔力を放出…

ナリア「うわっ!?こ、この地鳴りはッ!!」

まさに怒髪が天を抜く威力をボク達に見せ付ける!!


アッピー「gyu〜〜〜!!」

野うさぎ「 ⌒ ⌒(;゚Д゚)つ」


幸福の象徴のアッピーと野うさぎ達もその姿に身の危険を感じて本能のままに逃げ出した!!



グラス「ワ、ワタシがッ!!ワタシが2級賞金首(セカンド・クラス)No.40 

    「誘惑の吸魂魔 グラス」と知っていて…ヤッタ事でしょうねッ!!
    
    もう許さないわよアンタ達ッ!!ワタシをここまで怒らせた罪ッ!!
    
    その骨をヌイてワタシの虜にしてあげるわァァ〜〜〜〜ッ!!」



????「セ、セカンド・クラス…?」


ナリア「 ッ!! 」



賞金首の威圧感がボクにも同時に襲い掛かる…


これだけの魔物を前に堂々と立ち振る舞った匿名希望の男は賞賛に値するが…


実際、この後どう戦うのだろう?




ボクのレベルじゃ精々足手まといにはならない程度には戦えるが…


所詮はサポートぐらいしか出来そうにない…


????「そうだったか…だとすれば…オレが取るべき手段はただ一つだ!」



と、言って!!





匿名希望の男はドコから取り出したのか?大きな果物かごを取り出したぞ!?













????「も、もし失礼でないのであれば…このりんごを詰めた果物かごで…お詫びしたいのですが…?」








ナリア&グラス「 !!!!!!!!!!!ふざけるなぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!!!! 」



ボクとグラスとでは怒りの意味合いはまったく違うがボケた男へ同時に罵声を浴びせる!!


ちょ…マジでこれ…最悪の展開じゃないかッ!!



????「知らへんかってんや!!アンタがセカンド・クラスなんて全然知らへんかってんや!!

     そんなん!物凄ぉ強い魔物って知っとったらッ!!俺1人で逃げるに決まってるやんかッ!!!」



って、何を逆切れ気味に大声で信じられない事を言ってんの〜〜〜〜ッ!?


あんた…自称とはいえ「正義の味方」だろ!?それが何だ??


自分1人で逃げるだと!!?


????「ごめんなさいッ!!手遅れでないならこの男を置いていきますから!!

     そうだ!アンタが欲しいのはイイ男の魂なんでしょ?
     
     たまたま持ってた雑誌「Han○ko」もあげます!!
     
     これ「イイ男特集」が載ってるんです!!参考にしてください!
     
     これで誠意が足りないならこれから先、この森に入ってくるバカな男どもの魂を
     
     ドンドン吸い取っちゃってください!!
     
     オレはソレを情報操作して違う人の責任にもします!!あなたを庇い続けます!!
     
     だから!だから…オレの命だけは〜ッ!!」


と、情けないほど体をブルブルと震わせながら大粒の涙をボロボロ流す「エセ・正義の味方」…!!!


ダメだ…


最低だ…


最初は推測だけど…強くて頼りになるとか思ったけど…こんな最低なヤツだったなんてッ!!


グラス「ふん!!ワタシの強さが解った様ね?

    そう?私が怖いの…?でもね?ワタシは同時に優しい存在でもあるのよぉ〜〜〜?」



と、筋肉隆々のオカマは腰をクネクネと振りながら自称、正義の味方へと近寄り…

ゆっくりと果物かごのリンゴを取り上げた…



グラス「うふふ…消えなさい…そしてアナタは二度とこの森に近づいちゃダメよ?

    私が好きなのは『希望と絶望が混じって…夢に迷うイイ男の魂』なの?
    
    アナタみたいに『不幸と貧乏が混じって…人生に迷うダメ男の魂』じゃないの?
    
    ワカルわよねぇ…?」

????「解ります!!そりゃやっぱり夢見るイイ男は最高ですもんね!!

     よっ!!このオカマの中のオカマッ!!」


と、閉じた扇子でデコを叩きながらグラスの機嫌を取りまくる…


グラスは手に取ったリンゴを大きな口で…1個丸ごと蛇のように一飲みすると…



大きな罵声を浴びせた!!






グラス「!!!!! さぁ!!私の機嫌が変わらないうちに消えなさい〜〜〜〜ッ !!!!!」





ビリビリと声の振動がボクの体に衝撃を与える!!!





その言葉に敏感に反応して…自称、正義の味方も行動を起こした!!

















????「お前がッ!!消えろォ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」


グラス「ギャワワ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


と…自称、正義の味方の蹴りが再度グラスの顔面にクリーンヒットしたッ!!!


ナリア「ふ、不意討ちの次は…だまし討ちッ!?」



????「バカ野郎がッ!!お前みたいなオカマに誰が屈するって言うんだ!!

     正義の味方をなめるなよ?正義の味方をッ…なめるなよ〜〜〜〜ッ!!!」


と、顔面を押さえながら地面に転がり込むグラスに対して追撃に次ぐ追撃!!?

更に!傍に落ちいていた大きな石で何度も何度もグラスの後頭部を狙う!!?




いや!!アンタの方が「正義の味方」をなめるなよッ!?




ドコの世界に不意討ちの後にだまし討ちをして…

挙句、地面でのた打ち回るヤツに石で止めさすって言うんだ!?


カルチャーショックで絶句な情景の中、「自称、正義の味方」がボクに呼びかけた…



????「な、何をボーっと見てるんだ!?早くッ!!早く手伝って!!

     今が一番の…一番のチャンスなんだぞッ!?」


うわっ…いくら賞金首相手でも…そんな事を手伝えって言うのか?


でも、確かにコイツはボクの命を奪おうとした気持ちの悪いオカマだ…

他の人がコイツの餌食になると思えばヤッタ方が世の中のためだろう…


ナリア「わ、わかった!!凄く気分が悪いけど…手伝うよ!!」


????「よし!!ナイスだ!!ドンドン攻撃して!!ココだ!!ココを集中的に狙うんだ!!!」


と、ボクに見せるように渾身の力でグラスの後頭部へ石をぶち当てる!!


やらなきゃいけないって、頭では理解しているとはいえ…

なんだかコレはとっても悪い事をしているような気になるんだが…


グラス「いやぁ〜〜〜っ!!やめてッ!!後頭部はやめてッ!!

    なんで後頭部ばっかり狙うのよぉ〜〜〜ッ!!」


????「やかましいッ!!うまく当たっても!!ヘタに当たっても!!

     大ダメージが与えられるからに決まってるだろうが!!!」


と、腕で後頭部を一生懸命ガードしようとするグラスだったが妙にボクの攻撃や石攻撃がヒットする!!?


グラス「ぐぅぅ〜〜〜…は、反撃したいのにッ!!体がうまく…動かない?」



????「はっはっは!!バカめ!!最近になって水都ナーレで売り出されている『禁断のリンゴ』を知らないようだな?

     コレは食べたら体力が減っちゃう毒みたいなモノなんだよ!!
     
     落ちていたからって食べたら死ぬ可能性だってあるんだぞ!!」



ナリア「えっ!?だまし討ちした後に不意討ちをして!!更に毒まで盛っていたんですか!?」



????「そうさ!!見事なコンビネーションだろう?」


ナリア「もう…なんと言っていいか…」


????「もっともオレもコレを食べて数日間…生死の境をさまよったけどねッ…」

と、爽やかな笑みを見せつつ…白い歯を光らせる…


ナリア「あんたも…食べたのかよ?」

感心していいのか軽蔑していいのか最早わからない…


グラス「ゴブラァァァ〜〜〜〜〜ッ!!デメェラッ!!いいがげんにじろぉぉ〜!!!!」



ナリア「うわぁ!!立ち上がった!?グラスが立ち上がった!?」


????「よ〜し!!こっちだ〜〜〜〜!!!!」



と、痛みと屈辱で動けないグラスを残して…


匿名希望の正義の味方はボクの腕を掴みながら森の闇の中へと姿を消した…






……………


後編へ続く(*´▽`)シ